第15話 職質のピンチを切り抜ける。

 冒険者会館の職員らしき方々、いやもう職員と断定してもいいだろう。


 彼らは目の前に提示されたコンデジ及び、スマホ、そしてカモフラージュ用の革製の小銭入れを手に取って確認している。小銭入れは大雑把に、コンデジは恐る恐る。小銭入れ以外は、この世界ではおそらくは、オーバーテクノロジーもしくは、オーパーツ級のアーティファクトか。


「この魔道具はなんだ。」


 もちろん、コンデジやスマホの事である。ジャーパン皇国で出土したアーティファクトという脳内設定は一応あるのだけれど、どう説明しようか、同じような機能の物ってあるんだろうか?などと思考はまとまらず、なかなか返す言葉が浮かばない。


 街や建物の遊覧は、時期尚早だったのだろうか。もっとダフネさん一家あたりから情報集めてからにしたほうが良かったのだろうか。


 でもいきなり個室で取り調べ調ってないよね。しかも職員さんの自己紹介さえ無し。人に話聞くときはまず自分の紹介してからだろうが!とはもちろん言えません。はい。


「まあいい、とりあえずはひとつずつ質問に答えてもらう。この魔石の上に手を置いて。」


『手を置いて』と頼んでいる口調ではあるが、職員の一人が突然僕の手をつかんで、その魔石という水晶玉のような物の上に強引に押し付ける。


 いや、痛いし、もっと優しくしてくれないと、また恒例のパニック起こすよ?脳内パニックだから、職員さんにはわかんないだろうけど。


「ここからは、はい・いいえで答えろ。お前は、結界守の村の客人か?」


「は・・・はい」


 再び若干高圧的になってきた職員さん。だけども紹介状持っているくらいだからね。ほぼ躊躇なく答えることができる。と、手を置いたその魔石が、少し白く光った。なんというか、昼間に灯した豆電球程度に。


「この魔道具はおまえの物か?」


 そりゃもちろんですよ。結界守の村の客人よりも確実な質問。もちろん答えは「はい。」なんだけど、今度は答えたら、赤く光った。いや、これまずくないですか?なんかこの魔石って、嘘発見器みたいなもので、本当なら白、嘘なら赤く光る感じな気がするよね。おそらく間違いないよね。


「この金は、おまえが稼いだものか?」


「・・・・」


 職員さんの既に険しかった顔が、さらに険しくなる。これ、非常に嫌な感じがする。さっきの質問、魔道具に関しては、僕が地球の工業製品って認識しているから、赤く光ったのではないか。


 また今回の質問だとこの金は『僕が稼いだ』お金ではないわけで・・・野営所で貰ったお金入れとけばよかった。まずいまずいまずい。


 プチパニックになりながらも、一応「はい」と答えてみる。ほらやっぱり、赤く光った・・・。しかし、僕はひらめいた。本当にこの職質に耐えながらも回転してくれた僕の脳みそを褒めてあげたい。いや、褒めてあげる。まあ言い訳は子供のころから得意だけど。


「えっと、あ、あの、質問変えてもいただけませんか?まず、さっきの魔道具は、魔道具のようなもの。です。そして、お金については稼いだものではなく、結界守の村で、分けていただいたものです。なので、そのアーティファクトのようなものならば、確かに僕の物で、名称はコンデジ、それとスマホと言います。」


 僕がしゃべっている間、魔石は何度も白く瞬いた。お金はデュプリケートで複製したのだけれども、分けていただいたという解釈は脳内で納得できる。単に『いただいた』のではないのが肝。でも、お湯出す魔法で稼いだのも持っているんだよ・・・インベントリに。


 コンデジとスマホについては『魔道具のように思われるだろう』という認識だったので問題ない。そして名称も普段そう呼んでいる名称なのだから、これも問題ないわけだ。再度脳みそを褒めてやる僕。相手の目を見て話せないのは、疚しいことがあるわけではなく、単に照れ屋で、短時間で打ち解けるのが苦手なだけなのだ。


「ふむ、それでは質問を変える。この魔道具の様なものも、金も盗んだものではないのだな?」


 職員さんの顔の険しさは和らいだけれど、それは失礼ですよ、盗んだとかは無いでしょう。複製はしているから、ちょっとは罪悪感あるけど。しかしここは文句をぐっと我慢して。「はい」と答えると、魔石は白く光るのだった。


「これで無罪放免ですよね?」


「いや、不審な行動の説明はまだ聞いてない。だから、不審者であることは変わりないぞ。」


 確かに職質の最初は『君、なにしてんの?』だった。そして『この魔道具はなんだ。』につても答えていない。なので、冒険者に興味があって、会館に入ったけれど冒険者らしき方がいないので、周りをきょろきょろしていた事、スマホは、時間表示の魔道具、コンデジは実演しながら、リアル写し絵の魔道具であることを説明した。


 もちろん説明時は魔石には手を置いてはいない。コンデジもスマホも魔道具ではないから、手を置きながらの説明だと、また赤く光ってしまうからね。


「この様に旅の記録ができるのです。とても便利なので、メモ代わりに訪れた場所ではこのコンデジに記録することにしているのです。」


 と僕のコンデジの説明については、『こんな魔道具見たことない』と、驚きをもって興味を示してくれると同時に、雰囲気は一気に和らいだ。


 何枚か職員さんたちの姿を撮影して、液晶に表示させ、何なら後日、紙に写し絵を転写して差し上げますと目いっぱいゴマをすっておく。どうせ冒険者会館には再び訪れるつもりだし。


 コンデジの動画モードは今は隠ぺい。あまりにも、写真だけで驚いているようだから、動画はオーバーテクノロジー過ぎるだろうとの判断だ。何枚か写真を見せているときに、街中で隠し撮り・・・いや、風景に写り込んだ猫耳の女の子を間違って表示したときには一瞬職員の顔が再び険しくなった気がしたが、気のせいであろう。


 スマホについては、この世界にも懐中時計はあるようで、デジタルであっても時間表示の装置ということで、そんなに興味は持たれなかった。本当はこっちの方がさらに、オーバーテクノロジーなのだけども、見せたのは待機画面だけだから。


 とにかく、あらぬ誤解を基にしたピンチは切り抜け、話題は世間話に移行する。


 自分はジャーパン皇国では、駆け出しの商人であること。けっこう稼いでいて、そのお金でこの『魔道具のようなもの』を購入したことなどを説明。価格については、そもそもアーティファクト級魔道具の価値を知らないので、ものすごく高いということだけ匂わしておいたけれど、何とかそれで納得してくれたようだ。


 相手が小市民で良かったと思う。知らない大陸に巻き込まれ転移した可哀そうなお金持ちの駆け出し商人の青年という設定が、相手の中でも固まってきたであろう。

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