第26話
もう一度、僕・・いや・・わたくし・・ここまで簡単に整理してみたい。
魔術はバベルの塔の中にあった神の言葉で、ルーン鉱石に書くことで発動する。
人類がバベルの塔を追放後、エジンバラでドルイドが研究。(その内、一部ドルイドが出て行き、後世、魔女になる)
漂泊の人々、まぁ旅芸人のような一団がエジンバラに現れる。
ドワーフが話す鉱石についてヒントを得たドルイドが、神の言葉の見分け方を知る。
それで魔術書完成
神の言葉をルーン言語として定義する。
ドルイドが歴史から消える=アーサー王が原因???その時魔術書も焼失。
漂泊の人々が『魔』の発動に気付き、研究し、後世の魔術師になる。(レンブラントのモーゼの絵にヒント得て)
エジンバラに魔術師が戻り、魔術書の複写をする。(十三冊)
大航海時代、魔女(元、ドルイド)は魔女裁判で迫害される、魔術師は宣教師になり布教活動。
魔術書の複製十三冊の内一冊を携えて、東アジア(日本)へ向かう途中、宣教師が死亡。
その後継者を日本人に決めた。
―――それが、田中君
いや、田中与四郎こと、千利休。
鼻を掻いた。
「と、言うことですかね?」
「そうです」
猪熊が頷く。
和服の乱れを直し、懐から小さな扇子を出して扇いだ。
外はざぁざぁと音を立てて雨が降っている。
松本はさも満足気に猪熊の顔を見ている。
「はい!!」
僕は手を上げる。
「何でしょう?」
猪熊が扇子で扇ぎながら僕を見る。
「何で、利休がさ、魔術師になれるの?そもそも・・魔術師になる基準というのはどういう基準なのさ」
そうだよ。
なんでなのさ
と、いうかなんで僕もそうなるのか知りたいよ。
「じゃぁ、それは松本さんから」
ちらりと猪熊が見る。
首を撫でながら、松本が僕を見た。
「ですかぁ。では、話しましょう」
そういうと松本は僕のリュックを手元に引き寄せ、魔術書を手元に置いた。
「こだま君、魔術書はそれぞれ十三冊あり、それぞれ魔術師が居ます。ではその魔術師が死亡するとどうなるか?一度、消滅して再び現れるのです」
「えっ、消えてしまう?それで再び現れるの?」
「そうです。再び現れる場合はその人の前に現れるのです。だから魔術書自体が意志を持っているのか、それが神の意志なのか分かりませんが、適任と認める人物の前に現れるのです。だからその人物にしか魔術書に書かれているルーン言語は見えません」
それはなんか、聞いたなぁ。
「ただ、この十三の書は奇書でしてね。他の十二冊の魔術書がそうなのに対して、記名式なんです」
「記名式?どういう事?」
「ははぁ、そうですね。銀行とかで小切手とか使ったことあります?」
「ないけど・・」
困った顔で松本に答える。
「ですか。小切手とかその他の船荷証券類とかはね、裏書すると『譲渡』という契約上の実務ができるんです。つまり、この権利を譲渡しますという権利です。つまりこうした権利が譲渡していくのを記名式というんですが・・この魔術書はそうなっているんです。つまりこの魔術書のみ、記名式で次の魔術師を決めることができるのです」
「これだけ?他のはやつは、なんか映画みたいにぱっと現れるのに??」
「まぁ・・それだけ手堅いのか。あるいはそれも神の意志かも?」
「どんな?」
そこで松本が言葉を切る。
「つまりですが・・神という定義が今後未来に渡って幅広く変化することなるのを見越して、様々な多様性を持つ社会の人々にも魔術書が使える様にということでしょうかね」
「分からん。もって噛みくだいて」
そこで猪熊が笑って、扇子で扇ぐ。それに振り向く。
「何だよ。猪熊さん、あんたわかるっていうのかい?」
さも愉快気に笑う猪熊が、扇子をピタリと止めて言った。
「つまりですよ。一神教ではない、多神教の神の言葉を記載できる様にした。そして・・」
猪熊がじっと見る。
「もし、新しい神が生まれても、その言葉を書き加えることが出きるようにした。他の十冊は従来決まっている聖書中心の一神教観念のもとで作成されている神の言葉です。考えてもみなさい。他の宗教神話に『バベルの塔』が出ていますか?」
それには返答できない。
だって
分かり易く仏教を考えてもそんなものは無いもん。
「つまりそれが神の意志なんです。神は自ら畏敬と尊敬の念で人々から敬われたいという独占的側面を持つ反面、他者を深く許容して懐に包む面がある。だから後世を生きる魔術師へバトンリレーできる構造にしたんですよ。その後世に生きる人々の信仰する『神』の言葉を書き記せるように」
バトンリレー・・
何故かその言葉には感動した。
「しかし!!」
猪熊が!!大きな怒声を放つ。
突然の怒声に驚いて身体を震わす。
「な、何だよ!!いきなり」
猪熊がすごく睨んでいる。
視線の先を追うと・・
松本が居る。
鼻を伸ばして、知らん顔をしてる。
何なん?
