空っぽの明日にボクがいる

那珂町ぐいと

第1話

空っぽの明日にボクがいる

 

〜プロローグ〜

「空の道化師」それは誰もが知っている都市伝説のピエロだ。地域によってその逸話は違う。例えば、都会の方であれば、深夜の夜道を一人で歩いていると急にそいつは現れ、「空っぽ」

にされるという。そういった話から家で子供をしつける時も空の道化師に連れてかれちゃうよ!などと言いしつけられた子供も多いはずだ。僕は違ったけどね。とにかくその道化師はそれほど有名って事さ。夜道は気をつけなよ?もしかしたら君も空っぽになっちゃうかもしれないからね。

 

  

 乾いた空気がビルの隙間から吹いてくる。街は衣替えの季節のようだ。つい最近まで夏らしい雰囲気を漂わせていた街も秋が近づくに連れ、勢いも落ち着いてきた。今じゃ夏の気温やテンションが懐かしく感じる。そんな中、一人虚しく街道を歩き、電話の場所へ向かう僕は気怠さに包まれていた。

「ったく、何でこんな日に依頼なんて持ってくるんですかねあの編集長は…。確かにちょっと興味はあるけどこの依頼は難し過ぎるんじゃないか…?」

 僕が今回受けた依頼は巷で長い間都市伝説として語り続けられている「空の道化師」の写真を撮ってきて欲しい。というものだった。もし撮影に成功すれば多額の報酬を出してくれると言っていた。その話を聞いた時は多額の報酬という言葉に惹かれ二つ返事で了承してしまった。だが今思い返すと取り返しのつかないことをしてしまったのではないかとこれから先の未来を見据え更にやるせない気分になる。

「情報もろくにないのになんで返事しちゃったんだ僕は…。もうちょっとしっかり考えてから受ければよかった…。こんな無理ゲーよく考えれば分かるだろうが…。都市伝説なんて誰かの作り話に乗っかってどっかの馬鹿が拡散していったに違いないだろ…。」

なんで僕が今こんなに後悔しているかというと原因は十分程前に遡る。

 

「いやぁ、待ってたよ朝霜くん!君ならこの依頼を受けてくれると思っていたよ!!」 

「お久しぶりです、馬場編集長。今回は直々のご依頼ありがとうございます。」

「まあまあ、そんな畏まらずに、取り敢えずそこにかけてくれたまえ。ああ、お茶とコーヒーどっちがいいかい?」

「じゃあ、コーヒーをお願いします。」

「砂糖とミルクは?」

「無しでお願いします。」

「了解」

 この人は馬場隆文編集長。オカルト雑誌「Karma」を初刊から編集、そして発刊を担当している凄い人だ。次の号で記念すべき百号目を迎えるらしい。そんな彼は僕がフリーのカメラマンとして活動してあまり名の知られていない頃からこうやって定期的に依頼を持ってきてくれる。僕にとってはカメラマン生活を救ってくれた恩人である。だから少しでもその受けた恩を返すべくこういった編集長直々の依頼などは積極的に受けている。

「じゃあ、これコーヒーと、今回の依頼の詳しい内容、そして今回に必要だと思いそれだけに見合った必要費用だよ。」

「そんな、必要経費やらは自分で出させていただきます!しかもこんな大量の額を返せるかわかりません!」

「いや、今回は依頼が依頼だけに我々もかなり力を入れるべきだと思ってね。ちなみにそのお金は返さないでくれていいよ。そのお金の中には私のポケットマネーもあるからね。ちょっとしたサービスも兼ねてのお金さ。」

 流石にそこまで言われては僕も引き下がってご厚意に甘えるしかない。そして深々と頷き、依頼内容にざっと目を通す。大々的に「空の道化師」を激写!!!と書かれている。

「…、たしかにざっと依頼内容を見ましたけどこの内容は面白いですね。百号を飾るにふさわしいネタですね。しかもこの都市伝説は今や知らない人はいない国民的に有名なネタです。テレビでも毎夏特番が組まれるくらいですしね。」

