第51話 大叔父。

「ありがとうございます。納得いたしました。つぎに・・・」


「ちょっと待て、こんな場所だから堅苦しくなる。おい、談話室を用意しろ。すぐそっちに移るぞ。」


 次の質問を途中でぶった切られ、領主様は会場の変更を所望された。まあ、僕やエレナさんのより、さっきから立ってる、ユリア奥様やご子息、ご息女たちが気になってたからありがたい。ご領主様一家はそそくさと謁見室から去って行き、僕たちはアンドレイさんに再び案内されることになった。


 こちらです。と案内された談話室は、おそらく噂で聞くサロンの小型版だ。大勢でダンスはできない広さだけど、ちょっとしたパーティー開けるやつ。すみません噂で聞いてません。ネット情報です。


 そのサロンにデーンと置かれた応接セットには既に領主様一家が座り、歓談している。僕たちも案内されるまま、ソファーに腰を下ろした。


「それで、さっきの続きな。あ、アンドレイ、お茶入れてくれ。菓子もな。」


 口調、どんどん崩れていくけど、いいんだろうか。貴族様って、家族でも子供とほとんど顔を合わせないとか、自分の領内をしょっちゅう引っ越ししてるとかの情報も見たことある。このご一家は、見る限りとても仲睦まじい。ご子息ふたりで将来跡目争いとかないのだろうか。


「質問の続きですよね。はい。先ほどおっしゃっていた、大叔父とは、どなたの事なのでしょう?」


「硬いなぁ、そういうのも、お茶飲みながら教えてやるわ。」


 隣では早速用意されたお茶とお茶菓子をエレナさんがユリア様とご息女様とともにお召し上がりになりながら歓談を開始している。エレナさんの順応性の高さは、天性のもの?


「アタール君、いやもうアタール”様”と呼んだ方がいいかもしれんなぁ。叔母の手紙にあったが、お前の魔力量、第一上級宮廷魔法使いを軽く上回ってるらしいぞ。どれくらいの量か分からんくらいって書いてあった。」


 もしサシャさんに探知されたのなら、そうかもしれない。インベントリの収納容量だけでも半端ないし、あのときは何度もサシャさん家のトイレで転移実験のようなことしてたし。というか、様なのにお前って・・・。


「だから一応、国王にも報告したって書いてた。大叔父な。それと叔母にくれてやったあの時計な、国王に献上したって。それで大叔父がな、王都の商人ギルドの幹部呼んで見せたらしいが、あれ、魔法はかかってないが、アーティファクトだって?大金貨2000枚出すから売ってくれと言ってきたらしいぞ。我もよく分からんが、古代技術の機械で、今は絶対再現できんくらいに精密だといっとったらしいぞ。」


 こ、国王?大叔父は国王様?あの銀時計が、10億円相当?この国で静かに暮らすのはもう、無理っぽいのかなぁ。


「心配せんでも、銀時計は売っとらんし、お前にあれこれと言うこともない。普通に暮らして居ればいい。叔母はそれだけで、国や領の役にたつはずだと書いとった。実際我がサルハの街から報告を聞いたのは、役に立った後だったからな。」


「お、恐れ入ります。」


 なんか言葉もないが、なんとかなりそうかな。この異世界に来て1か月ほど、一応知り合いもそこそこできて、エレナさんという可愛い秘書もできたばかり。完全にあの島に引きこもるのではなくて、やっぱり街でコミュニケーションしたいよね。まあ、まだ普通に話せる人数は少ないけども。特にお姉さんたちとは、まったくと言って良いほどコミュニケーションしてないからね。でも、僕がお金をバカスカ使っても、代官様が疑問に思わなかったのは、あの時計のせいだったんだな。あとスマホもコンデジも持ってるし。


「あと、ひとつだけ疑問があるんだよな。サルハの街からは毎日のように、早馬が来るんだが、この4日間、街道で誰もおまえを見かけてないんだよ。」


 うわぁ、そういう想定なかったわ。横でエレナさん、ビクッってしてるし。


「まあいい、もしアタール“様”が第一宮廷魔法使いだったら、我など顎で使われる程度の木っ端貴族だ。何も聞かんし言わんよ。ただ、国や領に仇なすようならば、我も全力で止めるがな。」


