ボクの旅路

とまと

第1話 天使の国

 遥か彼方の空の上。


 そこには不思議な国があるという。


 これはそんな国のお話。




 今日もナータはヨウと遊んでいた。


 そこに帰ってきたのはマルリ。


「みんな。ただいま。また、帰ってきちゃった」


 マルリは、ちょっと悲しそうな笑顔でそう言った。


「えっ?! マルリ! またダメだったの?」


 驚いたナータはマルリに駆け寄った。


 マルリはナータの親友だ。


「うん…… 今回はだいぶ頑張ったんだけど…… やっぱり、相性が悪かったみたい」


 マルリは、涙を浮かべて俯いてしまう。


「そっか」


 マルリが帰って来たのは2回目だ。


 元気に旅立って行ったのに、上手くいかなったなんて、悲しくない筈はない。


 ナータはマルリの手を取って、優しく握る。


「きっと、また、チャンスがあるよ」


 ナータはまだ外の世界へ行った事が無い。


 一体、どんなところなんだろう。


 本音はマルリに外の話を聞きたいが、我慢した。


「ナータ。キミの順番は?」


 仲間はみんな旅立って行くのに、ナータはいくら待っても順番が来ない。


 マルリもその事を心配していたのだ。


「まだ。この前もゼスに聞いてみたんだけど、いつになるかまだ分からないんだって」


 ゼスはみんなの旅立ちの日を決める役目を担っている。


 みんなゼスが大好き。


 だからここにずっと居たいけど、いつかは旅立って行くのがここの決まり。


 ゼスとも、仲間とも、いつかは離れ離れにならなきゃいけないのだ。


 でも、行く先はとても素敵な場所なんだって、ゼスはいつもみんなに話して聞かせてくれていた。


 そこにヨウがやってきた。


「わたし、もうすぐだって!」


 ヨウは、嬉しさを我慢出来ないようだった。


 小さな羽が生えたばかりでまだ飛べない小鳥の様にぴょんぴょんと飛び跳ねた。


「ゆうべ、ゼスから言われたの。心の準備をしておきなさいって」


「なら、本当にもうすぐなんだね?!おめでとう」


 ナータは祝福した。


 マルリも優しくアドバイスをする。


「僕みたいに、戻ってこないように頑張ってね!初めは少し怖いけど大丈夫。すぐに慣れるから」


「うん。ありがとう」


 ヨウは、遊んでいる仲間たちの元へ駆けて行った。


「僕の順番はいつになるんだろう。僕が一度も旅立つ前に、キミは2回も旅立ってるんだから羨ましいよ」


「ごめん。そうだよね。少し、向こうで外の事話そうか?」


「いいの?」


 二人は木陰の下に座った。





「ナータ!」


 不意にゼスから呼び止められる。


「とうとうキミの順番がきたよ」


 ナータは、驚きと嬉しさで跳ね上がる。


「本当に?」


「ああ。本当だ。さぁ、行こう。」


 それを見たヨウが駆け戻って来た。


「なんだぁ。ナータの方が先なんだぁ」


「そうみたい。ごめんね」


「いいのよ。それじゃあね」


「うん。ヨウ、ありがとう。マルリも、元気でね。さよなら」


 マルリは涙を堪えながらも、笑顔を作って手を振った。


「ナータ。頑張ってね!帰って来ちゃダメだよ」

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