第34話 魔法の実地実験。

 大きさや、存在する高さなどをあれこれ調整して探索対象を絞り込み、なんとか普通に動物らしき対象物を探索できるまでになった。らしきというのは、まだ目視していないから。だって、探索した方に向かうとすると逃げるんだよ。向こうの方が探索能力高いんじゃないだろうか。


 そもそも木々が生い茂っているから、高速移動もできないので、この森か林かわからないところと、平坦部の境目あたりに移動することにした。木が多くて、遠目での目視もままならないからね。平坦部ならば河原の葦が生えている河川敷公園の縁くらいなので、見つけたらすぐに移動も可能。強化を今の倍くらいにすれば素早く対象に近づけるだろう。というか、雑草背が高すぎ。


 目撃者がいたら恥ずかしいので無詠唱で<サーチ>する。うむ、ここのほうが大物がいる。ちなみに探索範囲は少し広げて半径100m程度。左斜め前方60m、仰角あり?なし?。地面に対象がいるようだ。場所的には森か林か・・・・面倒くさいのでもう森にしとくけど、森の切れ目あたりだから、急いで行けば目視も簡単にできそう。音をたてないようにかつ迅速に獲物に近づく。とはいっても40mくらい離れているけども。


 う~んあれはイノシシだろうか。探索魔法で、6匹確認できている。目視では2匹の背中しか見えてないけど。エサ探しで数匹がクンクンと鼻を地面に押し付けている感じ。魔法を指向性で放ったら、なんとなくディティールもわかる感じがするのだ。今回は逃げられないよう慎重になっている。ほとんどの動物は子供の頃、動物園でしか見たことないので、大きさを含めて標準的なイノシシはわからないけど、似ていることは似ている。もうイノシシでいいか。動物か魔物かもわからない。いまのところ逃げるそぶりはないので、見学のまま帰るか、獲物として狩るか考えてみる。まだ、攻撃魔法ってほとんど練習も実験もしてないんだよなぁ。


 声を出さずに、魔法を放つ。なんと範囲魔法だ。実験も練習もなしに、イメージだけで放った魔法は<シールド>である。結界や防御系ははからずともけっこう自分の体で実験もして使っているのでその派生。正確にはシールドではない。ラウンドシールドである。半球形の物理結界ともいう。戦いたくないので、檻に閉じ込めるというわけ。ちなみに獲物は気づいていない。僕が知識として知っているイノシシのように、嗅覚は発達していないのだろうか。警戒心もないのだろうか?あとは何も気にせずに近づいてみる。


 うむ、イノシシらしき動物だ。6匹いる。でかいのが2匹と中くらいのが4匹。ちなみに中くらいって言っているのは、ワンボックスの軽自動車くらいだからね。でかい2匹は2m以上の雑草から背中えていたんだからね。なので、アルミボディの2トントラックくらいの大きさかな?さすがに魔法障壁の近くまで近づいたら、相手も気づいた。攻撃する気満々。臆病ではないようだ。というか障壁に全力でぶつかっている。障壁は衝撃吸収型だから心配しなくてもイノシシはケガしないよ。


 さて、どうしよう。今気づいたけど僕は、いわゆる冒険者装備を何も買っていない。剣もナイフもない。あまりに自然に冒険者会館も街の門も抜けたから、まったく気づいていなかった。だれかが「装備は?」くらいの声をかけてくれていれば、せめて最低限の装備くらい買ったのに。まあ、無い物は無いからあきらめて、魔法実験として何か攻撃できないか考えてみよう。


 いちばん新鮮な状態で獲物を獲得する方法をスマホで検索する。体温があるから、血抜きして冷やして、内臓がどうのこうの・・・。うん、わからん。ここは廃棄も視野に入れて、攻撃魔法実験台になってもらおう。


 本当にかわいそうなことをしているとは思います。でもね、実験は必要だし、探してみたら魔石あったから、この子たちは魔物だったわけです。討伐してもいいですよね?僕の攻撃魔法が、こんなに強力だとは思わなかったんですよ。順番に障壁を1匹分ずつ分離して、火あぶりにして、水没させ、風で切り裂き、感電させ、氷漬けにしたわけです。もちろん皆さん1発ずつで生命活動は停止なさっています。今現在、最後の1匹が許しを請うような目で僕を見つめています。爆裂魔法の実験予定の被験体です。


