とってもつまらない世界

※1-3


 顔の怖い。喋っても怖い。王様というおっさんに長ったらしい話をされた。

 王様と同様に強面のおっさんたちにも囲まれて、それはもうみっちりとだ。

 正直、生きた心地はしなかった。生まれて初めての経験だった。俺はね……命の危機をずっと感じていたよ?


 あー、怖かった。怖すぎて逆に慣れた。もう大丈夫だ! おっさんはおっさん!

 何人いようと。見た目がどうだろうと。俺の中のフォルダの「おっさん」というカテゴリに入れて今後は接する。


 そんな長い話の途中、ちょうど異世界では昼時になったらしく、俺の前にも食事が運ばれてきた。

 これが少し前までだったら、食事なんて出されても喉を通らなかっただろう。まあ、その時にはすでに慣れた感があったから、食事は美味しくいただきました。

 ただ……──腕しか拘束は解除されなかったけどな!


 そして話は長かったが異世界の抱える事情はわかった。何を求めて誘拐まがいの事を繰り返していたのかもだ。

 事情がなかったら単なる誘拐事件。訴えたら俺が勝つのは明らかだが、事情が事情。面子が面子。仕方ないと許そう。

 それに俺は頼まれれば断れない。そんないい人間しかいない性格だからな。


 まあ、王様にきちんと話をされたから俺は納得し、自ら協力を申し出たのは確かだけどね。

 しかし俺が何を聞いたのかを語る分には必要ないので、王様が長ったらしく語った内容をギュッとまとめる。


 この世界はごく最近まで、種族間の争いが絶えなかったらしい。だが、その争いも王様始め、おっさんたちの活躍で集結し今日がある。もう戦う必要はなくなった。

 めでたしめでたしと普通はなるところだが、それこそが問題だったのだ。


 長い争いの中で生きてきた彼らは、それしか生き方を知らないのだ。

 大人はおろか子供たちですら、毎日をただ過ごしている。戦いが終わって時間が経っても、前と変わらない生活をしている。

 もう戦いなど起きないのにだ。


 生活の真ん中にあったものが抜け、穴だけが残り、誰もが何をして日々を過ごせばいいのかわからない。

 上に立つ者が指針を示そうにも、バトル脳のおっさんたちにはそういうのに向かない。

 もれなく全員がバトル脳だから……。


 戦うコマンドがなくなったから、朝起きて、朝飯食べて、昼飯食べて、晩飯食べて、寝る。

 これを繰り返すだけの人生は楽しいか?

 もちろん食べるためには異世界だろうとお金がいるのだから、戦わなくても働かなくてはいけないだろう。けど、食べるの他に働くがプラスされても楽しそうか?


 すっげーーーっ、つまらないと思う。

 いや、間違いなくつまらない!


 働くには目的が必要で、その目的が食べるためだけではつまらない。する事が少ないもんだから、時間があまり過ぎているのも問題だ。

 例えばだ。俺なんて時間なんかいくらあっても足りないくらいだ。日々、バイトして、バイトして、バイトして──……あれっ、バイトしかしていない?


 俺も家と学校とバイト先しか行き来していない。他人のこと言えないんじゃ……。

 いやいや、ちゃんと遊んでるし! 趣味も豊富だし! 本当だよ? 本当だって!?

 あれだよ、楽しむためには労働も必要ということだよ。遊ぶにもお金はあった方がいいしね。


 えー、次に進みますね。進みます。


 食事に関してもただ栄養を摂るだけ。腹だけ膨れればいいということだ。

 そこにそれ以上の意味はないらしい。

 これもつまらない。美味いもんを食べてなんぼだろ! 美味いもんを探してなんぼだろ!


 そうだ、いい言葉を教えてやろう。「塩味は味じゃない!」だ。いい言葉だろ?

 今のは出された昼飯を食べた俺の感想だ。

 異世界料理の味付けはシンプル。バリエーションも少ない。聞いた話だと、肉、魚、肉、魚、とメインが変わるくらいらしい。


 ちなみに今日は肉だった。いい肉の分厚いステーキだ。しかし、せっかくのいい肉なのに塩味だった!

 俺はタレが欲しかった。次からは持参する! 魚だったら醤油もいる!


 ──この世界には何の面白みもなかった!


 それが長い話を聞いた結論だ。だから、俺から提案したんだ。面白そうなことをやろうと。

 イベントなんていくらでも世界には溢れてるんだ。やりようはいくらでもある。

 そして彼らはそれを求めてた……。


 あんな強面たちに面白いこととか、楽しそうなこととか思いつくはずがない! 無理だ、無理!

 全員が戦争の話なら得意そうな顔をしているからな。そんなのが何人顔をつき合わせても、どんだけ時間をかけてもアイデア1つ出やしない。


 そこで目をつけたのが、俺たち異なる世界の人間というわけだ。悪魔なセバスは彼らからすると異世界に行き、人を攫っ……連れてくる。その人間に話を聞くために。

 自分たちには微塵もない発想を求めてな。


 しかしながら俺の前の人間たちは、これまで誰一人として、ろくな話をしてくれなかったらしい。

 ビビっていたからというのが主な理由な気がするのは黙っておこう。中には経済的な話をした奴がいたらしいが、──そうじゃない! 足りないのはそこじゃない!


 ──と、ここまででわかってくれたか? 俺がプロデューサーだ。この意味は分かるな?

 イベントの全権を任された。もちろん費用も使い放題。


 ……いったい何をするのか?


 現実がダメなら異世界があるじゃない! 手始めにバレンタインをやる!

 ちょうど時期だったからだ。バレンタインの時期だったからだ!


 そういうわけでバレンタインとやることは決まったが、今日は異世界でも2月1日と準備期間は多くない。とはいえ最初が肝心だし、よく作戦から練らなくては。

 まず何から始めるべきか? バレンタインのシステムからか? チョコレートはどうするか?


 当たり前だが初めてのイベントだし、大々的に宣伝も必要だ。そしてそれには広告塔も必要だ。とびっきりの有名人がな!

 あの威厳のありすぎる方々じゃなくて、もっと人気のありそうなヤツを探さなくてはいけない。


 かくして俺の異世界プロデュース。第1弾。

 バレンタイン(あわよくば自分もチョコレートを貰えるんじゃないか?)作戦は始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る