第二十二話 救済者たち

 おじさんが脱落し、≪悪魔≫の銃口が僕に向けられる。

 と、その時だった。


「待て、彼を殺すことは私が許さない」


 凛としたよく通る声。


 純白の大きな肩部装甲。頭で金色に輝くのはV字型の装飾。真っ赤なマント。

 間違いない。

 ≪契約者アルカニック・ナイト正義ジャスティス≫。


「お前か、≪正義≫」

「もう一度だけ問おう。なぜ、私たちを裏切った?」


 ≪正義≫が≪悪魔≫に問う。

 「裏切った」? 元は、彼と彼女は仲間同士だったのか?


「……答えるつもりはない」


 そう言うと、≪悪魔≫は銃口を≪正義≫に向け、発砲した。


「≪裁きの天秤ソード・コード≫」


 しかし、≪正義≫は直剣を一振りする。

 次の瞬間、≪正義≫の左右で爆発が起きた。

 ……斬ったのか? 銃弾を。


『貴方はそこから動かないで下さいね。恭子ちゃんの邪魔になりますから』


 と、脳内に響く声が僕に語り掛けてきた。

 この声もまた、一度だけ聞き覚えがあった。


 初めてゲームに参加した夜に、僕とかなえが大勢の契約者から逃げる手助けをしてくれた声だ。


「で、でも……僕も≪正義≫に加勢する……!」

『邪魔になると言っているんです。その傷では、足手まといですよ』

「くっ……」


 僕はマスクが砕けた顔に手をあてる。

 こんなときに、力が使えないなんて……。


 見ると、≪正義≫は羽つきとやらではないようだ。

 飛行する≪悪魔≫に対して跳躍で応戦していた。


 だが、一方的にやられているかと言えばそうではなかった。

 ≪悪魔≫の銃撃を、≪正義≫はことごとく両断し、距離を詰めていた。

 ≪悪魔≫の方がむしろ、≪正義≫に接近されることを恐れているような動きだった。


『恭子ちゃんは強いので大丈夫ですよ。それに……』


 声がそう言うと、ゲーム終了の鐘がなった。


「今日のゲームは終わりですから」


 僕たちを現実世界に帰す白い粒子が舞い始めたそのとき。

 これまで脳内に響いていた声が、直接、耳に聞こえた。

 見上げると、そこには僕の肩に手を置く≪女教皇≫の姿。

 そうか、僕が≪神々の玩具箱アルカーナム≫に来た初めの夜、沈黙を保っていた≪悪魔≫、≪正義≫、≪女教皇≫の三人には、繋がりがある。


「恭子ちゃん!」


 光る粒子が密度を増す中、≪女教皇≫が≪正義≫に向けて叫ぶ。

 すると、≪正義≫は≪悪魔≫に命中すれすれの一撃を放ち、こちらに向けて跳躍してきた。


 そして、≪女教皇≫と≪正義≫が手をとり合う。

 僕は、≪女教皇≫に肩を触れられている。


 そうか、明日のゲームを同じ地点からスタートするつもり……!


 僕は、自分のすぐ横で倒れているかなえの手を握る。


 僕たちは光に包まれた。

 今夜の絶望的なゲームを、生き残ったのだ。

 おじさんの犠牲をはらって。

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