第62話 銀色の魔法石。

「まず西側だけど、サムワ王国との国境付近、ここから結界守の村がほぼ中央となっていて、東の端はアート君の領地の東端、ちょうど海のところね。ここまでになるわ。もしかしたら西側のサムサ王国のもっと内部まで結界が及んでいるかもしれないけれど、確認できているのは、ここから、ここまで。結界のアーティファクトは実際には設置したのではなくて、その中心であるらしい今の結界守の村の場所で、だいたい500年ほど前だけど、領地開拓団が結界をコントロールする魔法石、アーティファクトを見つけたのよ。」


 なんかそんな話を一番最初に聞いた覚えがある。国の依頼で結界を張ったとかなんとか。結界は自力じゃなくて、偶然だったのか。


「続けるわね。もう当時の文献でしか伺い知れないけれども、私のご先祖がそのコントロールする方法を研究して、一緒に発掘された魔法石に魔力をチャージすることによって、結界を維持できることが分かったの。それ以降、私の一族は結界守の村で結界を維持する責任を負うことになったわけ。それでアタールさんにちょっと聞いてほしいことがあるけど、後でね。」


 うむ、まあそこは分かった。結界の範囲はけっこう大雑把にしか把握されていないようだ。後でする話って何だろうか。まあ、話してくれるのだから後でいいか。


「ありがとうございます、サシャさん。今おっしゃった結界の範囲の東の端ですが、この島には及んでいませんでした。ですので、この島は魔物の山のエリアと考えられます。僕はまだこの世界の事には疎いので、海や空の魔物の全貌は知りません。冒険者ギルドで見せていただいた魔物図鑑の範囲でしか分からないというところです。そしてここからが説明とご相談です。」


 一旦区切って、王城から持ってきた魔石を取り出す。


「この魔石は、国王様に用意していただいた未加工の魔石です。今、目には見えませんが、まずこの家の周辺、およそ100m四方の結界ここは僕の許可がないと入れない範囲です。今は魔物、人、あと雨や有毒ガスもブロックしています。」


 見えないって説明したのに、なんかみんな窓の方を見ているね。


「それと島全体を覆う結界も設置していて、これは、直径約10kmの円形で、高さは150mほどになっていて、今は魔物だけを防ぐ結界となっています。その結界用の魔道具としての機能と魔法チャージの機能を一緒に付与して、結界維持に利用しているのですが、その魔石は以前狩ったモンスターボア、だいたい全長が6m程度の魔物から得たものを2個と4m弱の固体のものを1個、合計3個利用しています。」


 うん、ここは一旦固まるところだよね。このあたりはエレナもまだ全部知らなかっただろうから、固まり仲間になってる。ん、そろそろ大丈夫かな。


「その魔力チャージを今この魔石に行ってみますね、見ていてください。」


 国王様に用意していただいた中から直径3cmほどの魔石を1個手に取って、魔力をチャージする。もう慣れたし、これは単なる魔石だから壊しても大丈夫と思うので、雑に3秒ほど魔力をチャージすると銀色に輝いた。


「と、こんな感じでチャージすると、今お見せしたように銀色になって、これ以上は変わらないんですよ。この家を離れることも多いですし、離れている間に結界が切れると困るので、たとえばこの大きさの魔力をチャージした魔石でどれくらいの時間が持つのか、お聞きしたかったのです。」


 せっかく復帰していた国王様が再び固まっているが、その他のメンバーは、一度見ているので特に反応は無い。よね?


「ア、ア、アタールさん、それってさっきまでは未加工の魔石だったわよね。」


 ん?あ、サシャさんの前でチャージしたのはチャージ用の魔法石だったから、まだ見せていなかったか。


「はい。初めてやったときには、サルハの街の知り合いの商人さんの前で小さな魔石で同じことをしたら驚かれていたんですが、僕は加工方法を知りませんから、魔法を付与するのも、魔力をチャージするのも、魔石のままです。やはり問題がありますか?」


「も、問題といえば問題だけど、今はそういうことではないのです。叔父様、もう話してもいいのではないですか?」


「ああ、余もそう思うが、先にアタール君の話を最後まで聞こうではないか。それと、アタール君の質問に答えてやれんのか?」


 国王様からそう言われたサシャさんはものすごく思案顔しながらも、一人で納得した顔になった。そして大きくうなずいて、


「そうね、まずその銀色の魔法石だけど、研究文献や物語では有名なものよ。チャージされた魔力は制限いっぱい。でもね、おそらくだけど、その大きさの魔法石を国の第一宮廷魔法使いが何日かけてチャージしても、銀色にはならないわ。そして、もし銀色になるくらいにチャージしたらおそらく魔法石は壊れてしまいます。」