 絶対しませんし。『何も聞かんし言わん』ならいいかな。この国の方々は今までお会いした方、皆さん良い方ばかりだし。


「勿論そんなことはしませんし、僕はこの領、好きですよ。これからも住まわせてやってください。」


「こっちも、勿論だ。領内の事で何かあったら、我か領内の街の代官に言ってくれ。そっちはどうだ?ユリア。」


「もう、エレナちゃん、可愛いだけじゃないのよ、ものすごく賢いの。是非ともエベリーナの家庭教師にでもなってほしいわ。」


 おいおい、ほぼ2日一緒にいた僕より、情報引き出してるの?というか、何話してたのか、あとでエレナさんに聞かなきゃ。教えてくれるかな・・・どんだけ打ち解けてるんだ。というか、彼女は僕の専属秘書ですから。でも亜人に対しての差別意識とかは特にないらしい。スラム地区に亜人が多かったのは、何か別の理由があるのかな。サルハの街に帰ったらエフゲニーさんに聞いてみよう。


 とにかく、和気あいあいと歓談し、家庭教師の件もなんとか固辞。ご子息お二人のお名前もお教えいただいた。兄の方がイゴルで、弟がボリス。子供はけっこう、いかつい名前なのな。最終的にお互い、今後ともよろしくと、ものすごく日本的な挨拶で、締めくくった。最後に『忘れとったわ。』と、書類配達依頼達成の書類を頂いた。これで達成報酬がもらえる。


「もうひとつ、忘れとったわ。これ、大叔父からな。そしてこれは我から。」


 全然締めくくられてないし。ひとつじゃなくて、ふたつだし。大叔父って国王様だよね。それって、下賜とかいって、無くしたら打ち首とかそういうのじゃないだろうか。と心配していたけど、なんかメダルだった。大金貨よりでかい。手のひらサイズ。領主様のもほぼ同じもの。もちろん柄はちがうし、色もちょっと違う。


「それはな、国内の通行許可書のようなもんだ。どの領でも見せるだけで通れるし通行税も取られん・・・まあいいか。後は見せてのお楽しみだ。そして我からのメダルも同じようなもんだ。まあ、知り合いだよっていう証明みたいなもんだ。」


 だよって、可愛く言っても可愛くない。オッサンだし。だいぶ僕の感覚戻ってきた。メダルは万が一無くしても、シリアルナンバーで管理しているし、違法に持っていれば重罪だが、何かしら確認する方法があるらしい。教えてもらえなかったけど。で、魔法使いならば使用者制限かけれるだろ、と、事もなげに言われた。まあ、できるけど。エレナさんもユリアさんに何か貰っている。とにもかくにも、ど緊張から始まった謁見、そして歓談は無事に終えることができた。今までで一番疲れた一日に違いないが、まだ昼前だ。領都観光でもしてから帰るとしよう。


 領主様一家とは歓談室でお別れし、城の門まではアンドレイさんに送っていただいた。帰りが馬車でないのは、観光する旨をお伝えしたから。案内を付けるとも言ってもらえたのだけれど、二人でのんびり回りますと固辞させていただいた。


「どうでした?」


「ものすごく緊張しました。だって、ご領主様ですよ。そして、奥様もものすごく綺麗で聡明な方で。」


 ほら、その聡明とか、どこで覚えたんだよ。ちょっとじっくり時間取って話し合う必要がありそうだ。読み書きが今ひとつというのも、もしかして嘘?っていっても、もし嘘でも可愛い嘘だけどね。歓談の最中、ふたりの秘密はちゃんと守っていたし。守っていたよね?


「聞いてますか?」


「ご、ごめん、景色に見とれて聞いてませんでした。もうそろそろお昼だし、どこかでお昼ご飯食ましょうか。」


 言い訳がましく適当にごまかした後、問いかけると、いつものようにコクコクと頷くエレナさんを見て、とても安心した。

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