「ドガン」


 すごい発光とともに小さく鈍い音。障壁で衝撃吸収もあるから音だけでもかなりの威力だったのは分かる。障壁の中のモヤが晴れるまでしばらく待つ。障壁越しに魔法を発生させることができるのは既に1発目のファイアで分かった。4匹の魔物イノシシは、既にインベントリで収納している。1匹足りないのは気にしないで。もう容量は気にしない。魔石も探索で場所を特定し、吸引魔法を作って取り出している。


 先の5匹は一番最初のファイアの実験体のみが蒸発というか、魔石と骨らしき残骸を残しわずかな体積になっただけで、あとはほぼ完全体だ。すぐにインベントリで収納したのも鮮度維持に貢献していると思う。いくらで売れるだろうか。というか、どれくらいの戦力で狩れる魔物か確認しないと表に出せないよね。そういう「うっかり」はさすがにないわ。インベントリの肥やしかな。魔石は使うけど。


 さて、モヤも晴れたので、最後の障壁を解除して確認する。が、何もない・・・。というか、地面がガラス化している。ファイヤのときも少しガラス化していたけども。今回は一面綺麗なガラス化だ。それ以外何も残ってない。魔石もない・・・。これ絶対使ったらダメな奴だ。というか、障壁どんだけ丈夫なんだ・・・。


 この狩りの成果は結局6匹の魔物を仕留め、魔石5つ獲物自体は4体。その4体もおそらく成果として表立っては出せないと思われる。その代わり、攻撃魔法の恐ろしさは実感できたから良しとする。さらなる実験と練習の必要性を感じた実地テストだった。家に帰ったらイメージトレーニングのために魔法系アニメきちんと観よう。


 まだまだ時間は早いので、探索魔法の精度上げや、先ほどの障壁魔法のアレンジなどを試しながらゆっくりと街道に向かう。途中、魔物イノシシの魔石を見ていて、取り出すときに考え付いた魔石探査を広域探索に応用するというチートくさい探索ができるようになった。ようするに魔物限定で探索可能なのだ。魔物の種類はわからない。もともと知らないし。


 しかし今のままでは、せっかく魔物を狩っても、売りに出せない可能性が高い。普通の魔法使いの魔物に対する戦い方を学ぶ必要がありそうだ。もう、身体強化のみで、剣で突き刺すかな。おわかりいただいただろうか。剣で戦うわけではない。障壁を相手に限りなく密着させ、急所付近に剣が通るだけほどの穴をあけて、そこに剣を突き刺すのだよ。これ戦いとは呼ばない。狩りと呼ぶかどうかも怪しいのはわかっている。でも、仕留めた傷は剣によるものだけだよね。魔法使いが仕留めたとは思われないだけだろう。


 今回の狩りで、いろいろな課題が露見した。狩りの方法はまだいいとして、獲物の運搬。トラックとか軽自動車を普通どうやって運ぶわけ?あまりにも僕はまだこの異世界の知識がなさすぎる。まだ2週間程度の異世界生活とはいえ、情報収集にもっと時間をかけた方がいいのか、もっと開き直った方がいいのかも含めて熟考する必要性を感じる。


 街道に到達し、探索魔法の対象を人、亜人に切り替える。このあたりはスラム地区での活動のおかげでイメージしやすい。ちなみに、女性だけも可能だろう今はやらないけど。馬車や単独の馬も追加するか。もちろん無詠唱で連続探索。これでレーダー探知っぽくなってる。範囲は周囲1km。冒険者のみんながどこで活動しているのかも、これである程度わかるのではないだろうか。街道から1km以上離れている場所が通常の狩場だと、何もわからないままだけどね。


 とうか、冒険者らしき方々いないな。のんびり歩いているとはいえ、もう街まで10kmくらいなんだけど、狩場ってけっこう街に近いのかな。出かけ際のフラグっぽい発言のケガや死にかけの方も全くいない。人間の徒歩速度を時速5kmとして、2時間で10kmなわけで、往復を考えると、だいたい街から10km圏が日帰りの狩場と思ったんだよね。冒険者会館みたいに、僕が訪れる時間がずれてるのかなぁ。


 まあ、今日は色々実験できたから良しとするか。特に何のイベントもなく、冒険者1日目は終わろうとしていた。ちなみに、途中から探索対象を女性のみに絞ったのは、あくまで実験だ。

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