 研究では失敗というか上手くいかなくて、ほぼ伝説の魔石か・・いや魔法石か・・・。


「ご先祖様の文献でも研究されていたのは分かっていますけど、普通の魔法石でもアーティファクトの魔法石でも出来なかったとあります。今朝私が一番驚いたのは、その事。でも、目の前で見たときには、強大な魔力があって、対象がアーティファクトの魔法石で、短時間でチャージしたならば、あるいわ壊れずにチャージできるのかもしれないと考えていたわ。」


 そういう文献あっても、お爺さんの書斎の蔵書はまだ整理しきれていないからな。速読の魔法とか作れなかったし・・・なんで魔法で頭良くならないのかな・・・。しかしせっかく相談に乗ってもらっているのだから、もっとそういう知識を得る必要があるな・・・。魔石、魔法石、そして付与魔法。それぞれに加工の仕方や付与の仕方、使い方なんかの決まりごとがあるんだろう。そういうのを知識として身に着けないと、思わぬ所で落とし穴に・・・。


「アタールさん、聞いてますか?」


 あ、サシャさんちょっとお冠?国王様の前でもやってしまったか。エレナは・・・ジト目だ。


「は、はい。聞いております?」


 少し疑問形で返事をしてしまった・・・。サシャさんは『続けます。』とキリっとしたお顔で話を続ける。


「銀色の魔法石、もうここからは物語か伝説の世界だけど、この世界のことを知らないアタールさんに説明すると、銀色になるまで魔法石にチャージされた魔力は、周りにある自然の魔素、ようするに魔力ね。それを勝手に取り込むから、『どれくらいの時間が持つのか』という問いへの答えは、ほぼ無限といわれている。と答えるしかないわ。ほぼというのは、魔法石や魔道具が劣化して壊れてしまうから。だから、アタールさんが今作った魔法石は劣化で壊れるまで持つということです。」


 うわぁ、魔素出た!夢の無限エネルギーだった・・・。ひとり核融合炉かっ!あ、魔法石がエネルギー源だから、”ひとり”はおかしいか。僕は設備じゃないし。


「あ、ありがとうございます。その、大きさとかで出力というか、動かせる魔道具・・・例えば、結界の範囲とかかわるのでしょうか?」


 これはけっこう大切な質問だと思ってる。スマホのバッテリーとか、アプリ動かしているとすぐなくなるけど、タブレットとかノートパソコンはかなり持つし。サシャさんの答えを待つ。


「わからないわ。だって、使った記録がないのだもの。」


 そうか、そうですよね。あ、しかし僕の家の魔石って、付与やチャージのあとにセーブかけてるよね・・・劣化がないのでは。さっき、魔道具とかの劣化がどうのとか言ってたから、セーブとかリペアとかアンドゥも話すかどうかはペンディングにしておこう。


「ありがとうございます。そこまで聞ければ、ある程度安心できます。あとは自分で実験もできますから。」


「良かったな、アタール君。これで問題解決だな。それじゃ、陛下、叔母様、こちらの要件をアタール君に・・・。」


 叔母様呼びで、サシャさんの機嫌が悪くなってる・・・。でもまだ解決していないことがあるから、僕は勿論アート様の話をぶった切る。


「あ、ちょっと待ってください、まだひとつ、アート様にお話した件、魔物の処理の話が残っています。」


「アートはそそっかしいのう。それは魔法についてか?そうならサシャにまた答えてもらうが。」


 いや、この件はおそらく国王様案件ですね。


「いいえ、僕が討伐・・・いえ捕獲した魔物を処分したいのです。この島には魔物が居たって説明したと思いますが、結界を張る前?に、すべての魔物を捕獲したのです。その処理というか処分について、国王様にお願いしたいと言いますかお力を借りたいと言いますか、今回のご相談のきっかけでもあります。アート様では判断できないとの事でしたので。」


「そういえば、アタール君は冒険者でもあったな。」


 国王様はアート様の方を見て、そう言っていたんだけど、アート様は青い顔をして固まっている。まあ、まだ国王様は魔物の数を知らないからね。あ、サシャさんもか。

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