碧い蛍

 河川敷をゆっくりとタバコをふかしながら歩いていく。酒で火照った身体に夜の冷えた空気が心地良い。ふと地面を見ると、海のような碧い硝子の破片が等間隔で落ちている。

 行くあてもない俺は、硝子の破片を辿りはじめる。徐々に家が少なくなり、木々が増えていく。碧い硝子はまだ等間隔で落ちている。これを辿ると化け物でもいて、食われちまうのかもな。と笑いながら、歩き続ける。人生に期待などしていないから、食われてもいいと。

 川の始点に辿り着いた。小さな水の流れの音に耳を傾けながら、周りを見渡すと、小さく淡い光が飛び回っている。それが蛍だと気づくには少々時間を要した。初めて見る蛍の儚げな光に無意識に手を伸ばす。

 小さな光であろうと無意識に手を伸ばす自分に驚きながら、まだ人生を諦めていないことに気づいた。口を歪め笑い、地面に目を落とすと、碧い器が落ちていることに気がついた。中に折り畳まれた紙が入っている。タバコにまた火をつけ、紙を手に取り開く。


「ここまで辿り着いた貴方が、少しでも幸せになれますように。長い人生を苦しまずに生きられますように」


 女性らしい文字で書かれた文章を読んで、俺は笑った。大丈夫まだ生きられる。世界はもしかすると綺麗かもしれない。俺は手紙をまた器に戻し、蛍に背を向ける。自信を持って一歩踏み出した。頬に伝う涙は、暗い過去との決別と明るい未来への希望だと信じて。

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