この緊張感!!
ピリピリとした緊張感が方丈全体に広がり、また一気に壁から迫って来る。
最初にこの方丈に入った時に感じたあの緊張の鋼線が、いままさに切れそうな瞬間が来ている。
ゆっくりと猪熊が立ち上がる。
松本を見下ろしている。
「こだま君。つまりそれは魔術書がだれかに持ち去られる危険性も含んでいる。でしょ?」
あ、それは確かに。
電車に忘れた傘だって誰かが持ち帰り名前を書かれたら所有者は変わる。
「あの時、宣教師たちは確かに堺に現れ、魔術書を利休に手渡した・・、それは確かに鍵を閉めて土蔵の蔵に仕舞われた」
猪熊の眉間に皺が寄る。
ヒリヒリした緊張が現れている。
凄いな。
現場を見たことのように言うな、この人。
「しかし、それを盗んだ奴がいるんです!!」
盗んだ??!!
また、あんたそれを良く言えるな?
その時代を見てきたようなリアルな緊張感有り有りでっせ!!
「そうですよ。こだま君。その魔術書を盗んだ張本人こそ・・」
えっ、張本人?・
「こいつ、松本です!!」
・・・・
はぁ (*´Д`) 思わず顔文字で・・
もうナンセンス。
頭おかしいんやな、猪熊。
なんやろ、勉強をめちゃくちゃし過ぎて、かつ何かこんな思い込むようなことばかり毎日してるから妄想が先走るんやな。
( ̄m ̄〃)ぷぷっ! 思わずまた顔文字。
やれやれ・・
ふぅと溜息をつく
「溜息をつくな!!」
大きな怒声!!
思わずびくっとする!!
「こだま君!!言いましょう。この松本の正体を!!」
松本の正体?
僕は振り返る。
松本は下からうかがうような視線でじっと猪熊の怒張する顔を平然と見つめている。
「こいつは松本と今は名乗っているが本当の名前は藤吉・・」
そこでぐっと猪熊が松本を睨む。
藤吉。
なんや、意外と古風な名前だな。
まぁそれでいいがな。
名前なんてなぁ
あんた(笑)
「ちゃうわ!!」
心を読んだかのような叱責の後、言い放った。
「こいつは木下藤吉郎。又の名を豊臣秀吉!!」
へぇ・・
豊臣秀吉かぁ
良い名前じゃん、
なぁ松本。
さぁ
そろそろ帰ろうかぁ
秀吉君。
こんな精神圧者置いといてね。
ん、
ん、ん?
んんん?
(*´Д`)
えっと秀吉って確か・・
確かだよね・・・
あの立札にあったよね、名前が・・
僕は松本のつぶらな目を見た。
松本がにこりと笑う。
「そうなんです、こだま君。太閤秀吉とは実は儂の事・・・いや僕のことなんですよ」
はっはっはっ、と笑う松本。
僕は松本をまじまじと見る。
ど、どういうことだ???
あんた歴史上の人物だろ??
なんでそれがいま現代に生きてんの?
嘘だろ。
それとも
これはマジリアル?
「マジリアルです」
言ってから松本が立ち上がった。
「それでこだま君。こっちに居るのが田中与四郎」
何?
田中君?だと?
それは・・つまり
「そうです。千利休ですよ」
僕は再び思った。
あんたら歴史上の人物だろ??
なんでそれがいま現代に生きてんの?
嘘だろ。
それとも
これはマジリアル?
松本と猪熊が顔を見合わせて頷き、声をそろえて言った。
「マジリアルです」
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