第73話 謁見の間控室にて。

「余だ、どうだ驚いたか。」


「はぁ、驚きました。」


 驚くというより、困惑しましたよ・・・。いろいろ口止めしたりしていたことが、吹っ飛んでいないか心配。でも考えてみれば、まだこの異世界のほんの一部しか周っていないのだから、最悪はこの国から脱出してもいいか。魔法がバレているなら逆手にとって知り合いには転移で会いに来ればいいし。うん。開き直れた。


「詳しくはサシャやアートに聞くと良い。また後でな。」


 この国の人はなんでみんなガチャ切りするんだろうか。さて、サロンに行く前にサシャさんとアート様に事情聴取しないと、万が一にもサロンで誰かに話しかけられても、何を言っていいのかさえわからない。


「今回の謁見については、サシャさんとアート様に聞いてみろと言われました。いったいなんなのですか?勲章もそうだし、報奨金もあまりにも分不相応だと思うのですが。それに名誉王国民ってなんですか・・・。」


 日本でも名誉市民とかスポーツ選手とか芸能人がなっていたけど、あれっていったいどんなものなんだろうか。


「昨日の夜あれから打ち合わせたのよ。ます危機を知っている宰相や大臣たち、それに今日は来てないけど、ジニム辺境伯領より西側の領地の領主、トスタ辺境伯とカラガ伯爵にどう伝えるか。もちろんみんな既に結界守の村での研究の事は知っているから、私が推薦し、アート君が市井の魔法使いであるアタール君を招聘して、その研究のおかげで、魔力チャージの魔法石の劣化問題を解決したということにしたの。」


 西の領地はふたつあるんだな。まあそれはいい。解決したときの手法や使った魔法とか、いろいろ聞かれてしまうのではないだろうか。


「幸い魔法使いには、国王陛下以外には門外不出の魔法を秘密にすることが認められているから、その解決方法は叔父様だけが知っていれば済む話なのよ。それで解決自体を数日前に遡って成したことにして、その報告が前回の謁見、そして今日がその認定と褒美というわけ。叔父様のおっしゃっていた『先日の謁見で、研究成果に対しての貴族位を打診した』というのはそういうことよ。」


 まあ、専制君主制の独裁政治だからできるんだろうな。国全体の為政者としてはどういうことをしている方かはまだ知らないけど、僕やエレナに対しては、良い人ではあるから今は問題ないしね。しかし、魔法使いに門外不出の魔法を秘密にすることが認められてるというのは知らなかった。もう全部秘密でいいよね。サシャさんは門外不出の魔法・・・持っているだろうな。国王様だけには報告というのは、やはり国家の存亡にかかわるような魔法もある可能性があるってことか・・・。


「でもなぜエレナまで?」


「なぜって、アタール君の専属助手でしょ。王都の大学でも専属助手は共同研究者として認められているわ。」


 大学あるんだ・・・。はぁ、助手っていっても研究というかそう言う面ではエレナは影薄かった。そもそも僕も研究してないし。・・・そうか、これだけ早く解決したのは、エレナが僕にハッパをかけてくれたが一番の要因でもあるから、いちばんの功労者はエレナかもしれないな。納得だ。エレナはポカンと口を開けてるけど。


「あと勲章とか名誉王国民というのはなんでしょうか?」


「勲章授与のときに『ジャーパン皇国の臣民であり』というのもおっしゃっていたでしょ、名誉王国民というのは、外国の方に贈られる名誉称号で、特に特権はないわ。」


 あれ?僕ってジャーパン皇国出身というのは言ってるけど、一応ジニム領で平民じゃなかったっけ・・・。


「あの、先日も王国の平民として・・・というかそう言う意味合いのことを言いましたし、ジャーパン皇国に至っては・・・その、この世界の国でさえないのですが・・・。」


「だから今日認定したのよ。私の推薦でアート君が秘密裏に領主として招聘し平民として登録。研究所の所長で公爵である私が受け入れ、国王陛下がそれを認証したという筋書きよ。転移や<リペア>のことは誰に言っていなわ。ジャーパン皇国からは、あなたの最初のシナリオどおりの巻き込まれ移転でいいわ。そもそも他の大陸のことなんて、誰も知らないから、そして秘密を知っているのは約束通り、叔父様と私とアート君だけよ。」


 さすが、国王様やアート様なんかは長年為政者として政治を行っているのだし、サシャさんも伊達に歳をとってない・・・。あ、なんで考えるだけで睨まれるんだろうか。僕の魔法でできない読心の魔法ができるとか・・・はっ、それが門外不出の・・・?おっと、続き聞かなきゃ。


「それでね、アート君の領のスラム問題を解決し、アーティファクトの銀時計を陛下に献上、その上謁見にはアーティファクトの乗り物で王城に乗りつける異国の魔法使いとして、もう王都では誰もがアタール君のことを噂していますし。もちろん叔父様が贈ったメダルの効果もあるわね。」


