第27話 スラムで炊き出し?

 特に何の道中イベントもないまま、スラム地区に戻る。ちょうど昼飯時なので、道中マキシムさんと打ち合わせした炊き出し(炊かないけど)を行うことにする。


 スラム住人との顔合わせだ。イワン一味は手伝いと人集め。職人区で小間使いしている連中も昼飯時には戻ってくるので、殆どの住民が集まる予定だ。かといって約250人もの人が集まる場所もないので、順次配給ということになる。


 今回はインベントリの中のコンビニ弁当のうち、焼き飯を選択。スープはまあ、面倒なのでおでん出汁。すみません、スープ類は買っていませんでした。量産はもちろんデュプリケート魔法による複製。冷たい水とオレンジジュースも用意している。


 木皿には温かい焼き飯を盛り、スプーンを添える。後は木の大きめのカップに温かいおでん出汁、それに空の普通サイズの木のコップ。それらを木のトレーに乗せてワンセット。後はそのセットを複製していくだけ。


 勿論この作業は人払いした上で、イワン一味の小屋の中で行っている。


 イワン一味の声かけで、住民がどんどん集まってくる。250食程度はすぐに用意できるので、小屋からテーブルを複製して5卓運び出させる。1卓あたり20食置けるので、テーブルから勝手に持って行かせて補充していく方式だ。


 前面部隊は、イワン一味。僕は後方からコンデジを構えながら、セットを複製という体制で挑む。水とオレンジジュースの水袋は、イワン一味が持って希望者にそそぐ。なくなったら一旦蓋をするよう指導しているし、心配していた魔力の方は、水袋は一般人程度でも問題ないようだ。


 食器類はお持ち帰り可。水とオレンジジュースお代わり自由。最初は初めて見るチャーハンに対して、なかなか手が進まなかった方々も、好奇心旺盛な子供たちが食して「おいしい!」と笑顔を向けたとたんに、どんどんとトレーを持って行くようになった。オレンジジュースのお代わりが半端ない。お腹壊さないでね。


 食事が行きわたったあとも、小屋の周りで座り込んで食べる方も多いので、ついでに椅子を複製して、空いたテーブルの周りに並べる。これだけでも50人以上は座れるからね。とにかく、狭い小屋の前に人々がひしめき合って、昼食を摂っている。


 僕はというと、コンデジを持ってその狭いなかで撮影会をしている。目論見通り、猫耳をはじめとする亜人の子供たちの良い笑顔が大漁だ。その子供たちの世話をしている若いお姉さんたちの笑顔ももちろん大漁である。


 手が空いたイワン一味は、周りの人達に、ギルドカードや冒険者装備を見せびらかしている。マキシムさんやエフゲニーさんは、たまに僕の方を見ながら、大人たちと真剣な顔で話している。おそらく明日以降、冒険者登録希望者が殺到するではないだろうか。


 事実炊き出しの喧騒が収まり、表に出した椅子や机を収納したころには、小屋の前に行列ができていた。イワン一味やマキシムさんに話を聞いた老若男女が列をなしている。順に受け付けるもの面倒なので、小屋の前に集まってもらい、簡単に説明する。


「明日以降、希望者には冒険者登録をしてもらいます。装備や服についても用意しますので、お金の心配はしないでください。また、今まで通りでマキシムさん、エフゲニーさん達がまとめ役ですので、登録時はマキシムさんが同行して、帰りの買い物や教会での登録も行います。未成年の方はまだ冒険者登録はできませんが、こちらも後日、洗礼を行っていない方は洗礼し、教会への登録を行っていただきます。明日以降から数日かけて、このスラムの住人で希望者は皆、平民となります。詳しくはあとで、マキシムさんや、イワン君たちに聞いてみてください。」


 先日の合意よりも速い展開に、エフゲニーさんをはじめ、円卓会議に出席していた大人たちが不思議そうな顔をしていたが、隣のマキシムさんが、なにやら説明している。あ、納得した顔になった。まあ、この後はマキシムさん達にお任せ。だって僕、明日はほとんど日本に居る予定だしね。


 こちらを見ていたマキシムさんを手招きして呼ぶ。先日の円卓会議に参加した大人たちとイワン一味も呼び寄せ、小屋の中で打ち合わせだ。今日はこのあと、住人リストを作らせて、冒険者登録する順番は、マキシムさんたちに決めてもらう。子供たちのリストももちろん作成する。


 家族単位でお名前、人?種、生年月日、性別。まあ、家族とはいっても、スラムでは正式な結婚などないだろうから事実婚の確認ですね。本当はそれぞれの顔写真もつけて、独身女性には好みのタイプも聞いてほしいのだけど、それはさすがに言い出せなかったよ。


 マキシムさんとエフゲニーさんは読み書きができるというので、面接とリスト作りは完全お任せ。なにげにエフゲニーさん優秀なんだよなぁ。使い方を説明したうえで、コピー用紙200枚と鉛筆数本をお渡ししておいた。あと、時間があるときには最初の約束である奴隷となった元スラム住民の確認をイワン一味が担当することになった。


 そして資金。昨日お渡しした大銀貨はまだ全く手を付けていないそうなので、身ぎれいにするための費用は問題ないので、どんどん使うようにお伝えした。住民一人一人にリペアとクリーンの魔法をかけていたら、おそらくパニックになるだろう。


 お金に手を付けていないことも含め、エフゲニーさんは慎重派。鞄からお金用の小箱を三つ取り出し、ふたを開けてみんなに提示する。それぞれ大銀貨300枚入り2つと金貨300枚を入れてある。もう驚愕の表情には慣れてきた。それをマキシムさんにお渡しする。


「アタールさま・・・・さん、こんなお金持ってるだけでも怖いんじゃが・・・。」


 まあ、そうなるか強盗とか居るしね。僕はおもむろに立ち上がり、小屋に強化魔法をかける継続魔法ではなく、物質そのものを変化させるイメージ。もちろん床にも。


 念のため強化した肘でエルボーをかまし強度を確かめてみるが、大丈夫のようだ。大きな音を立てたので、皆さんちょっとビビっている。表でも人が騒いでいるので、扉を開けて


「なんでもないです~うるさくしてゴメンなさ~い。」


 と声をかけておく。あとは、そのついでに扉に使用者制限をかける。今部屋に居る方々だけが出入りできる。


「見た目は全く変わっていませんが、この小屋に強化魔法をかけておきました。扉にも魔法をかけて、今ここに居る人以外は扉の開閉ができないようにしましたので、お金や書類はこの部屋に置いておいてください。明日以降の冒険者登録には基本的に僕は同行しません。都度必要なとき、必要な額だけ持ち出せばいいと思います。剣などの装備は結構高いので、多めに持って行ってくださいね。命がかかるのだから。不足しそうなときは前もって言ってください。」


 カクカクと縦に振られる顔にも慣れてきました。今回は『不足しそうな』のときには横にも振られていたけど。まあ、後で小屋は剣などで切りつけるとかのテストでもしてもらおう。住民に変な目で見られること請け合いだ。


 あと、面接なんかで小屋を使うときは、誰かが扉番をするか、扉を開放しておくように注意しておく。もうこの小屋、イワン一味のじゃなく僕の小屋みたい。


 細かい打ち合わせも済んだので、あとはお任せして僕はエフゲニーさんを伴って奴隷商に繰り出す。エフゲニーさんが知り合いの中では最古参だし、スラム住民の中ではインテリだからね。マキシムさんたち居残り組はリスト作り。

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