第96話 茜さんと同じ屋根の下。
「へぇ。綺麗だね。外から見たら普通の田舎の家だけど、中はぜんぜん今風なんだね。」
僕の家兼『株式会社エルフの村』本社を訪れたた茜さんのご感想をソファーのクッションに頭を突っ込んだまま聞いていたけど、そろそろ復活しよう。彼女はまだ客様だもんな。
「ようこそ我が家へ。我が家というより会社の事務所ですけどね。」
「兼、社員寮ね。」
そういうことになるな。早速茜さんをドミトリー部屋に案内する。3部屋とも特に違いはないけど、窓の位置がちょっと違うかな。それでもどの部屋も日中はなかなか日当たりはいい。茜さんは僕の部屋に比較的近い端の部屋を選択した。まあどの部屋も近いけど。
荷物を置いて、会社の業務に必要なものをネットで買うという。そのあたりは自由にやってほしい。そういや今回の旅費やホテルの支払いは全部茜さんのカードでやってたから、それも清算しないと。こういうときはどちらの会社経費になるのか聞いてみると、どちらでもよいとこのこと。法人としての事業譲渡で税金かかるから、日本の法人にておくことにした。
そこらの契約書はもう茜さんが準備していて、あとか株主総会と会社役員会を開いて承認すればすぐに進められるそうだ。譲渡で事業は100%向こうに持って行く。それと株式としての個人出資と現金出資、そして法人としての双方株式の持ち合いなどなどあるので、色々面倒くさいけど、そんなところも茜さんがすベてやってくれている。
法人の納税時期までにいろいろ済まそう。というか今月じゃん。僕の心配をよそに、そのあたりの書類も茜さんはすでに用意済み。定期株主総会の招集とか役員会の招集も既に行っていて、明日にでもぼくのひとり株主総会と役員会を行って、議事録を作るみたい。というかもう議事録もほとんどできていて、賛否を問うだけだった。もちろん賛成だわ。
事務所スペースは僕の仕事部屋とはまた別で、広間になる。引っ越してきて全く使っていないけれど、一応大画面モニタとかコピー機とか仕事用のテーブル、パソコンとかは普通に置いてあるから、自宅から徒歩10秒で職場だ。茜さんの正式な雇用は来月からだけど、もう臨時バイトでいいよね。もう時間も自由に使ってくれていい。
僕が今回色々考えて海外に法人作ったわけだけど、茜さんが居なければ、単なる妄想で終わっていたに違いない。茜さん様と呼ぼうかな。
「事務所もドミトリーの部屋も特に改装までするところはないわね。家具の入れ替えだけで充分だわ。広さも私が借りていたマンションのリビングくらいあるじゃない。」
だって、親戚ひと家族がひと部屋に泊まれる広さだからね。それぞれ12畳はある。そして事務所スペース兼広間は20畳以上ある。客用のトイレは広いし、風呂も広い。ジャグジーは僕の部屋の風呂にしかついてないけども。
「気に入ってくれたなら嬉しいです。引っ越し屋さんに連絡して、荷物持ってきてもらわないといけませんね。」
「あら、飛行機の中でもうメールでお願いしておいたわ。」
う~ん、何かと手際がいいな。ほんとこれからもよろしくお願いしたい。ちょっとお茶でも飲んで落ち着いて頂こうか。というか、帰ってからまだ茜さん座ってない。僕はすぐにソファーにダイブしていたのに・・・これはホスト失格かも。
「茜んさん、部屋に荷物置いたらソファーで寛いでください。お茶出しますから。」
そう言って、インベントリからペットボトルのお茶を2本取り出すと、茜さんに笑われた・・・。あれ?ビールが良かったかな。ビールはインベントリに収納してないんだよなぁ。
「あたるくん、私だからいいけど、さすがに初めて迎えるお客様にはペットボトルのお茶は出さないわよ。」
「・・・。」
知ってたけど、茜さんだから良いかなと思ったんだよ。でも、茜さんが僕の家に来るのって、長い付き合いなのに初めてだったわ・・・。
「いいわよ。気にしないでね。あたるくんは良くも悪くも本当に変わらないのね。私を信頼してくれてありがとう。」
なんでここで信頼という言葉が出てくるんだろう。ペットボトルのお茶と信頼にどんな相関関係があるのだろうか。『どういう意味ですか?』とも聞きづらいし、どう受け取ればよいのだろうか。
「空港ですこしきついこと言ったかもしれないけど、私もあたるくんを信頼しているわよ。ろくなことしか考えていない弟みたいなものだけど、私にはちゃんと本音で接してくれるし、私の話もちゃんと聞いて理解しようとしてくれるもの。だからペットボトルのお茶は関係が近い証のようなものだと思っているわ。フフフ」
