第29話 空間接続魔法。

 帰ってすぐ【エルフ村】のチェック。ロードバランサやWEB・DBサーバの冗長化はとっくにおこなっている。今日もクリティカルなエラーは無し。アタールの投稿は相変わらずバズっている。ロシア語文の投稿後に海外からのアクセスが激増している。そろそろセキュリティ強化と以前失敗したシステム保守自動化の魔法、本気で再挑戦するべきか。


 そして、ロシア語をはじめ海外言語での書き込みと投稿も激増していた。【エルフ村】は一気にグローバルサイトになったけど特に多言語展開はしない。サイト自体はUTF-8だし。ちなみに広告の売り上予測もさらに増えている。こんど税理士さんに相談しなければ。


 ロシアとかヨーロッパとかの海外とかも行ってみたいな、転移があるから、一度行った場所なら行ける。未だ海外旅行は未経験だから今は行ける場所は無いけれど、お金もあることだし、転移場所を増やすために長期海外旅行もいいかもしれない。


 あ、転移で入国のときの査証というか入国や出国のスタンプどうしよう・・・。転移入国のとき職質されてパスポートの提示求められた時はヤバいかな。


 妄想はそこら辺にしておいて、今日はアタール名義で、選別したスラム地区の猫耳お姉さんの写真を数枚アップしておく。前の投稿に対する書き込みには。ロシア語で、


 > Я не понимаю смысла.(意味が理解できません)


 とだけ書き込んで返信しておく。頼んでいた水質検査キットが届いていたので、使用説明書に目を通してインベントリで収納。あとは、カップ麺、入浴そしておやすみなさい。


 田舎の朝は早い。玄関では斎藤のおっちゃんが、インターフォン越しに何か叫んでいるので、起き出して向かう。


「おはようございます。」


「おお、居るかどうかわからなかったけど、とりあえず声かけた。寝てたか?」


 寝てたけど、ここは


「いえいえ、起きてましたよ。」


 と、無難に答えておく。明日以降いない可能性などを説明し『資材置き場用に使ってください』と、車庫のカギを渡しておく。車庫に電気のコンセントも水道栓もある。簡単な完成予定図の図面を見せてもらいながら、宅配BOX(倉庫)の建設予定をお聞きする。


 おおむね満足な図面なので、電話での打ち合わせ通り後はお任せで、僕が不在でも作業してもらうよう伝え、職人の皆さんにも『よろしくお願いします』と声をかけ、部屋に戻る。


「おお、最近はちゃんと顔を見て挨拶できるようになったんだなぁ。」


 なんだか後ろの方で斎藤のおっちゃんが呟いているが、いやいや挨拶くらいは普通にできるでしょう、と、過去を振り返ってみると、親族と顔見知り以外には顔を見てどころか、挨拶さえしてなかったかもしれない。


 これは異世界でのコミュニケーションの弊害・・・いや、成果か?向こうでは、全員知り合って一週間以内なんだよなぁ。


 とにかく二度寝する。肉体的な疲れは全くないけれど、先ほどの話も含めて、対人関係や交渉などなど、人間的成長はしているかもしれないが、精神的な成長には時間がかかるのだ。ようするに、精神的な成長は遂げていないのですよ。


 精神に干渉する魔法も開発したいけど、こればっかりは、人体実験してエビデンスがないと怖い。こうして僕は盗賊の討伐を明確に視野に入れることにする。


 せっかくの休みの日を寝て過ごす。とても勿体ないと思うだろうが、これが僕の日常である。大学を卒業して以降、大学時代もだけど、必須の用事がない限りは自サイトの管理およびゲーム、読書そしてたまの食糧補充程度でしか動かないのが標準。


 田舎巡りもここに引っ越し、そして異世界転移のせいもあって、あまり興味がなくなった。追加されたのは、朝の庭いじりと今まで管理だけしていたサイトに投稿を始めたことだけ。もちろん、家族や親せきが来訪したときは、そんなそぶりを見せず、テキパキと動くできる会社経営者ですよ。


「今日はもう帰るからな~、まだ寝てるか~。」


 再び玄関でインターフォン越しに、斎藤のおっちゃんの声。外に出ると早速


「寝てても文句言わんが、人が来ているときくらい、せめて昼に顔を出してお茶くらい出せよ。」


 と、ダメ出しを食らった。昨日注文した文具なんかも受け取っていてくれた。すみません。本当は10時と15時にもお茶とかお茶菓子くらい出すそうだ・・・。


 本当にすみません。次からは気を付けますと、職人の皆さんにも謝罪してお見送りした。僕はできる会社経営者ではなかったようだ。明日からはいないからいいけど。


 時計を確かめると17時ちょい過ぎ。忘れないうちに車庫の車をインベントリで収納しておく。これで、いつ転移しても、車で出かけたというアリバイは、明日以降斎藤のおっちゃんと職人の皆さんが証明してくれる。というか、普通に軽々とデカイ車2台収納できるんだな。


