第111話 オークの集落探索。

 透明化のまま地面に降り立って集落を見学する。まずはどのような生活をしているのか見てみないとね。雄と雌の区別はなんとなくわかる。顔はほんど同じだけど雌は胸にも布を巻いているから。でも豚って多産でおっぱいもたくさんあった気がするんだけど、まあ異世界だし、地球の知識や常識なんてもともと通用してないか。


 見る限り雄と雌はほぼ同数かな。外にいるオークだけの話だけど、雄はこの時間狩猟とかで出かけているだろうから、雄の方が多いのかな。いや雄も雌も体格とかかわらなさそうだから、狩猟などの仕事も同じようにやっているかもしれない。そうするとやはりほぼ同数とみて良いかもしれない。


 子供も結構な数が居るけど、多産ならすぐに食糧不足になりそうな感じがする。そういうのは上手く種族でコントロールされているのだろうか・・・。それこそ鼠の魔物とかは鼠算式に数が増えてとんでもないことになる気がするんだけどな。


 まあそんな考察は生物学者に任せておこう。この異世界に居るかは知らんけど。集落の人口は500人と言っていた。数え方を人(にん)とするか匹とするかはちょっと考えどころだけど、今は人にしておく。匹なのに人口とかおかしいからね。魔物図鑑にオークは可食って書いてあったんだよなぁ。


 驚くことに木々はうまい具合に伐採されていて、集落としての機能が果たせるよう、小屋が建つ場所、道路のような場所、そして広場のような場所は開けており、それ以外の場所は木々がそのままで、草原の方向からはほとんど気付かない感じになっている。知識や文化という意味でも、小川から簡単な水路を引いたりしているようだ。


 火を使っているかどうかまではまだわからない。でも、腰布や胸当てを付けるということは、防御機能とともに羞恥心がある可能性を捨てきれないし、槍のような武器も持っている。何より小屋を建て言語で意思疎通をしているわけで、これはもう亜人として認識した方がいいのだろうか。でもなぁ、魔石を体内に持っているのは魔物らしいんだよなぁ。


 水路のほとりでは雌豚・・・いや雌オークが井戸端会議をしている。聞き耳を立てていると、旦那がどうの、子供がどうのと言っているので、主婦さんたちだろう。というか普通に井戸端会議だよ。なんだろう・・・あくまで僕の魔法での言語変換による認識ではあるのだろうけれど、旦那とか言ってるということは、結婚制度もあるのかな。もしかして一夫一婦制とか?いやいや異世界ならやっぱり一夫多妻だろうに。


 あれ?そういえば国王のオーグ様からも領主持ち貴族のアート様からも、第二夫人とかの話は聞かなかったな。商人のダフネさんも見た所一夫一婦だったし。この異世界の標準は魔物も人もみんな一夫一婦制なのか?いやいやまだわからない。たまたま知り合いがそういうポリシーというだけで、一夫多妻もあるかもしれないからね。異世界周遊で確認することがまた増えたよ。とはいっても僕は全然一夫多妻とかハーレムに憧れはない。だって女性ひとりでも相手するのが大変そうなのに、それが複数とかありえないと思ってる。でもエロフ・・・エルフさんなら・・・。


 いかんいかん、今はオークの集落の観察中だった。あれ?今まで見た場所には防衛のためのための柵とかなかったのに、向こうの木々の隙間から柵のような設備が見える。ちょっとに見に行こう。


 小川が流れていてそこから水路が集落に引かれているんだけど、その小川のほとりに結構な高さの柵で囲まれた一角がある。というかこの集落スベトーラ地区よりぜんぜん広いよ。小川の向こう側にも小屋が建ってる。そして柵で囲まれた場所もけっこう広い。もしかして家畜でも飼っているのだろうか。オークたちの身長ならちょうどのぞける高さだもんな。


 柵は厳重に張めぐらされていて、隙間から覗けない二重構造だったので、数メートル飛び上がり、上から観察・・・。あ、人だ・・・。


 小屋はオークの物よりだいぶ小さいけど、まあ体格的にそうなるよな。オークは身長3mくらいあるけど、人の場合は成人男性で180cmもあれば普通か少し背が高いくらいだからね。異世界人も地球人もあまり変わらないな。