 そうだよね、大金貨2000枚相当の値が付く時計ということだし、車なんてどう見てもそれ以上の価値のあるアーティファクトにしか見えないし・・・はっ、ここまで考えてアート様は車で乗り付けさせたのか?・・・・いや無いな。あの人は単なるノリでする人だ。


「そして勲章だけど、これは私やアート君も驚いたわ。おそらく出席者全員が息をのんだと思うの。伝承で大閃光宝章というのは建国の父である初代国王様が、建国時にご自分でつけておられた勲章で、そのときに建国の立役者である同志たちに贈られたのが閃光宝章よ。閃光宝章は今でも稀に贈られるのだけど、この王国では最高の勲章。おそらくだけど、大閃光宝章はその伝承にある本物。初代国王様が身に着けておられたものよ。」


 ・・・そんなものもらえないよ・・・返せないかな。エレナはもうさっきから口を開けて固まったままだ。


「だから、アタール君の待遇は、まず国外から来られる貴賓に貸与するメダルを貸与ではなく賜り、ジャーパン皇国からの研究所の招聘者であり、初代国王様と同等の偉業を成し遂げた、異邦人の英雄様ってところかしらね。もちろんエレナさんはそのアタール君を支えるたったひとりの専属助手にして、ご家族ってこと。ご家族とはいっても、人種が違うから今日いらしていた皆さんはご夫婦とおもわれたでしょうね。」


『初代国王様と同等の偉業』ってなんだよ・・・。英雄なんか嫌だし。そんなの忙しそうだし、何かいろいろ押し付けられるヤツだよね。やっぱり勲章は返そう。お金は・・・僕とエレナの分を併せると、100億円相当でしょ、もう50億円貰ってるから合計150億円・・・。ダメだ。これはインベントリで眠らせておこう。エレナの分はいいけど、僕のは辞退しようかな。何もかもが分不相応すぎるよね。・・・・というか、夫婦?ないない。まだまだ独身を謳歌しないと。むしろこれからでしょ。


「その・・・エレナは遠縁の親せきとか義理の兄妹ということでお願いします・・・。」


 なんでそこで、エレナはむくれるかな。出会ってまだ6日目だからね。ここまで信頼していることだけでも自分で驚愕してるんだから。はい、サシャさんもアート様もそこで舌打ちしない。


「それじゃぁアタールさん、遠縁の親せきでいいです。」


 エレナは遠縁の親せき設定を選んだようだ。サシャさんとアート様に、報奨金と勲章の辞退について聞いてみたけど、『それは国王陛下にきいてくれ。』とアドバイスさえくれなかった。


「もしもし、国王様ですか?」


「余だ。なんだその『もしもし』というのは。それより早くサロンに行かんか。アタール君が行かんと余も動けないのだ。それに・・・・」


 ぶった切る。


「あの、報奨金と勲章ですが辞退できないかと。あまりに・・・」


「無理。」


 ぶった切られた上にガチャ切りされた。アート様は横で聞き耳を立ていて、大笑いしている。


「お、そうだ。アタール君いや、アタール様。サロンでは『様』づけで呼ぶからな。おそらく国王陛下以外はそう呼ぶことになる。一応心しておけ。」


 アタール様に『しておけ』ってどうなんでしょうか。この口調も変わるんだろうか。オッサンに様付けられても嬉しくもない。おっさんだけじゃなくてもそんなの手紙の宛名くらいでいいよ。


 あれ?でも、そういえばこの国にも足を引っ張る貴族とかいるんじゃなかったっけ。そういう人たちもサロンに来るんじゃないだろうか。どうなんだろう。またここからトラブルに巻き込まれるのは勘弁してほしいな。


「アート様、そういえばスラム地区件で、足を引っ張る貴族とか、そう言う方々もいらっしゃるわけでしょ?今回そういう方もいらっしゃるのでは?」


「あ、ああいうのはほとんどが領地持ちだから、今日はおらん。王都の子弟も呼んでおらんしな。貴族官僚は今回の件は大歓迎だ。国王派だからな。まあ、経済や商業関係の大臣は貴族派だが、今回は来ておらん。というか呼んでおらん。単なる謁見という名目にしたからな。政務を補佐関係者以外では、陛下が声をかけた信用できる貴族、近衛、執事しかおらん。」


 まあ、このあたりを誰がどうだと聞いても覚えられないし、今日はしょうがないけど、今後はなるべくかかわらないようにすればいいか。アート様にお願いして、サルハの街では、静かに暮らせるよう、これが終わったらお願いしてみよう。後は開き直るしかないな。どうしても我慢ならないときは逃亡という最終手段があると気が楽だし。


「おい、アタール様、そろそろサロンに行くぞ。我につい来い。」


 絶対、『様』付けて呼ぶ人に対する口調じゃないよね・・・。まあしょうがない、アート様に付いて行くか・・・。

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