第63話 魔物の処分はすぐには無理みたい。

「はい、サルハの街で冒険者登録しました。まだ何の活動もできていませんが。しかしアート様とご縁ができたのは、冒険者になったおかげだと思っております。」


 エレナがめっちゃ得意そうに頷いているけど、エレナはまだ冒険者登録できていないから。これが終わったら登録に行こうね。


「結界、ここでは、魔法障壁という言い方をさせていただきます。かなりの試行錯誤の上、上手く操れるようになりまして、この島に居た魔物をまとめて捕獲しました。まあ、一部は討伐というか、捕獲の際に間違って殺してしまったものもあります。で、その捕獲した魔物はすべて、僕のインベントリに収納しています。」


 サシャさんがまず食いついた。


「インベントリに生きたままの魔物を収納できるの?しかもその量を?」


「はい、最初は虫で試したのですが問題なかったので、以前にこの島でではなくてですね、サルハの街の近くでもう少し大きな生き物を複数入れてみまして、数日経ったあとに取り出してみると、生きたままで取り出せましたので、間違いありません。量に関しては僕も良く分からないんです。今のところは入れただけ入るとしか・・・。」


 サシャさんが『これは新しい発見だわ、いえ、アタールさんだけ?・・・』と、自分の世界に入り始めたが、エレナが『サシャさん、まだ話おわっていませんよ。』と現実世界に引き戻してくれている。


「それでですね、生きている魔物の息の根を止めることは、問題ないとは思っています。なんとか試行錯誤してどうにかするのですが、問題は魔物の種類と数です。」


「種類と数?おい、なんだ、アートはさっきから青い顔して・・・・?」


 国王様も何か悟ったようだ。アート様は・・・もう開き直ってるな。


「ます数ですが、おおよそで申し訳ありませんが約3500体となります。そして都合でまだ種類は1体しか確認しておりませんし、これもおそらくですが、ドラゴンです。」


 アート様とエレナはやれやれというジェスチャーしてる。予想はしていたけど、国王様とサシャさんは分かりやすく口をあんぐりと開けたままで固まっている。これは復帰に少し時間がかかりそうなので、僕はぬるくなったレモンティーに魔法で作った氷を入れておいた。アート様とエレナはお代わりまでしてる。エレナの飲んだ後のニマッとした表情が可愛いな。アート様はオッサンだからどうでもいい。あ、そろそろ復帰かな。


「そ、それでそれを余にどうせよと?」


 そこは今から説明せねばなるまい。


「僕は魔物の討伐は問題ないのですが、解体をしたことがありません。魔法で魔石だけ抜き取ることは可能です。魔物には食用になるもの有るのを知っていますから、魔法で焼き尽くすのも勿体ないですし、魔物図鑑を見て、いろいろな素材になることも知りました。ですからお願いしたいのは、魔石以外の魔物の解体と引き取りです。」


「・・・・・・ドラゴンもか?」


「・・・・・・ドラゴンもです。」


「アタール君、その件は少し考えさせてくれんか。アタール君の名前や素性を伏せたうえで、王国内の魔物の流通を調べさせる。一気に流通させては、相場を崩壊させてしまい、商人ギルドや冒険者ギルドを敵に回しかねん。特にドラゴンともなると、討伐した者は英雄として祭りたてられるし、本来ならば貴族位を与えなければならん程の功績なのだ。」


 祭りたてられたくないし、貴族位もおそらく義務が付きまとうだろうから、なるべく欲しくないかな。商人ギルドや冒険者ギルドももちろん敵に回すのは勘弁願いたい。


「しかし、わが国には結界守の村があるため、本来ドラゴンのような大物の魔物が出ることは稀、いや稀というより、余が生まれてからこの方、目撃も被害も全くないのだ。だから、ドラゴンを引き取るということは、魔物結界の信頼が揺らぐということでもあるから、勘弁願いたいな。」


 そうか、本来ファガ王国に出没しない魔物が混じっていれば、魔物の山の結界が破られたと思う方々も居るのか。気軽に在庫を放出できないな。あ、国王様腕組みしながら何か考えてる。


「ただ、サムワ王国では、ドラゴンの目撃例があるそうだ。だから冒険者として、サムサ王国でドラゴンを討伐したついでに、そこに混ぜることはできるな。」


 うん、なかなかいい意見かもしれない。今すぐに在庫の放出はできなくても、確実に処分できる方法だし、いろいろな支部を回って依頼を見れば、在庫の魔物が討伐対象にあるかもしれないし。魔石の取り扱いがどうなるかは、確認が必要だけど。あ、祭り上げられる件はどうしようか・・・しかも、のんびりと暮らすという目標には相反する気がする・・・でも、最初は、異世界を周って写真撮ったりするつもりでもあったし、色々な国を周るのもいいよな。まだお会いしていないエロフ・・・いやエルフのお姉さんにも会えるかもしれないし、日本でもまだ行ったことはないけど歓楽街とかもあるのかもしれない。それと温泉!温泉はいいよな、ぜひと・・・。


「アタール君、聞いておるのかね。」


「すみません、聞いておりませんでした。」


 うわぁ、全員にジト目で見られてるし・・・。90度に腰を折って頭を下げた。


「まあよい、王国で処分可能な魔物は、受け入れられるようにしようとは思うが、先ほど言ったように、少し考えさせてくれ。信用に値するものをアタール君に紹介するかもしれん。とにかくもう少し待て。」


「はい、わかりました。でも本当にありがとうございます。インベントリの中が魔物だらけだと落ち着かなくて。可能性が見えただけでも大いに助かっています。」


 精神的にね。これで一応僕の案件は終わりかな。


「それでは、僕のご相談はこれで一応終わりになります。重ね重ね、皆さま本当にありがとうございました。」


「それでは、私からのお話、早速聞いてくれるかしら?」


「もちろんですけど、お腹空きませんか?お食事でもどうでしょうか。」


 さっきから、エレナがお腹を押さえているのって、あれは腹痛とかではなく、おそらくお腹がへったサインだと思う。皆さんに同意を得られたので、用意ができるまで、リビングで寛いでもらい、出来上がったらダイニングに案内する。とはいっても、繋がってるからすぐそこに見えているんだけど。


 エレナが食器を用意して、僕がコンビニ弁当を食器に盛りなおした後、複製する。コンビニ弁当の容器ゴミもそろそろ処分したいな。昼食にはミートソースドリアを選んだ。移し替えるからちょっと崩れるけどそれはまあ、男の料理ということで。スープはミネストローネ。あとは冷たい水。エレナがテキパキと配膳してくれて助かる。そういや、ドリアって米使ってるけど、この世界にも米ってあるのかな。まあ、落ち着いたら聞いてみよう。


 昼食は好評だった。国王様や辺境伯という貴族様が普段どんな食事をされているのかわからないので、ちょっと心配したけど、みんな気に入ってくれたようだ。いよいよこの世界の食材で再現できるか試してみないといけないな。


 ステンレスのスプーンとフォークも注目を集めた。あ、ガラスのコップも気になっていたそうで色々聞かれたけど、いちいちスマホで調べるのも面倒なので、『ジャーパン皇国の職人さんが作った物なので、僕もよくわかりません。』と、お茶を濁しておいた。ちなみに食後休息のときにトイレの使い方をいちいち説明するのが面倒くさかった。サシャさんにはエレナが説明に行ったからいいけども。


 さて、食後再びリビングに集まり、会議の再開。先ほどまでひそひそとまた国王様、公爵様、辺境伯様が打ち合わせしていたから、だいたい話はまとまっているだろう。サシャさんの言っていた僕に聞いてほしいことって何かな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る