 柵で囲まれたエリアには老若男女が揃っている。人口というほどではないが、まあエレナが育った集落くらいはありそうだ。もしかしてこの方々がオークに攫われてオークが住んでいる小屋なんかを建てさせられた、囚われている人たちなのかな?でもなんか普通に生活している気がするんだが。


 老若男女というのは間違いだな。まず子供が居ない。そしてお姉さんも居ない。オッサンとオバサンがメインのようだ。小屋の中まで見ていないのでもしかしたらそこに子供たちやお姉さんたちは居るのかもしれないけれど。


 柵の内側をもう少し観察しよう。囚われているにしては自由そうだし、オークが監視しているようでもない。まあここから外に出ても周りはオークの集落なんだけど。ん?あれは若い女性の声?柵の内側を歩いていると、小屋の中から若そうな女性のものと思われる声が聞こえた。子供の声も一緒に聞こえてくるようだ。壁の隙間からちょっと覗いてみよう。ダメかな?


 おとうさんがどうのこうのと、要するに親子の会話のようだ。子供はふたりのようだ。まあ会話というよりも一方的におかあさんであろう方が子供たち・・・ようするに赤ちゃんに語りかけている。ようするに4人家族でおとうさんが出かけている図だね。ぼんやりと見える赤ちゃんはどう見ても人の子だな。


 女性も男性も若い層が柵の中に居ないのは、どこ何出かけているからなのだろう。まあ生きて行くためには食料を調達しなければならないだろうから、狩りなどに行っているならわかるね。でもさ、この人たちってオークの集落に攫われてきたんじゃないの?僕の<トランスレート>がオーク語に対して不具合起こしたのかなぁ。


 ついでに数件の小屋も覗いてみるが、誰も居なかったり、比較的若い女性が家事をしていたり・・・。小屋の様子も以前のスベトーラ地区、ようするにスラムくらいの設備はあるようだ。


 ちょっとどう理解していいのかわからなくなったなぁ。魔物であるオークが実は遅れてはいるがそれなりに文化的な生活を送っていて、そのオークに囚われている人もオークと同程度には文化的な生活を食っている。むしろ人のほうがオークよりいい生活かも知れない。


 そもそも魔物であるオークが文化的生活を送っていて言語を持っているのさえ衝撃的だったのに、隔離はされているにしても、人と共存しているなんて、魔物図鑑には掲載されていなかった。しかもオークは可食とかいてあるから、討伐されれば人が食べるんだろうし。めちゃくちゃ混乱する。


 ここは一度誰かに話を聞いてみた方がいいだろうか。でもなぁ、何のきっかけもなく自分から声かけるとかないよなぁ。しかも僕はこの集落にとってはイレギュラーな侵入者だから、声をかけることでトラブルになる可能性もある・・・。どうしよう。


 仮定として、このオークたちが敵対的でないとすれば、例の僕が整地した草原あたりで彼らに発見されるのをきっかけにして会話を交わした方がいいのではないかな?それなら向こう側から話しかけてくれるし、むしろ侵入者はオーク側だ。その上で、ここに居る人達について聞くほうがトラブルにならないかもしれない。


 というか、ここ魔物の山の中腹なんだよね。なんで他の魔物から襲われず、この集落は存在しているのだろうか。いろいろ不明点が多いので、やはりここは一度拠点であるトレーラーハウスエリアに戻って、オークさんたちから発見されるのを待つべきだろう。うん。


 転移は一瞬なので、トレーラハウス前に到着すると同時に、オークの魔石探索で周辺に偵察に来ているだろうオークを探してみる。盛り上げた台地の西側の縁に5匹・・・人のオークさんがたむろっている。今のままでは結界のせいでこちら側には入れないだろうから、オークさんを通過可能に設定する。


 設定変更後数分待っていると、ひとりの残して、4人のオークさんが整地した側によじ登ってきたようだ。まあ僕の身長くらいの高さだから、オークさんにすれば簡単に登れる高さだし。一応相手が攻撃してくるのも想定して、トレーラーハウスと太陽光発電設備を覆う耐衝撃結界も張ってみる。


 200m四方なので、すぐにオークさん達は僕のいるトレーラーハウスの方に近づいてくる。でも歩みはのろい。周辺を見渡しながらものすごく警戒しているようだ。まあ僕でもいきなりこんな場所が出きたら警戒する。


 ん?目が合ったかも。ちょっと手を振ってみようか。何気に積極的な僕であった。

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