ルイちゃんのチョコレート講座! その2

 はぁ……はぁ……。そんなわけでルイちゃんのチョコレート講座の続きです。

 今度こそ間違いなく生クリームを入手……はぁ……はぁ……してきたので大丈夫です。


 何でいきなり息切れしてんのか? 分からないキミは読み直そう! 疲れた……。


「よし、材料も揃ったし始めんぞー」


 正直もう疲れたが、幼馴染大明神様がお呼びなのでいかねば。で、俺は真剣にチョコ作りに取り組む。

 でないと、バレンタインできないからな!



 ※



 トリュフチョコを作ろう! 工程その1。

 チョコレートを刻む。ズタズタに刻む!


 まずは板チョコをまな板に載せ、チョコレートが身動きできぬ間に包丁で刻む!

 千切りみたいに素早くできるとカッコいいが、できなくても特に問題はない。指切らないようにだけ気をつけろ!


「ねぇ、何でチョコレートをわざわざ切るの? そのままでいいんじゃ、もぐ、ねぇの? もぐもぐ」


「お前は何で刻んだチョコレート食ってんだ? しかも、ひとがやったやつをだ!」


「いや、どんなふうに変わんのかなって思って」


「そうだな。チョコレートに生クリーム塗ると思ってたくらいだからな……」


 ルイは残念なものを見る目をして、俺を見ている。

 そんなに? そんなに当たり前なのかい、トリュフチョコは?

 俺は今日初めて存在を知ったんだけど?


「チョコを刻むのは、そのままだと溶かすのが大変だから、刻んで熱が入りやすくすんだよ」


「なるほど。それは賢い」


 単に『チョコレート作りました感』を出すためにではなく、きちんと理由があったと。

 チョコを刻むのは熱を通しやすくするためと。これを用意してきたメモ帳にメモメモ。材料にルイに聞いたこともメモメモ。


 んで、後でまとめてチョコレート生成法を書にする。そうすれば異世界でもチョコレートのレシピ伝わる。


「おい、メモ取ってないで手伝え。そういうのは後でやれよ」


「──えっ!」


「何で意外そうなんだよ!」


 てっきり見ているだけでいいのかと思ったら、俺もやらないといけないらしい。

 だから、まな板と包丁が2つずつあったのかー。


「よし、任せとけ! 刻んでやるぜ!」


「手切るなよ。そっか、子供用のプラスチックの包丁が必要だったか」


「いらないよ。そんなに子供じゃないよ?」


「なら、せいぜいやって見せろ。できてたら、今の発言は取り消そう」


 俺は完全に舐められている……。トリュフチョコも知らない。おつかいもできない。まるで子供だと思われているもよう。

 ここはチョコを上手く刻んで見返してやらねば! 見ろや、この包丁さばきを! 早いだろ!


「──これでどうだ!」


「何でそれで自信満々なんだよ! なに綺麗に分割してんだ。包丁いらないだろそれ! もっと細かく刻めよ!」


 やってみたはいいが、よくよく考えたら俺、包丁とか使えないわ。調理実習とかでもやってこなかったから仕方ないな。

 調理実習の授業はあった気もするが、包丁を持った記憶はない。ほら、危ないじゃん?


「ルイ、俺に包丁スキルはない。これが限界だ……」


「手で割ったってもっと細かくなるわ!」


「──その手があったか!」


「やんなよ? 刻むんだよ。そっからでいいからちゃんとやれ! 調理実習もサボってばっかだからそんななんだ!」


 ぐうの音も出ない正論を言われ、手に持つ包丁が非常におっかないので、言われたとおりにしました。

 こうして板チョコは原型をとどめていない形になりました。次に進みます。



 ※



 工程2。刻んだヤツを生クリームと煮る。

 お鍋に生クリームを温めてチョコレートと煮る。煮る……。


「まさかチョコレートを煮るとは思わなかった……」


「私もそんなことを言い出すとは思わなかった」


「──煮るんじゃないの!?」


「温めてチョコレートに混ぜんだよ!」


 もう、いつ手が出てもおかしくないと思う幼馴染大明神様。口より先に手が出るルイちゃんにしては、我慢してると思う。無知でごめんね!