うん。信用と信頼はメッチャしてる。今僕が家族と離れていても一人でやって行けているのは茜さんのおかげだからね。こんな近くではなく、いつも遠くから見守ってくれた感じだけど、子供のころから僕が苦しいときとか悩んでいるときはなぜか茜さんが話しかけてきてくれてた。別に解決策をくれるわけでもないのだけれど、いつの間にか相談に乗ってもらっているうちに、いろいろ解決してしまうんだよなぁ。もしかして、魔女?そういや異世界には魔女とかいるんだろうか。魔法があるんだから、魔女が居てもおかしくないよね。普通の魔法使いとはちょっと毛色が違う感じで、魔法少女とか名乗ったりして・・・
「あたるくん聞いているの?中年のオジサンみたいに、ニヤニヤ笑わないの。世界を股にかけた企業のCEOなんだから。」
はい、聞いてましたよ。そしてまた出た、中年オッサン認定・・・。というか、中年のオッサンには立派な方が結構いますからね。僕も進んでお知り合いにはなりたくないけども。
「なんかほんと茜さんありがとうございます。」
「お礼なんかいいわよ。でも、ちゃんとありがとうも言えるし、本当に成長したわ。まだ知らない方とは信頼できる相手でも距離を縮めることはできないみたいだけど、そこは今からね。」
「はい。努力はしますけど、そんなに誰とでも距離を縮める必要はもう地球ではないかなぁって・・・。」
「まあいいわ。向こう側で少しづつ慣れてきてちょうだいね。エレナちゃんやスベトラちゃんたちと一緒にいるあたるくんは、こっち側のあたるくんとはほんと別人だわ。」
うん、異世界ではものすごく人と接している。別に自ら望んだわけではないけれど、日本と違って何度も自分から声かけてるし、心の中で突っ込みもできるな。異世界側のほうが僕に向いているんだろうか。というか日本と違い、今のところものすごく僕に優しい世界だからかなぁ。
会話は続くが、だんだんと『エルフ村』運営の実務とか、業務的な話になってきたので、仕事の話は明日以降ということで、さすがに今日はもう休むことにした。茜さんにトイレや風呂を案内し、着替えに関しては旅行バッグのまますべてに<クリーン>をかけて凌いでもらう。
まあ、引っ越し荷物が届いたら、茜さんもすぐ仕事と言わけではなく有給消化中はどこか出かけるだろう。そのときにでもいろいろ買い物してくればいい。車も近日会社名義に変えて社用車にしないとな。いろいろな名義変更なんかが落ち着くのって、いつだろう。明日になったら茜さんに聞いてみよう。明日はひとり株主総会とひとり役員会だな。
「あたるくん、おはよう。」
僕が目を覚まして洗面所で顔を洗い終え、広間に移動したら茜さんが庭からジャージの上下姿で朝の挨拶をくれた。めっちゃ窓というか縁側あけ放ってる。もしかして朝からジョギングというやつか。僕の庭いじりもけっこう健康的だと思っていたけど、走ってひと汗かいてる茜さん見ると、健康的ってこういうことを言うだなと確信できた。なんかキラキラして眩しいわ・・・。
「おはようございます。」
「なんだかとても空気が美味しいわね。時差ボケなんてすぐ吹き飛んだわ。」
空気は美味しいです。異世界の方がもっと美味しいけどね。さて、朝ごはん食べたら、会社関連の用事はさっさと済ませて、はやく異世界に戻ろう。何かあったら電話くれるようにエレナに言ったけど、まったく連絡ないから何も問題ないのだろうけど、それはそれで心配になるものだな。
「それじゃ、朝ごはんはコンビニおにぎりとインスタント味噌汁ですけど、いいですか?」
「どうせ他のをお願いしてももコンビニシリーズでしょ。」
その通りだ。僕の行動は過去から未来まで読まれるのだろうか・・・。
朝食を終え、株主総会も会社役員会も全員出席の上、総員一致でelf-village inc, の子会社化を可決、その他の議事も滞りなく可決されていく。もちろん予算も承認された。議長をするのも問われて挙手して同意するのも僕、議事録を承認するのも僕。ひとり無双。
そしてelf-village inc,のCEOと株式会社エルフの村の代表取締役は正式に契約締結の書面にサインする。これも全部僕。契約書は3部作って一部はキャサリンさんに送って、保管してもらう。念のために議事進行や契約などについてはビデオ録画してある。必要ないかもしれないけれど、何かあったときのための契約の証拠として。僕は慎重派なのだよ。
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