第二十五話 作戦
恭子さんの提案する、22人全ての契約者を戦う意志の無い者で埋め尽くすという方法。
これならば、あの少年やおじさんのような人を増やさなくてすむ。
≪
そのためならば、僕は自分の願いなど簡単に諦められると感じた。
いや、僕のなりたかったヒーローならば、きっとこういう答えを選ぶんじゃないだろうか。
そうに違いないと、僕は思うことにした。
ただ、かなえまで巻きこむことはできない。
かなえの願いはかなえの――。
「私、やります。それで、こんな怖い戦いはもうしなくて良いんですよね。もう、悲しむ人は生まれないんですよね」
「そうだ」
「ただし、好戦的な奴はみーんな倒さなきゃいけないけれど、ね?」
「……それでも、やります」
「うむ。して、君は?」
「僕は」
答えは、決まっていた。
「僕も、やります」
恭子さんは、神妙に頷いた。
「君たちの強力に、感謝する」
「これでどうにか、4人ね」
「ええっ、22人のうち、協力してくれる人って私たち以外にいないんですか?!」
「うむ……」
「まずはそれについて説明しないとね、恭子ちゃん」
「そうだな。協力してくれると言ってくれて早速だが、私たちにはまず早急にやらなければいけないことがある」
「≪悪魔≫の契約者。裏切り者の進藤憲一の始末よ」
裏切り者。
昨日の夜も、聞いた言葉だ。
「私たちには、昨日のゲームのスタート時点までで他に6人の協力者がいたのよ。私たち2人を合わせたら、8人の仲間がね」
「だが、まさに昨夜のことだ。突如その内の1人である進藤憲一が裏切った。最速の≪アルカナ≫と契約している奴は、一瞬で私とアリス以外の5人を敗退させ、その場を去った」
「そんな……」
「仲間の多くは、戦う恐怖に耐えられないという理由で協力してくれていたの。≪アルカナ≫との契約もしていなくて、抵抗もできずにやられてしまったわ」
「あの、≪女教皇≫の能力で、心は読めなかったんですか?」
「読んだわよ。もちろん、ね。でも、救う時間すらなかったの。彼は昨日のゲームが開始した瞬間から、前日までとは別人のようになっていたわ。そして私や恭子ちゃんが動くよりもずっと早く、協力者たちを殺してしまった」
「進藤はもともと、死別した妻を蘇生させることを願ってこのゲームに参加したのだ。だが、このゲームを戦い抜くにはあまりにも優しかった奴は、他人の願いを潰すことに耐えきれず妻の蘇生を諦め、私たちに協力していのだ」
死者を甦らせるためにゲームに参加する人物……!
このゲームにそうした者が2人、いるとルシフェルが言っていた。
≪
必死になるのも、分かるかもしれなかった。
「それが、ね。昨日のゲームが始まった段階で、彼の思考は混濁し、とても読めたものでは無かったわ。ただ一つ、誰を殺してでも、自分の願いを叶えるという意志以外に明確なことは分からなかったわ」
「なぜ、進藤がそのような状態になったのかはわからない。しかし、奴は今、まさに好戦的なプレイヤーそのものだ。私たちのゲームを停滞させるという目的に完全に相反している」
「で、あれば私たちのやることは一つよ」
「裏切り者の進藤憲一……≪悪魔≫を倒す。あれは君たちにとっても仇だろう。助けには間に合わなかったが、奴が君たちの味方と思しき者を敗退させたところを、昨日私は確かに見た」
「……はい」
「では、早速だが作戦会議とさせてもらう」
「私が相手の位置や思考に関する指示をだして、恭子ちゃんが戦う。それが私たちのやり方なの」
「それを今夜から、君たち二人を交えて行いたい」
恭子さんは、長く艶やかな黒髪をかき上げて言った。
「≪女帝≫の君は、今の我々にとっては貴重な遠距離支援能力者だ。そして、片見新士くん。君の≪太陽≫の攻撃力は明らかに異常だ。君が攻撃の要になる。どうか、助けてくれ」
「僕なんかに、できるでしょうか……。昨夜だって、全く歯が立たなかったんです」
「それについては、心配いらない。私の≪正義≫の剣の能力は、”概念すらも両断する”ことだ。鋼鉄だろうと、銃弾だろうと、エネルギー弾だろうと、やつの飛行能力だろうと、切断できるのだ。考えようによってはこれは、最強の盾でもあるのだ。私を傷つけるためには私に近づかなければならない。私に近づいたモノは、我が剣によって切り捨てられる。つまり、君が私の傍にいる限り必ず守ってやれる。君は、私と≪悪魔≫が斬り合っている間に、致命の一撃を加えて欲しいのだ」
僕は、その”概念の両断”を一度目にしていた。
≪死≫の≪アルカナ≫に襲われた一昨日の夜のこと。
凄まじく硬い竜の骨を切断し、そして迫りくる瘴気すら斬り伏せる≪正義≫の姿を、僕が忘れるはずもなかった。
「分かりました、やってみます」
その後、いくつかの具体的な作戦をたて、僕たちは解散した。
その頃にはすでに夕方になっており、僕とかなえのデートは延期になった。
『埋め合わせをすること』
そう送られてきたメッセージに苦笑しながらも、僕は自室でゲームの開始まで仮眠をとることにした。
優しかったはずの男が、あの残虐な≪悪魔≫へと豹変した理由。
早急に願いを叶えたいと思った理由。
それはいったい、どんなものなのだろうか。
果たして僕はそれを知っても、作戦を完遂することができるだろうか。
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