郷愁

風の匂い

 フツフツと寸胴鍋の中でお湯が踊る。

 タイマーをかけて乾麺を投入。

 ほどなくほどけたうどんになりお湯にからまり踊り出す。

 プクプクと出てきた泡が表面を覆うと次第に迫り上がってくる。


「おっと」


 換気扇のスイッチを押す。

 微かなモーターの回転音と沸騰したお湯とうどんのコラボレーション。


 フツフツ コー フツフツ


 まだ迫り上がる泡…


「少し足りないか」


 ほんの少し窓を開ける。

 小春日和の昼下がりの乾いた風が寸胴鍋の熱気をさらう。


 ヒヤリと頬を撫でる風は思い出の匂いがした。


 (うどんを茹でる時はね、吹きこぼれそうになったらお水を入れるの。これは差し水って言うのよ)


 消えた泡の下から繰り出すうどんのダンスを見ながら、しばしノスタルジーに浸る。


 母に仕込まれた料理だけど、自分なりのやり方も習得したんだよ。

 麺を茹でる時の吹きこぼれは風を入れると防げるって母に教えてあげたかったな。

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