14話・ 疾走する真哉の想い
時刻は11時を過ぎ、正午に近い頃。
研究所に到着した結と真哉はまっすぐに桃華の部屋に向かい、
「やっほー!
おはよ、二人共!!」
「ああ、おはよ」
「おはようございます、桃華さん」
挨拶を交わす三人と無言で会釈をする冴島。
何があったかは結達には分からなかったが、桃華の不満そうな顔が全てを物語っていた。
「そういえば、結ちゃんは体調大丈夫そう?
昨日の戦闘は無茶させちゃったけど、怪我とかある?」
真哉を見ないように視線を結に固定し、桃華は目視で結の身体を確認する。
目に見えて怪我をしている様子はないが、不調の類は本人が一番把握しているものだ。
真哉はともかく、結はそういったことを隠さない性格なのかを試す意図もあった。
「特にはないよ。
それより、山口はどこに行った?」
「物騒だねぇ、結ちゃん。
その言い方だと殺す許可を求めているみたいだよ?」
「質問を質問で返すな。
答える気がないなら、いっそのことそう言ってくれると助かる」
結は怒りを堪えながら組んでいた足を組み替え、眉間に皺を寄せる。
桃華の発言次第では容赦しない、と結は堪えているにもかかわらず、肌を刺すような怒気は強烈に桃華に伝わっていた。
「ん〜、キミのいう山口は枝垂中学のだろ?
今日は変な化け物を見たとかで休……、あ」
「──桃華」
結の視線は一段と鋭くなり、桃華は背中に極寒の冷気が吹き付けられる感覚に陥る。
まだ結は指輪の力を解放していないが、本気で解放した場合は背筋どころか命を凍らせるだろう。
どんな場合でも私闘の際に
桃華は、それだけは避けたかった。
「……やっばいなぁ、マジで。
結ちゃんは暫く待機、真哉くんは枝垂中学に向かって」
自分のうっかりミスに思わず愚痴を零し、桃華は二人に指示を出しながらマスターキーを入力して作戦本部のネットワークに接続する。
速記は得意でも、ブラインドタッチが出来ない桃華はキーボードと画面を交互に見ながら作戦本部に集められた玉石混交の情報の中からピンポイントで必要な情報を収集した。
この作業は見た目よりも難しく、猫からリアルタイムで送られてくる書き殴ったかのような乱雑な情報の走り書きの中から必要な情報を見つけるため、闇雲にメモした全ての付箋に逐一目を通すような労力がいる。
だが、桃華の直感はその労力を必要とせず、自分の求める情報を瞬時に集めることができた。
「おい、なんで俺が待機……!?」
「気持ちは分かるけど、仕方ないでしょ?
スィンモガにボッコボコにされたんだし、今は念の為に休んでおいて」
「結、仕方ねぇよ。
今の戦力で頼りになるのがお前だけだからな」
桃華の物言いをフォローしようと真哉は結に微笑みかける。
エビルが出現した以上、こんなところで喧嘩しても意味はない。
それに、結の体調は真哉も心配だった。
「……分かった」
何か言いたげな結は真哉を一瞥してから無言でソファに寝転び、ゆっくりと瞼を閉じる。
それから少し経って結の寝息が聞こえた頃に桃華は各部署にメールを送信し、椅子から勢いよく立ち上がる。
「真哉くん、無理しない程度に現地調査よろしく!」
「分かりました、ちょっくら行ってきます」
真哉は頷くと桃華の部屋を出て、エレベーターを経由してピットに辿り着く。
昨日は何故かピットの入り口で結が倒れていたが、今日はそのようなことはなかった。
「……ま、当然だよな」
自嘲しながら真哉は車に乗り込み、J・P・Dを使用する為に黄系統の
すると、
このJHMS専用ピットは
それが高校生になって
「──結に、負けてられねぇんだよ」
一つでも、小さくも、戦果を積み上げる。
現時点で圧倒的な差が生まれていることは分かっていた。
それでも、と真哉は強くハンドルを握ってJ・P・Dが展開されたと同時にアクセルを踏み、真哉の手繰る白銀のメルセデスは誰一人居ない道路を駆け抜けていった。
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