雪とバス停

 窓の外は静かに雪が降っている。ふわふわと雪が落ちていく様を見ながら、煙草を一本咥えヤスリライターを擦る。愛飲しているセブンスターの味が口に広がる。

 記憶の奥隅から、声が蘇る。「明日は雪だね。雪が降る日はあそこのバス停に集合、ね?」毎日のように頭を過る言葉。僕は彼女からもらったジッポライターとメガネを、通帳を入れている棚の奥から取り出す。

 ジッポライターと煙草を持ち、寂れたバス停に向かう。申し訳程度についている屋根には雪が積もっている。誰も周りにいないことを確認し、煙草に火をつける。

 彼女が僕に贈ってくれたジッポライターを擦る。あの日待ち合わせに現れず、なぜか眼鏡だけを残し失踪した彼女の眼鏡をそっと優しく握る。

 いつの雪の日になれば、彼女は帰ってくるのだろう? いつの間にか溢れた涙が頬を濡らす。地面に目を落とすと、雪に涙の跡が二つできている。

 二粒も涙を落としたかと、自分を嘲笑う。「すいません横いいですか」と女性に言われ、少し身体をずらす。


「久しぶりだね。やっと帰ってこれた。色々あったのよ」


 地面に落ちる涙の数が数えられなくなった。

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