 さすがに三度寝はない。キッチンでカップスープ、インスタント味噌汁など目に付くスープ類を見つけ、インベントリで収納。ついでに今まで出たゴミをインベントリから出してゴミ箱に入れる。


 ふと思いついて、小さなゴミ箱の底を大きなゴミ箱の蓋の部分と空間接続する魔法を開発してみる。できた。これ、ゴミ処理場に空間接続したら、ゴミ出しいらないんじゃね?まあ、ゴミ処理場の臭気もこっちに来るだろうけども・・・。


 あ、僕がいないときは魔力がなくなって、空間切断するのか?ということは、毎回魔法かけないといけないのか?魔力チャージの魔法石をセットすれば、継続化できるのか?意識的に魔力をカットすると、空間は切断された。


 そして、魔法はかけなおさなくても、魔力を意識的に注ぐと、空間は再び接続した。これ、エンチャント済みの魔道具になってるし。今度は意識的にその魔法を取り除いてみると、魔力を注いでも、空間は接続していなかった。


 さらに思いついて、靴を履いて透明化して異世界に転移する。今回は周囲に誰もいない場所、以前バイクで突っ走った街道の近辺だ。まあ、街中でも良かったけど念のため。そしてインベントリから革の鞄を取り出す。そして鞄の底と自分の家の机の上を空間魔法で繋いでみる。


 うむ、つながった気はするんだけど、うまくいかない。安定しないというか、つながったり切れたりしている感じ?魔力を意識的に多めに注いでみると、おお、安定してきた。でも意識しないと無理みたいだ。


 しかしこれで、いちいち家に転移しなくても、忘れ物取りに行ける。戸締りチェックもガス栓の閉め忘れチェックも思いのままだ。いやいや、そうじゃなくて。僕は意識的に魔力を注がなくてもいい空間面積を探る。最初は鞄の底いっぱい。そこから一度魔法を解いて、少しづつ面積を狭めていく。


 結局、直径約3cm。かなり小さいが、鞄の底には小さな穴で常時自分の部屋と繋がっている状態が出来上がった。次に、その穴にそのあたりで拾った棒きれを差し込んだまま、異世界、自宅への転移を繰り返す。自分の部屋で穴に棒を抜き差ししてみると、机の上の空間から棒切れの先が出てくるのを確認できる。結果は上々。


 異世界、地球を問わず、穴は同じ場所に固定されている。そして転移魔法を使いながらでも、状態は維持されている。棒切れを突っ込んだまま鞄の魔法を解除すると、棒切れは、スパっと真っ二つになり、カランと音を立てて机の上に転がった・・・・。指入れるのは怖いな、これ。さっき手を突っ込まなくてよかった・・・。鞄から離れるたびに空間の断絶では使えない・・・魔石の収集、必須である。


 気を落ちつけて先ほど思いついた作業を継続。ちょうど机の下に普段使っていないネットワークコンセントと電気コンセントがあるのでそいつを目立たなくするために、配線整理用のBOXに入れる。


 そして鞄の底は使いにくいので、被せ蓋になっているところと配線整理用のBOXの中を空間接続して、鞄の方からLANケーブルと3つ口のテーブルタップのコンセント側をたらし、接続口に接続する。鞄のほうには、小型の無線LANのアクセスポイントを接続した。ネットワークハブにはPoEハブを使っているので、コンセントは3つ口すべて使える。


 おわかりいただけただろうか。異世界でスマホ充電、ネット三昧の実現である。これで鞄経由でWi-Fiが掴めるのでノートパソコンも利用可能、いやコンセントもあるからデスクトップでも可能だ。面積的にG3やG4、LTEへの接続は微妙だけど、電話ならVoIPで家電使えるし、これで異世界にいながら、地球というか家や仕事関係の連絡がリアルタイムにとれる。


 旅行先でも家のWi-Fiが使えるのか・・・。海外からネット投稿しても現在のロケーションが家になるのはしょうがないかな。異世界でGPS使えれば地図作りが捗るんだけどそもそも向こうに人工衛星がない。


 とにかく思い付きのテストは思い通りの結果を出した。でも考えたら、通信したい時だけ一時的にスマホとかパソコンのアンテナのすぐ上あたりに、自宅と空間繋いだらよかったんじゃ?まあ、コンセント使えるし・・・。


 そしてこの後、一度配線を外して再度棒きれを突っ込んでで空間をつないだままインベントリに収納する実験などのすべての実証実験が終わるころには、既に夜は更けていた。もちろん普通に寝る。

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