第30話

「利休、言っとくがな。あの壺をおみゃーが持っていても、それを開けるミレニアムロックを解除できなければ、開ける事なんかできん。それが分かっていて何を欲しがるんじゃ、おみゃーは??」

 眼鏡を持ち上げて、伺うように松本を見ていたが、やがてさもあらんというような表情で話し出した。

「藤吉、そんなことは簡単なんだ」

「何?」

 松本が猪熊を見た。

「解除するには・・確かに時間がかかるだろう。しかし私は魔女で在り肉体を再生できる術を持っている。だから時間はあるんだ。そしてミレニアムロックを解除できる時を待てばいいのだ・・」

「つまり・・待てばいいということか」

 松本の眉間に皺が走る。

「そう・・私は唯、「待ち」をすればいい。違うか?藤吉。ミレニアムロックは十三の書にのみ書かれている。それも、待てばいい。それはお前の死後か・・しかし、お前は聡い。いや官兵衛が聡かったのだろう。いつそれを知ったのか分からないが・・・お前は魔女の再生の秘密を官兵衛から聞き、雷にこの寺で打たれ再生の力を手に入れ、パンドーラの箱をこの腰掛け石に隠したんだ。それは私からミレニアムロックとパンドーラ―の箱を守るために」


 えっ、松本も雷に打たれた??


「ここら一帯は当時田園。そして高い木はこの桜の大樹のみ。お前は雨期になればこの桜の木によく雷が落ちることを元々ここの領主だった官兵衛から聞いていたんだ。だからここで打たれ、お前は歴史上消えたんだ。あの大阪城で死んだのはこの近辺に住んでいた唯の百姓親父だった・・違うか?」

 松本が頭をぴしゃりと叩いた。

「お見事。さすがは儂の元影の宰相やわ!!」

 きゃっきゃっと笑った。


 あ、猿や。ほんまの!!

 

 しかし束の間、直ぐ真顔になった。

「さて、どうやら儂らが全て話すことは無くなったみたいやな」

「そうかもしれん」

「一つ聞く」

「なんだ」

 猪熊が松本を見た。

「何故、魔女の魔術は電気を媒体にする?」

 猪熊が静かに見つめて言った。

「知らない」

 松本が驚く。

「知らん?・・じゃと?」

「そうだ、知らんではいかんか?全てを知っている必要は・・特にあるまい。別にそうであればいいじゃないか。お前は何故飛行機が空を飛べるか?犬が何故道に迷わず帰れるか?様々なことが全て、現代において回答が出ていると思っているのか?」


 えぇぇ・・それって

 適当過ぎない?


「まぁそうだな。儂らも分からんことがあるのだから」

「だろ??」


 ハハハ、!! 猪熊が渇いた声で笑う。


「そう、そうだ。それこそ『神のみぞ知る』だな」

 言ってから猪熊が僕を見た。

「さてこだま君、全ては語り終えた。君はここまで聞いて正義はどちらにあるだろうか」


 えっ!!


 ごくり


 唾を飲みこんだ。


 長いこと話し込んどいて・・

 今、ここの瞬間、僕なの??


「つまり盗人秀吉か・・それとも私か?どちらに正義があるのか?決めて欲しい」


 言ってから背後で河童がけっけっけと唇を歪ませて笑った。

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