第64話 アーティファクトの劣化問題。
「叔父様、いえ陛下、ここまでのお話の中で、アタールさんについて私は信頼しても良い方だと感じています。そして彼にでしかできないことをお願いしたいという思いは、先ほどと同じです。どうでしょうか。陛下さえよろしければ、私はアタールさんに現状を語ったうえでお願いしようと思いますが。」
なにやらかなり重要な話のようだ。襟を正してお聞きする姿勢をとる。アート様は腕を組んで真剣な顔で頷いている。エレナはポカンと口を開けているね。
「余もそれで良い。しかしアタール君、この話を聞いてしまった場合、もう後には引けんぞ。いや、結果がどうのというわけではない。同じ秘密を共有することになるということだ。この国王である余、そして公爵であるサシャ、辺境伯であるアートと同じ秘密をな。これからサシャから聞く話は、たとえどんなに親しかろうが、肉親であろうが口外無用だ。それでも聞いてくれるか?」
うわぁ、これかなりハードル上げられてる・・・。けど、食事前も皆さん真摯に僕の話を聞いてくれて、僕のためにいろいろ考えてくれてたのだから、ここは報いるべきだろうな。アート様は知らんけど。
「わかりました。心して聞かせていただきます。エレナさんはどうしますか?」
いきなり声を掛けたものだから、エレナはビクッと体を個話ならせたけど、僕に向き直るなり、キリっとした表情になりコクンと頷き、国王様に向き直ると、
「わたしはアタールさんに尽くすと決めております。わたしが聞いてよいのならば、一緒にお聞きしたいです。そしてアタールさんとともに、秘密を守ります。」
と言ってくれた。だよね。ここまで来てひとりだけ仲間はずれも嫌だろうし、もう今は僕もエレナを信頼しているから、あとは国王様の判断を待つ。うん、国王様とサシャさんが頷き合っている。
「アートもそれで良いか?」
「はい。」
どうやらエレナの希望は叶ったようだ。早速サシャさんが説明を始めた。
「ありがとう、おふたりとも。それじゃまず、現状から説明するわ。今までの話で、魔物の山と結界について、そして結界守の村の役割については分かってもらえたと思うの。問題は、500年という時の流れなの。」
これは予想が付く。リペアはかけることで元の状態に戻るし魔法維持は必要ないけど、そこから再び劣化が始まるだろうし。セーブはおそらく魔力供給が切れると、セーブされた状態が解除されて、劣化が始まる。古の時代から発掘される間に、たとえセーブがかかっていても魔力供給が切れた状態が続いていたから、既にかなりの劣化が進んでいたのだろう。
でももしも大昔に銀色の魔法石が存在していたとしたら、僕の魔力をチャージした魔石も研究や物語と違って、やはり何百年単位かで魔力は切れ劣化するのかもしれない・・・。
あ、サシャさんにジト目されないうちに話の続き聞かなきゃ・・・。
「結界のための魔力チャージの魔法石が劣化していて、もうほとんど使い物にならなくなってきているの。使い物にならないというのは、壊れたということ。今使えるアーティファクトの魔法石はもうあと数個、ごく僅か・・・。その数個が今日明日に壊れてしまうというわけではないわ。でも今までの記録でアーティファクトの魔法石が壊れる期間を見てみると、数か月後、数年後には・・・。」
それはまさしく国家の危機ですよね。東西千キロ以上の結界がある日突然消失すれば、魔物の山から魔物があふれ出てくる可能性が大きい。そもそも魔物の山側の魔物の数とか把握しているのだろうか?古の時代から約2000年、結界を張りなおして約500年、その間に魔物がかなり増えているのではないか。
「あの、お話の途中ですみません、魔物の山の魔物のおおよその数って、把握されているのですか?」
僕の質問に、サシャさんとアート様は、首を横に振って答えた。国王様は深くため息をついている。
「地図を見ても分かる通り、北の国境線は長いわ。とても調査などできないし、魔物の山の魔物は強力だから、調査をするにしても膨大な戦力を必要とするの。とても無理だわ。それに・・・、結果守の村は対魔物の要で、これはアート君に聞いた方が詳しいけれど、他国からの結果守の村への干渉を防ぐために、周辺に密かに防衛網を敷いているわ。西の国境、南の国境、そして結果守の村。ここに既に膨大な戦力を配置していて、そんな余裕もない・・・のよ。」
うわぁ・・・これはバイクの事も具体的に知られている可能性が大きいな・・・まあいいか。
ん?この異世界には、サンプリング調査という概念はないのか。調査といえば全量調査なんだな。まあ、サムア王国側や、魔物の山の北側には結界がないと考えると、そちら側に異様にあふれ出ていなければ、魔物の飽和状態ではないとは思うのだけど、そこは僕は知らないからな。
「戦力の話は、あとでアート君に詳しくきいてね。それで、私も含めて、結果守の村では、アーティファクトの魔法石の代替えの研究も続けていますが、芳しい成果は上がっていません。そこで・・・、」
サシャさんが国王様の方を見て、再び頷き合っている。
「アタールさんに、是非その研究の協力をお願いしたいの。どうかしら。」
エレナの方を見ると、僕をじっと見つめている。ジト目ではない。期待のこもった目だな。これは引き受けるしかないだろうけど、結果守の村に張り付きは困る。週一とか不定期ならいいけどどうかな・・・。
「お手伝いさせていただきます。でも、少しだけ条件を付けさせてもらっていいですか?足元を見るようなものではありません。」
「なにかしら?内容によると思うわ。ねえ、叔父様。」
「良い、余に言ってみろ。」
「ありがとうございます。その研究なのですが、僕はここで行ってもよろしいでしょうか。もちろん定期、不定期で結果守の村を訪問して、情報の共有や研究の成果を開示しますし、魔法石の魔力チャージなどもよろしければ参加させていただきます。」
また国王様とサシャさんがひそひそ話を始めた。でもアート様はいつも蚊帳の外なんだな、なんか少し可哀そうかも。
「わかった、それで構わん。細かいことは結果守の村で、サシャと打ち合わせしてくれ。どういう研究をしているのか、見て聞いた方が早い。それとアート、お前はアタール君がお前の領地に居る間は、サポート役だ。アタール君やエレナさんに、決して粗相のないようにな。あと報酬はあとで余が送るからお前が出しておけ・・・いや、転移ができるのだから、たまに、アタール君が顔を出せばいいのか?うむ。」
国王様のアート様に対する扱い、やっぱりひどくない?そして、転移とはいっても、街に入るときには門番を通さなきゃいけないから、街門のかなり前から歩くなりしないといけないんだよね。まだこの国に来てから雨に当たったことはないけど、場合によっては雨の中を歩くことになるし、行くたびに先ぶれ出さなきゃいけなんだよな。で、報酬?なにそれ。あと、まだサルハの街にさえまともに住んでないんだけども・・・。あ、アート様がこっち向いた。
「では、アタール君、我らが王国のため、我が領のために力を借りるが、よろしく頼む。」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。それでは皆さん、そろそろ王城に戻りますか。」
僕が皆に問うと、国王様が車に乗って飛びたいとごね出したので、王都が見えるところくらいまで、飛んで行くことになった。まあ、飛ばせば2時間くらいだからね。途中、席を交代しながら、眺めを楽んだ。国王様が助手席を所望されたときいは、エレナが少しむくれていたけれど、後ろでサシャさんと盛り上がっていたので良しとする。今度四駆のワンボックスカーでも買うかな。
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