第7話
リアル体験
それは普段からアルアルな体験じゃない。
突然訪れるんだ!!
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・
ゴゴゴゴゴゴゴごごごご・・・・・・
地鳴りが響く。木立の葉が揺れ、空気が振動する。
呆然と立ちつく僕に松本の声が飛び込む。
#早くアクセルを吹かせ!!
早く逃げるんだ!!
路面を走る裂け目。全てを飲みこもうとする異常な現象。
催眠術にでもかけられたかのようにスローモーションで動く、神経と感受性。
本能だけがそれらを追い越して行く。
それは、生存本能。
それのみが危険を叫ぶ。
気が付けば僕アクセル全開で走り出していた。
無我夢中で曲がる道を走っていく。
神経は斜めになろうとする肉体と路面の均衡を保ちながら、本能が全てを支配する。
生きろ。
それ以外のメッセージは何もない、全ての遺伝子がそう叫ぶ。
生き残れ!!
生き残れ!!
生き残れ!!
生き残るんだ!!
ピカッ!!
雷鳴が煌く。
一度ではない、何度も鳴り響いた。
その度に木々の葉が揺れ、雷光がうねる。
降る続ける豪雨。
道は荒れ続けている。
時折身体が飛ぶのを踏ん張りながら、アクセルを吹かし、切り裂くように走る僕達。
#こだま君、小さな広場がある。・・・何か建物がありますよっ!!
前方を走る松本からの声。
松本の原チャが後輪を滑らしながら広場に入る。
続いて僕もそこに滑りこむ。小さな門が見えた。
「あそこに行きましょう」
「了解!!」
頭を抱える様に走り出す。
また稲妻が落ちた。
「ひぇえぇぇええ!!」
門まで来ると階段が見えた。
「この上に何か避けれる場所があるかもしれない。行きましょう!!」
松本が階段を一段飛ばしで素早く昇っていく。
僕も松本に続く。
苔むした石段。
僕達は風のように走り抜けた。
最後階段は二段飛ばしで駆けあがる。
これは・・・
――広い寺院が見えた。
見事な伽藍を持ち門の左右に仁王像が立っている。
見事な山寺と言えた。
ピカッ!!
雷鳴が鳴る。
それに呼応するように僕達を眼下に見下ろすが仁王像の眼が輝く。
「見事な山寺ですね・・ここで雷と雨を避けましょう」
松本が雨と泥まみれのレインコートを脱いだ。
僕も脱ぐとレインコートをバサバサとはたいた。
「さっきの土砂崩れは酷かった。危機一髪です」
雨に濡れた髪を手でくしゃくしゃにすると松本が苦笑いをする。
「何がおかしいんすか?」
僕の表情を指差す。
「いやーこだま君。もうあの時、顔面真っ青でしたよ。見事なくらい」
なるだろ、そりゃ・・
「当たり前でしょうが!!あんな超自然現象に出会えば!!」
「 「 「 「 だよな?」 」 」 」 」
え!!
僕は思わずその声に振り返った。それは松本の声じゃない。
鼓膜に響く、大きな低い声。
声の主の大きな手がゆっくりと僕達に近づいてくる。
そいつは紛れもなく、僕達を見下ろしていた仁王像だった。
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