「これをチョコレートに混ぜて、ガナッシュにするから」


「サーイエッサー!」


「分かってないな。まあいい……」


 訂正。工程2。ガナッシュなるものにする。何かは知らないが、ガナッシュにする。


「ガナッシュってのは、生クリームにチョコを混ぜたクリームのことだ。用途によって硬さを変えるんだが、今日はトリュフチョコだから」


「メモメモ。チョコレートクリームにすると」


「生クリームが多いと、本当にチョコレートクリームになるからな? トリュフチョコにするんだからな?」


 ケーキに使ったりするのと、チョコレートにするのでは変わってくるらしい。

 詳しい分量は俺のメモの中にある。めんどくさ……作業が忙しいから省略する。

 気になるなら自分で調べたまへ。


零斗れいと。刻んだチョコレートのボウル取って。どっちでもいいから」


「はい、じゃあこっち」


 どう考えてもルイがやった方が上手だし、こっちでしょう。俺の方はそこそこの出来だしね。そこそこの。


「私がこのまま生クリームをボウルに入れていくから、チョコレートと混ぜて」


「わかった」


「機械に頼んな! そんなんしたら失敗だからな? 泡立て器使って、ゆっくり混ぜんだよ」


 機械はダメらしい。人生で一度くらいは、ガーッってなるのをやってみたかったのに……。

 文明の利器を使えないので手動でやりました。めっちゃ大変でした。


「そんなもんだな。あとはこれを冷蔵庫で冷やす」


「サーイエッサー!」


 混ぜるのが大変だったが、あれが最難関だったようだ。これで完成とは簡単だったな。

 これなら俺1人でも作れちゃう! チョコレートチョロい!


「まだ、終わりじゃねーからな?」


「こ、心を読んだ……。読心術?」


「冷蔵庫で冷やしてる間に、仕上げの準備だ」


「無視しないで」



 ※



 工程3。冷やしてる間に仕上げ用意。

 冷たくなったまっくろくろすけを飾るんだって!


零斗れいと。仕上げだけど、お前はココアパウダーとミックススプレーでいいと思う」


「お前はって何? 俺もそっちがいい!」


 ルイは自分だけ違う仕上げをするつもりらしい。

 しかし、そこは公平に同じやつがいいと主張します! 仲間外れとかダメだと思う!


「包丁すらろくに使えない奴が何言ってんだ。簡単なのにしておけ! で、そうなると暇だろうから、コーティング用のチョコレートを湯せんして」


「えーーーーっ」


「あー、そんなこともできないか。だよな、生クリームは間違える。チョコレートを煮ると思ってる。包丁は使えないだもんな。悪い、頼む相手を間違えた。そっちに行ってお絵描きでもしてなさい」


「おい、言っていいことと悪いことがあるぞ。1回見たことすらできないと思っているとは、何たる屈辱! 俺に湯煎しているところを見せたことを後悔させてやる! 貸せ!」


 目の前でついさっきルイがやったことすら、俺はできないと思われているとは! 舐めやがってーー! こんなん、お湯の熱で簡単に溶けるんだよ!


 だが、──懸命にかき混ぜるけど溶けない! なんでだ? ルイのはちゃんと溶けていたはず。こうなれば力任せだ!


「お湯入れんな! 力任せにやんな! 湯煎はチョコにお湯が入んねーようにやんだよ!」


「だって溶けねーんだよ!」


「お前の切り方が雑だからだろ!」


 ……なんということだ。刻み方でこれほどまで差が出るなんて……。

 ガシャガシャやってお湯も少なくなってしまっし、温度も足りないのかと思い、下のボウルのお湯を取り替えてやりました。こんなにチョコレートって溶けないんだね。


「熱っ。あつ、あっちい?! なにすんだよ!」


「お湯入ってる! これで何回目だ!」


「だからって、ボウルに残ったお湯を俺にかけんなよ! イジメ反対!」


 こうね……スプーンをお湯に浸けて、熱々の水滴を飛ばしてくるんですよ。手は出ないが、これじゃ変わんないですよね?


「──熱っ!」


 またやってしまったらしい。チョコレートが溶けるまでこれを繰り返し、次回完成するようです。あつ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る