「そうなんだよ、朝霜くん!このネタは色んなオカルト雑誌やらテレビで報道されているが詳しい概要や顔が本当にあるのか分からんが顔写真など出ていないんだよ!」

 ふと、僕は今まで見た空の道化師についての特番や記事などを思い返す。確かに顔写真など詳しい概要などは説明されていなかったなと納得する。

「そんなとても奇妙で不思議に包まれた依頼をなぜ今回僕に回してくれたんですか?」

「君の写真をデビュー当時から見てる私はある事を今までの写真を見てふと疑問が生まれたんだ。」

「それは一体どのような疑問ですか?もしかしたらこれからのカメラマン人生を変えるかもしれないので教えてください。」

 僕は編集長の返事を待つ間一生懸命自分の欠点だと思うところを必死に探り続けた。多分アレかと、思い当たる節があった。多分それを言われるだろうと覚悟し、身構える。

「君の写真は何故だか人物を撮ると、その人物が写真を撮られる前、撮られた後が非常に想像しやすい写真を撮ってくれるのは何故だろうと思ったんだ」

「(絶句)」

 自分が思ってたことと真逆の事を言われ、反応できなかった。もしかすると人物を撮るときに若干ブレが生じる事かと思ったがそれはバレていないようだ。

「無論、少しブレが生じていることは多目に見ている。」

 バレていたのか、流石歴戦の編集長だ。

「僕が考えていた事と逆だったので反応出来なかったですが、僕の写真ってそんな情報詰まってますかね?自分では普通に撮っているつもりなんですが…」

「あの写真を普通に撮るというのはね、此処でしか言ってはならんよ朝霜くん。君のその才能はもはや芸術の域を超えている。多くのカメラマンの写真を見てきたが、君の写真を見たときに確信したよ。朝霜くん君は写真を撮る為に生まれてきたようなものだ。これは誇っていいくらいだよ。」

「そんな事ないですよ!ただの写真じゃないですか!」

「君がそんな事を言うならそうなんだろう、だが、君の写真は静止画なのに生きていると感じさせてくれるものだ。」

「そう…なんですか。」

 今までそんな事考えたことなかった。ただひたすらに写真を撮り、ブレ補正をかけようかと思ったが何故かしないでいた。それはやっちゃいけないと本能的な何かに抑えられていたからだ。

「確かに君の才能は素晴らしい。うちに勤めているカメラマンにも見習ってほしいぐらいに、だ。」

「ありがとうございます、まさかこんなに褒めて頂けるなんて思ってなくて。ちょっと照れ臭いですね」

 恥ずかしさの余り頭をかきながらそんな事を言う。

「では、わかりました。必ず空の道化師の写真この私、朝霜要が激写して参ります!」

 そう言って会議室から出ようとしたとき呼び止められた。

「ああ、ちょっと待ってくれ。これは私の自論なんだがもしかしたら役に立つかもしれない。まあ話半分に聞いてくれ。」

「はあ、わかりました。」

 どんな情報かちょっとばかし気になる。編集長の自論は当たる時は本当にドンピシャで当たるので話半分にも聞いていられない。

「それで、一体なんなんです?」

「ああ、これは私の憶測なんだが、君がピエロの写真を撮った日を覚えているかね?」

「ピエロ…?」

「そうだ、ピエロだ。駅前で芸を披露しているなんとも場違いだが幻想的な雰囲気を放っているあの一作だよ。」

「ああ!!あの場違い感半端ないピエロの写真ですか!思い出しました!確か、池袋駅の前に珍しくピエロが芸をやってて珍しかったんで撮ったやつですね!懐かしいですね!」

「そう、そのピエロの写真をうちの雑誌で掲載して世に出した時ぐらいからかな?確か空の道化師という都市伝説が生まれたのは。私の記憶が正しければの話なんだがね。」

 そう言って編集長はカラカラと笑った。時期は覚えていないが、確かにそのピエロの写真を掲載してもらってから道化師の噂話がポンっと出てきたな、と思い出す。これは何か関係がありそうだ。

