スペース・ルーム

アリエッティ

第1話 古い空き家見つけました。

全国には空き家の数が846万戸存在するという。全住宅に占める空き家の割合は13.55%にまで上り、過去最高の数値と言われている。

「ここか..。」

改築をして住めるものもあれば所有者が既に亡くなり手が付けられないものもあり、難を極める。


「所有主は?」「死んでるよ。」

「だとすれば厄介だな」

住まいにお困りの方は御連絡を。

『ジョウシマデッドハウスセンター』

□□ー〇〇〇〇まで!


「やっぱ無理だよこんなCM!

人来ねぇよ絶対に!!」

「文句言うなってお前ノリノリだったろ、結構セリフ上手かったぞ?」

「そういう問題じゃねぇ!」

小さな事務所の一角で、小柄な少女が男に吠える。

「だいたい何なんだよあの店の名前!

つまんねぇホラー映画みたいじゃん」

「嘘言ってないだろ、ジョウシマは俺の名前。相手が空き家なら死んでるようなもんだしな」

飄々と言ってのけ、顔はパソコンに向かい、手はキーボードを打ち続ける。


「そんでこの服、なんで作業着?

もっと可愛いのあったじゃんねぇ!」

「文句ばっかりだなぁお前。

業者なんだから仕方無いだろうよ、今忙しいから後にしてくれる?」

「..なに、やってんだよさっきから」

「パソコン。」

「バカにしてんのか?」

見ればわかると言わなくてもみればわかる事を平然と言ってのけるのは野暮だと気付いていないらしい。

「パソコンで何やってんだって聞いてんだよ」

「うん、チラシだけだと絶対来ないだろ。情報化社会を舐めるなよ?」


「...ナメてねぇよ。」

「そこでだな、この事務所のホームページを作ってるんだ。」

「それもまぁまぁ古いけどな」

「よし、出来た。」「聞いてる?」

画面に映し出されていたのは白々しい程大きな企業の名前と二人の笑顔の写真、後はCMの広告と同じ内容。確実に無駄な労力の結晶であった。

「お前、こんなの作んならSNSやらで客集めろって。」

「やり方わからんし、お前がやれよ若いんだから」

「あたし友達いねぇもん」

「あぁ..ごめん。」「同情すんな!」

お互いの情報不足を掲げた結果同時打ちして自爆した。

「つーか何で空き家専門なんだよ普通に不動産屋とかやればもっと..」


「失礼します。」

喧嘩を止めたのは控えめな声だった。

「....はい?」

扉を開ける黒髪の美女。


「あの..ハウスセンターで会ってますか。チラシ見て来て、看板が同じで」

「はい..そうですが。」

「もしかして、客か!?」

「そうなり..ますかね。」

すぐに招き入れ席に誘導する。

「あたしコーヒー入れてくるわ!」

「静かにしろ、言わなくてもいいよ」

この日を見越して良い豆を揃えておいた。〝高級〟や〝厳選〟と書かれた凝ったパッケージの物を片っ端から台所に置き、保存していた。

「すいません、うるさくて。」

「いえ..。」

「それで、ご用件は?」

不動産では無いので家を借りにくる訳では無く空き家を住居に、もしくは検討している人の話を聞き改築・修繕などを主に施す。需要はあるように感じるが会社の名前、胡散臭さに疑問を持って近付かない者が多い。


「最近、此方に越して来たんですけど知り合いに空き家を勧められて。家賃もかからないし、整備を整えれば電気も水も使えるからって。」

「て事は修繕だな?

お安い御用で!あ、これコーヒーね」

「アンズ、急に出てくるな。

あと用件勝手に決めるな」

「ええ..」

「あ、本当にそうなの?

じゃあ早速見に行きましょう。」

「それが..」

困った顔で滞りのある様子を伺せ下を向く。

「なんだソレ、聞かれ待ちか?」

「アンズ!..すいません。

それで、どうかされました?」

「その..いないみたいで。」

「いない?」

「死んでいるんです、管理人の方が」

「だぁー..う。」

予期していた不条理、ハウスセンターのデッドな部分が出てきてしまった。

「そういう事ですか。

..なら、依頼は修繕ではなく〝弔い〟

になりそうですね。」

「弔〈とむら〉い?

何だソリャ、聞いた事無ぇぞ?」

「言った事無いからな

ちょっと準備して来ますね。」

「やっぱナメてるだろお前!」

客を置いてけぼりにして一人台所の方へ、音を立て何かを漁っている。


「忙しそうですね..。」

「まいっちまうよな、偶にああいうイカれた行動起こすんだよ。」

「そうなんですか...。」

小声で愚痴を宣う彼女の口が悪い事には触れてやらずに納得をする。単なる慣れか気遣いか、どちらにせよ客の女性は人間ができている。

「お待たせしました、早速参りましょう。現場はどこに?」

「散々探して荷物それだけかよ!」

手元には一つの小さなアタッシュケースがぶらさがり、安定しない持ち手がカタカタと鳴っている。

「キサラギです」

「キサラギ町..!

ここから随分近いですね。」

「都会にもあんのか、空き家って」

「数は少ないと思いますが..ありますよ。キサラギ町、空き家で検索すれば出てくると思います。」

「よっしゃ。」「こらアンズ」

直ぐにパソコンを開きキーボードを叩く。スマホで検索すればいいのに。

「あー邪魔だな、何だこのフザけたホームページは。」

見覚えの全く無い誰が作ったかもわからないサイトを閉じ、指定のワードを検索バーに入れクリックする。

「あ、出てきた。」

「そうです、これこれ」

「一番上に出てくるって事はホントに少ないんだなー。」

写真付きで表示された家屋は古びた和製の木の家。外観の写真から見る限り中々の良物件に映る。

「結構いい家じゃん」

「住所はどこだ、キサラギ町の..2-4か

中の様子とかわかります?」

「まだ中には入った事無くて..」

「あ、そうですか。」

「当たり前だろ!

空き家に勝手に入るかよ!」

比較的当たり前の事を口にする傾向があるようで、最早癖にまで達する程だ


「それじゃ今から見に行こうかな。

お客さんはここに居て下さい」

「なんでだよ?

一緒に行った方がわかりやすいんじゃねぇのか。」

「お前は黙ってなさい。

危ないんですよね色々と」

「...わかりました、待ってます。」

行くのは危険だと何故か注視され、我を張るのも違和感を感じるので引き下がる事にした。

「有難う御座います。

料金は追って御請求します、その前に仕事をこなしてしまいますね?」


「......」

「行くよ、アンズ。」

我先にと部屋を出るジョウシマ、追うように溜息を吐きつつ背筋を延ばして重たい腰を上げる。

「ソファーにでも座っててよ、すぐ戻って来るからさ?」

「あ、はい..。」

「台所の冷蔵庫開けてみ、コーヒーの楽園だから。好きなの飲んで」

「はい..!」

「それじゃ、行ってくるわ。」


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