第21話偉人と異人

「まず、この写真を見てください」


そう言って一は箱の中に一緒に入っていた写真を見せた。

写真は計5枚あり、オカリナをX線透視したものだった。

中には、ピアノ線のようなものが張り巡らされていて、他には、これといったものは特になかった。

テーブルの中心に並べられた写真を、皆覗き込むように見ていた。


「一君。これはいったい」


「古林さん。これは楽器ではなく、超音波を生み出す笛のようなものです」


「「超音波!?」」


「はい。これは人の耳には聞こえない、小動物にしか聞こえないモスキート音と言って

、17キロヘルツ前後の高周波音のことで。 蚊の羽音のような不快な音をたてることで、そう呼ばれています」


「一。そのモスキート音が、キアラの起こした奇跡の一つの秘密だって言うんか?」


「せや遼。これ初めに神社で借りて、派出所に行く前に日に照らしてよーく見ると、何個か空いてる穴からピアノ線のようなものが見えたんや」


「一君。ピアノ線が見えただけで、ようそれがモスキート音出すものやて思ったね」


「ホンマや。そんなもん見えたかて、そこにどうやってたどりつくんや?」


古林と遼に言われ、少し得意気な顔で一はまた話でした。


「そこなんやけど、実は大学の時にミスタードーキンでバイトしてたんや」


「河名さん。ミスタードーキンて、あのドーナツチェーン店の事ですか?」

借りてきた猫のようにしていた川村が口を開いた。


「はい、そうです。最初の頃の僕は、バックキッチンでドーナツ揚げてたんですけど、夏休みにはいったころ、人が足らないので駆除の方手伝ってみないか。ていう話があって」


「駆除?ドーナツ屋さんで?」


「うん。あれ?遼知らんかったんか?ミスタードーキンは、害虫駆除の部署や、マット貸し出しもやったり、けっこう手広くやってるんやで」


「へえー」


古林と川村は、さすがに知っていたみたいだったが、遼は初耳のようだ。


「それで一君。モスキート音はそんときに知ることなった、言うことかい?」


「はい。レンタルで屋根裏に設置して、タイマーでモスキート音を出すのですが、当時、僕もなんでこんなものが害獣を追い払えるのか、いろいろ調べたりしまして」



「調べる?」


「はい。ちょっと遡りますが、中世ヨーロッパの時代に黒死病が大流行した時に、ネズミが運んでくるとされていたペストの流行りを押さえるてために、モスキート音が使われていたと聞いて、その時代に作れるのならと、作ってみたんですよ」


「モスキート音をか?」




「せや。遼、最初の方で言ってたこと覚えてるか?」


遼は思いだしたように手を叩いた。


「ハーメルンの笛吹者!」


「うん。遼とその話しをしていたときに、頭の中である事が頭に浮かんだんですよ。その笛吹者が使った笛は、楽器などではなく、モスキート音出す機器だったんじゃないかって」


「なるほど。事実ネズミを退治したわけやしな」

低い声で古林が言うと、川村も質問した。


「その笛吹者は、演奏家ではなかった。そうなると…」


「ジュゼッペーキアラも、宣教師ではなかった」


「遼、早いね。ま、あくまでも仮説として頭にうかんだだけやったんですが」


「ふむ。このオカリナがモスキート音を出す機器だったので、俄然信憑性が増してきたと。そういう事やな、一君」


「そっす。ま、あの時代にひょっこりキャソック姿の外国人が現れたら、誰かて疑いませんよね」


「つまりこういう事か、一。ジュゼッペーキアラは、何らかの理由で、宣教師の振りをする必要があって、偶然持っていたオカリナで害獣を追い払い、神の使いとして村に居座ったと」


「うん。その当時の事件は、偶然と偶然が重なりあって、奇跡のような悲しい事件を生んでしまったんやないかな?」


「奇跡のような悲しい事件か…」

川村がそういうと、古林は腕を組み頷いていた。

一の仮説が、かなり的を獲ていると思ったのだろう。





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