「その写真を手がかりにピエロを探すと楽になるんじゃないかなっと思ったまでさ。貴重な時間をこんな事に使わせてしまってすまないね。」

「いえ、お陰で今回の依頼なんかいけそうな気がしてきました!では行ってきます!」

「いってらっしゃい。君のこれからに幸運がある事を祈ってるよ」

 そう言って編集長は笑顔で僕を送り出してくれた。部屋を出て扉を閉める時、編集長が咳き込んでいたが余り気にしない方がいいだろう。何より今は空の道化師に専念しよう。そう思い編集社を後にした。

〜 

「はぁ、あんなに勢いよく出てきたは良いが、こっから忙しくなるなぁ…。取り敢えず家帰ってピエロの写真探すか〜…。」

 後日馬場隆文編集長が凄惨な死体となって発見された。あまりにも唐突な出来事すぎてテレビを見たときにとても驚いていたのを覚えている。現場には、編集長のものと思しきものや、衣服、はたまた血や、肉片が飛び散っており、編集長が発見された時はカラスが群がっており、異臭も酷かったとのことらしい。


「おかしいよね、綺麗なのに。」

 

 そう言い残して僕は現場を離れた。これが僕達にしかできない犯罪さ。空の道化師なんて生温い呼び方はもう慣れたけど合ってない気がする。これはもう完全にジキルとハイドじゃないか。だが、あんなに綺麗な死に様なんだきっとあの世デモ喜んでルだろうな馬場サン♡

 

 

ー空の道化師sideー

 

アノ男ハドコマデ知ッテイル?

ー多分何にも知らない。

オ前ハドコマデ喋ッタ?

ー何も喋っていない。

ジャア、アイツハ、殺シテモイインダナ?

ー好きにすれば良い。もう僕には関係ない男だ。

ハッハッハッハ…、オ前は薄情ナ男ダナァ。

 鏡の中の僕はそう言い乾いた笑いをあげる。

ーそういえば、ボクが生まれてからそろそろ五年だね。

オ前ガ人ヲ殺シ始メテ五年モ経ッテンノカ

ー僕は人を殺してなんていない。人を殺しているのはボクであって僕じゃない。だから僕は何も悪くないのさ。

オ前は昔ッカラソウダヨナァ…。人ヲ殺シタクナッタラ俺様チャンニ交代シテ、用ガ済ンダラスグ交代…。

ーじゃあ、君に今回の殺人の後始末が出来るのかい?出来ないだろう?だから僕がやるのさ。

変ナ所デ器用ダヨナオ前

ーそろそろ時間だ。準備するよ。

モウソンナ時間カ、久シブリニ殺センノカ!今日ハドウヤッテ殺シテヤロウカナ!!

そういって鏡の中のボクは消えていった。緑色の口紅を塗りながら僕は考える。これでは道化師どころかただのジキルとハイドじゃないか、だがこれのお陰で完全犯罪は成功できる。僕にふさわしい能力だよな。

『さて、今日も今日とて人ヲ殺すにハ、イイ日だ。空ノ道化師改メ、ジキルとハイド、完全なる芸術探シノお仕事ダ』

 

 

 

 そう言って奇妙な男は夜の街へと消えていった。これからの運命は彼、いや彼達にしか分からない。

 

 

 

 






「あ、そうだ、言い忘れてたけど、これを読んだって事は君も僕達の標的だからね?」

「アンマ人ニ話スナヨ?死にタクナカッタラナ」


乾いた笑いが夜の街へと響き、人混みのざわめきと共に消えていく。こうして完全犯罪は生まれていく。

 

 

 

 

 

「空っぽの明日にボクがいる」

 

           Fin…

           

           

     BAD END

「ジキルとハイド、そして暗黒。」     

 

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空っぽの明日にボクがいる 那珂町ぐいと @Masumurukai58

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