第四十三話 瓦解する精神
≪星≫の少女、
廃墟に、ふたつの悲鳴が響く。
≪女教皇≫の少女、
≪教皇≫の少女、
僕は必死で刀の軌道をそらそうとしたが、すでに遅い。
刀は振り抜かれ、≪星≫の胸からは大量の黒い粒子が流れ出していた。
倒れこむ≪星≫。
僕は、≪灼熱刀≫を手放した。
思い出さずにはいられない、≪皇帝≫との闘いを。
あの時の手応えを、思い出してしまった。
呆然とする僕。
「お、おまえぇぇぇええええええ!」
≪教皇≫が、十字架を失った大剣の柄を捨てて飛びかかってきた。
武器もスキルも使わない、単純な拳による殴打。
しかし、あの大剣を振り回していた腕力は凄まじい。
僕は、顔面に直撃を受け、その場へ倒れこんでしまった。
「絶対にゆるさないっ!! 美沙都さまを、美沙都さまをっ!」
声から、マスクの下で彼女が泣いているとわかった。
≪教皇≫の少女は僕に馬乗りになり、次々に拳を叩き込んでくる。
両腕で防ごうとするが、顔を守れば腹を殴られ、腹を守れば顔を殴られた。
一発一発が、重い。
脳が揺さぶられ、意識が混濁してく。
「花!」
そこで、先に落ち着きを取り戻した≪女教皇≫の少女が声をあげる。
「止めないで、雅さん!! だってこいつっ!! 美沙都さまを……っ!!」
「花、聞きなさい!」
そこでようやく、≪教皇≫の殴打が止む。
「美沙都様は、まだ霧散してはいません。
「美沙都さま……生きてる……?」
「はい、思考はひどく濁っていますが、貴女の力ならばまだ間に合います。この男の処遇は私に任せて、はやく美沙都様を」
「み、美沙都さまっ……!」
≪教皇≫の少女がが僕の上から離れ、マントを引き摺りながら≪星≫の元へと向かう。
「美沙都さま……っ。≪
滑るように
衣装の全身に施された銀の十字架が、発光する。
「わたしは……。わたしはもう二度と美沙都さまと別れたくないんです。美沙都さま、起きてください。眠ったあなたを見るのは……現実だけで十分です……っ。せめて、せめてこの世界では……お願い……!」
≪星≫から溢れていた黒い粒子が、消えていく。
かなえの≪
僕は、ルシフェルやアマちゃんがこれまで幾度となく口にしていた言葉を思い出した。
『ここ≪
この少女の願いが何なのかは、わからない。
しかしそれが今、限界を超えた力を発揮しているのは間違いなかった。
と、≪教皇≫の放つ光を見つめていると。
僕に、影が落ちた。
「貴様は、楽には殺させない」
未だ起き上がることのできない僕の横に、≪女教皇≫の少女が立っていたのだ。
凄まじい怒りを感じる。
≪教皇≫の少女とは違い、ひどく落ち着いているようには見える。しかし、ヴェールの奥では彼女もまた、頬を濡らしているのが見てとれた。
しかし、アリスの言うとおりならば≪女教皇≫には攻撃系のスキルはないはず。
彼女はいったい、僕に何をするつもりだ……?
「貴様には、これから馬車馬のように働いてもらう。貴様のその汚い手で、貴様の仲間の願いを奪わせてやる。そして、貴様の精神がもっとも消耗した最期の時に、貴様自身の願いが
そう言うと、今度は彼女が、僕に馬乗りになった。
≪女教皇≫は僕の頭の横に両手を添えると、冷たく、張り詰めた声で宣言した。
「≪
「ぐ! あ、あぁぁぁああ……!」
脳に電撃が流し込まれる。
打撃によって混濁していた意識が、さらに歪む。
意識の手綱が、手から離れる。
僕の全身が、まるで言うことを聞かない。
「さぁ、≪太陽≫の契約者。これで貴方は私たちの
満身創痍だったはずの僕の肉体が、意志と関わりなく立ち上がる。
ヴェールの奥で≪女教皇≫の眼鏡が光を
少女の冷笑が、僕に向けられる。
「使い潰して、
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