田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし

第1話 とあるひとり暮らしの男の話。

 中学生の頃に趣味でウェブプログラミングを始めて、高校1年生の頃にお小遣いで立ち上げたSNSサイト『エルフ村』。異世界物語やそのコスプレ写真の投稿などなど、同趣味の方々の交流サイトだね。


 僕自身はコスプレするわけではなくて、単に閲覧したり世界観が好きなだけなのでサイト上では単に『管理者』として存在してる。だから実社会で他人から見た場合、現実の僕と『エルフ村』の接点は存在してない。はず。


 だって、いくらコスプレはしてないって言ってもコレ系サイトの運営管理者だとか対外的に言いにくいよね。しかも僕の性格上、その・・・対人関係の取り扱いに関して少々苦手意識があるという理由も付け足しておきますね。


 だがしかし、いわゆるキモオタや引きこもり、ボッチは自認してはいない。だからこそ、対外的にはこの趣味は隠ぺいしているわけなのだし。どこにでもいるような男子学生、学校で全く他の生徒たちと話が合わなかったり、僕の発言で場が白けたり、スルーされたりというのは、対人関係への苦手意識のせいだから。


 流行に疎くて、友達と呼べるような存在も特に進んで作ってはいないけれども、普通の男子学生だった。うん。それだ。


 まあ、ここまでで勘のいい方はだいたい察するようだけど、高校生活ではもっぱら、授業が終わればダッシュで帰宅する、いわゆる帰宅部に所属。趣味のために、わざわざ存在感を消すという涙ぐましい努力のもと、日々サイトの運営管理に勤しんだおかげで、『エルフ村』は順調に成長していった。


 サイトでは思った以上に多くの投稿や交流が行われ、僕はというと投稿や交流はそっちのけで、閲覧三昧。あとは、単に『管理者』として参加者の要望に応えるため、機能追加やサイトプログラムのバージョンアップをしていたわけだけど、『エルフ村』は異世界風コスプレ界隈の方々からは、絶大な人気を博しはじめていた。これが高校時代。


 開設から月日が流れ、いくつかの勉学的挫折により実家からかなり遠い、首都圏の無名大学に無事現役で合格、そして入学。同じ高校からはもちろん誰ひとりとして進学していない大学であり、高校の進路指導の先生もその大学の存在自体を知らなかったというほどの・・・うんまあいい、とにかく現役で大学生となったわけだ。


 あまり誇れる話ではないけれど、ここしか僕が努力無しで入れる大学なかったしね。しかし両親も姉も、目を合わさないまま『あ、まぁ、いいんじゃない。現役合格で良かったよ。』とお祝いの言葉をくれた。ちなみに学部競争率は1.2倍だったけど、誰かが不合格になったという話は聞いていない。学部は社会学部。


 大学進学とともに大学の近くにアパートを借りてひとり暮らしを開始したのだけれども、親の『1年目の入学金や学費、引っ越し費用はいいけど、生活費や来年からの授業料は、自分で何とかしてね』というエールを受け、入学早々にコンビニバイトを始める。


 とともに、バイトの足しになればと、『エルフ村』に広告の掲載を開始。一部の利用ユーザーからの『守銭奴乙』とかいう感想は全力スルーし、PVもかなり伸びていたので、ブログに広告を貼る程度のお気軽さで開始したのだけれど、結果これが毎月思わぬ収入を産んだ。


 掲載数ヶ月で額は毎月100万円弱、大学2年の頃には軽々と大台を超え、毎月数百万円の売り上げという、プチセレブになっていた。もちろんコンビニバイトは早々とリタイアしましたね。


 プチセレブとはいっても、授業への出席以外はほぼアパートでサイト運営とゲーム三昧の日々。


 たまの長期の休みにはプチセレブらしく、金に物を言わせて取得した自動車とバイクの免許を手に、レンタカーや、こちらも金に糸目をつけずに購入した15万円の250cc中古オフロードバイクでのひとり旅にて、趣味と実益を兼ねて非日常感溢れる雰囲気がありそうなど田舎村などで景色の写真撮影巡り。


 ちなみに、一緒に旅する人が居ないのではなく、煩わしい他人との旅が面倒なだけだったわけだから、そこは勘違いされたくないかな。


 少し付け加えるならばプチセレブ慣れしていない僕の場合、通帳に並ぶ数字と実際に使うお金の感覚が違うから、10万円越えるとものすごく大金な気がして、バイクの購入費にしても旅費にしても、僕としてはかつてない大盤振る舞いだったわけである。だいたいひとり暮らしって、ひと月10万円もあれば充分やっていけたからね。税金怖いし。


 そんなこんなで、別にそこまで収入は必要なかったのだけれども、バイトする必要もなくなったうえ、授業料やアパート代、生活費さえも余裕で捻出できるようになった。ほんと良かった。両親もさぞ安心したことだろうと思う。僕が扶養家族を外れたので税金が上がったとかの愚痴は聞いた気はするけれど・・・いいよね。


 生活に必要なものはネットショッピングで揃う。大学にさえ通っていれば、いや、もしかして中退しても誰に文句を言われる事もないだろうし。なにげに、引きこもりやボッチ感が増したのではないのかという疑問は、おそらく気のせいであろう。うん。


 思わぬ収益の増加により、旧知の税理士先生のアドバイスで、大学2年生の秋に起業。『株式会社エルフの村』を設立。


 勉学や大学生活の方はというと、留年は無かったものの、4年間は結局可もなく不可もなく、彼女のひとりもできず、会社を設立したおかげで就活もせず、卒論には苦労したもののなんとか無事に卒業。しかし卒業したものの実家には帰らず、ひとり暮らしのアパートで、相も変わらずネット上では『エルフ村』の『管理者』として過ごした。


 そして実社会では、たまの田舎巡りと、サイトのシステム保守程度のお気楽なひとり企業の社長の『高村中たかむらあたる』としての生活を開始したのだった。


 友達いなくても、彼女いなくても、結構ひとりでも生きていけるものなんだね。大学時代の一番大きな出費は、4年の初夏、姉の結婚の際の祝儀というカツアゲであったことは一応記録に残しておこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る