第四十四話 盤上の駒たち
「使い潰して、
僕の身体の支配権を得た≪女教皇≫が、眼鏡を光らせて笑った。
それから≪教皇≫の≪
今、少女たちは変身を解いて体勢を整えていた。
「み、
「
完全に治癒した≪星≫に、抱きついているらしい≪教皇≫の少女。
「花! 美沙都様に失礼でしょう!」
「いいのよ
「み、美沙都様……っ。私などを撫でてくださるなど……っ。もったいない、もったいないです。あ、頭を洗えなくなってしまいます。ああでもそれでは美沙都様に醜い姿をあああ」
僕に≪
春色の声で恥じ入る≪女教皇≫の少女。
「……」
そして、僕はと言えば。
≪太陽≫に変身した状態のまま、四つん這いになり、≪星≫の少女の椅子にされていた。
どうやら僕は、この≪女教皇≫の少女の言いなりになってしまったらしい。
意識はあるが、身体の自由はきかない。
あらゆるスキルを試したが、発動はもちろん、名前を口にすることもできなかった。ただひとつ、≪
「美沙都さま、美沙都さまぁ……わたし、また美沙都さまとお話できなくなっちゃうって……怖くてっ……」
≪教皇≫の少女は、泣いているようだった。
「花、よしなさい」
≪女教皇≫が、それを止める。
「雅、大丈夫よ」
「し、しかし……。私は、美沙都様とお話できるこの世界での時間をもっと大切に使いたいのです。現世を嘆くのではく、今ここにいる美沙都様と……」
「
眠りから目覚めない、病。
そこから治癒することことが、この≪星≫の少女の願いか。
「そ、そんなっ」
「そんなことはありません! 必ず私たちはこのゲームに勝利して、美沙都様の
「そ、そうです! 花も、そのためにここに呼ばれたんです!」
そして、≪教皇≫と≪女教皇≫の願いもまた、同じ。
ルシフェルの言っていた、『願いを増幅するトリック』とはそういうことか。
この3人は、互いに互いの願いを守ることを願っている。
それが、この≪
≪教皇≫の怪力や、強力な≪
「
≪星≫が、僕の背から立ち上がる。
「では、行くとしましょうか。
「はいっ」
「
「雅。他の契約者たちがあとどのくらいいるのか、聞いても良いかしら?」
「はっ! 変身、≪
椅子になったままの僕には視界の端にしか見えないが、眼鏡の少女が黒と白の着物のような姿へと変身する。
「≪
≪女教皇≫の頭上から波紋のようなものが壁を透過しながら広がる
しばらくすると、いくつかの波の反響が帰ってきた。
「現状、この≪
「み、雅さんっ。≪女教皇≫、2回言ってますっ」
小声でささやく、≪教皇≫の少女。
配慮のつもりだろうか……。
この場にいる全員に聞こえているが。
「いえ、確かにもうひとり、≪女教皇≫の反応が在ります」
「それについてはミカエル様から説明がありましたわね。敵側、≪太陽≫の仲間にはもう一人の≪女教皇≫がいる、と。その者でしょう」
そんなことがあり得るのか?
ミカエルという天使の言うことがどこまで信頼できるのか、僕にはわからない。
だが、ミカエルに召喚され願いを目前にしているこの3人にとって、それは些細な問題のようだ。
「それで、雅。他の者たちの状況は?」
「はい。まず、≪魔術師≫と≪吊るされた男≫が合流。どうやら協力的な様子で、戦闘している気配は感じません。この2人は、今最も私たちの近くにいます」
あの2人は、合流したのか。
お互いにこのゲームの古参ということもあって、かなり相性が良いのかもしれない。
「そして、≪世界≫と≪塔≫が交戦中。≪世界≫は今日召喚されたばかりのルーキーのようですね。≪世界≫は強力な≪アルカナ≫のようですが、≪塔≫相手では流石に……」
「≪塔≫の
「はい。≪世界≫はもう時間の問題でしょう。ただ、その、これはお伝えする必要があるかわからないことなのですが……」
「ないかしら? なんでも聞かせて」
「は、はい。その、この≪塔≫の男の思考、ほとんどが『赤いのと闘いたい』というもので覆い尽くされています。正直、気色悪いです……」
「ふふふ、ずいぶんと好かれているようですわね、≪太陽≫さん?」
そう言うと≪星≫は、ローファーで四つん這いになっている僕の頭を踏みつけながら笑った。≪女教皇≫が小声で「うらやましい……」と言っていたのは聞こえなかったことにする。
「そして、残る≪女帝≫、≪正義≫、≪女教皇≫の3人ですが、≪
「ふふふ! ミカエル様のお告げの通りになりましたわね」
「はい、どうやら召喚地点の操作が可能というのは本当のようですね。翼を持たない彼女たちでは、一夜中に合流は不可能。この先毎晩、彼女たちは≪
天使ミカエル、そんなことまで……!
「その者達は、最期にこの≪太陽≫で各個撃破して周りましょう」
≪女教皇≫はそう提案すると、僕の
「私、言いましたよね? 貴方を楽には潰さないと」
「ふふふ……では、雅、花! まずは≪魔術師≫と≪吊るされた男≫のふたりから叩きに行きますわよ!」
「はいっ! 花はいつでもやれます!」
「かしこまりました」
いよいよ、闘いが始まるのか。
≪魔術師≫と≪吊るされた男≫。決して仲間ではなかったが、幾度となく顔を合わせてきた相手だ。
「
と、その瞬間。
雅と花、ふたりの少女の目が獲物を狙う獣のそれになる。
「「最初はグー! じゃんけんぽん!」」
「やったーっ!」
「馬鹿な……!?」
何してるんだ……。
「み、美沙都さまっ。わたしを、わたしを抱っこしてくださいっ!」
「ええ、任せなさい。変身! ≪
「くっ……! 花、次は交代ですよ……!」
どちらが≪星≫の少女に運ばれるか、競っていたのか。
純白の翼を生やした≪星≫に、≪教皇≫の少女も変身して抱き上げられる。
≪教皇≫は嬉しそうに身悶えしているが、鎧ごしでも嬉しいものなのだろうか……。
いや、だが待て。残ったのは≪女教皇≫。
ということは……。
「チッ……立て、この下僕が……!」
ものすごく不機嫌な≪女教皇≫の命令に従い、僕は立ちあがった。
立ちあがった僕の足を、踏み付けながら言う。
「変なところを触ったら、殺しますよ」
そんなことを言われても、僕をコントロールしているのは君じゃないか……。
僕は、自分の意志と関係なく≪女教皇≫を抱き上げた。
意志の通りに動かなくとも、感触はあるようだ。
≪女教皇≫は全く装甲を持たない着物のような衣装のため、手に柔らかいものが伝わる。
「貴様……私が思考も読めることを忘れるなよ? …… さっさと飛びなさい」
「≪
お、恐ろしい……。
どうやら声もスキルも≪女教皇≫の意のままに操られているようだ。
≪太陽≫の赤いスーツの背に三対六枚の炎でできた翼が開く。
そして、僕と≪星≫の少女は飛び立つ。
≪魔術師≫、そして≪吊るされた男≫の願いを奪うために。
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