第3話 会長は恋する乙女②
「お客人に大変ご迷惑をおかけしました。私のバカなお嬢様が……」
「ちょ、ちょっと!! 私のメイドさんのくせに口悪すぎるわよ!!」
先ほどの部屋からさらに移動して、私たち二人は雨宮会長自身の部屋にいた。
私たちは部屋の二つの椅子と丸いテーブルに私たちは座らされ、その目の前には、ベットに腰掛ける雨宮会長と傍らに立つメイドの青島涼葉(あおしますずは)さんがいる。
普段生徒に見せている凛々しい姿の会長とは打って変わり、ハイテンションでとても表情豊かな姿を見せている。そんな姿にちょっと困惑気味になってしまう。それに気が付いた華蓮先輩は私の顔に近づき、話しかける。
「おじょ、うぅん。鏡見咲さん、あれが本来の雨宮優(あまみやゆう)の性格よ。いつも学校では気品あふれる振る舞いで、時にはちょっと妖艶な雰囲気も醸し出してるけど、内面は御覧の通り」
先輩の説明に続いて、メイドの青島がため息交じりに言葉を続けていく。
「落胆したでしょ。こんなんなんですよ、うちのお嬢様。いわゆる高校デビューってやつでして完璧会長キャラでずっと通してるんです」
「ちょ!! そんなこと言わなくてもいいから」
「で、本当に会長に指名されて、引くに引けなくなってこのざまですよ。哀れ……」
「いいすぎだから!!!」
内情を暴露されまくり、顔を真っ赤にして自らのメイドに会長は声を荒立てるその様子は本当に普段と違いすぎてびっくりする。しかしそんな彼女をメイドさんの涼葉さんは軽く流していく。というかどことなく口を微笑ましており、むしろ面白くてやっているようにも見える。
「そういえば優お嬢様は『鏡見咲』さんに用事があるんでしたよね。大切なお話があるのでしょ? 私は席を外しますから。水瀬華蓮さんもお願いいただけにないでしょうか? お嬢様は二人きりで話したいらしいので」
「あまりやぶさかじゃないけどわかったわ」
青島涼葉さんは思い出したようにそう言うと自身と共に華蓮先輩の退室を促す。先輩はもちろん乗り気ではなかったが渋々承諾していた。そして二人が出ていき、扉は閉まるとその部屋には会長と私だけになってしまった。
「…………」
「…………」
二人になった途端、会話が止まる。なんとも気まずい。会長とは昔からの見知った中だけど面と向かって話すのは久しぶりなのである。ただこの無言空間はやっぱりいやだ。とりあえず第一声をかけることにする。
「あ、あの」「あ、咲ちゃ」
「あ、あぁ」
「あ、」
するとどうだろうか。お互いが同じタイミングで言葉を発してしまい、いきなり会話が詰まった。ある意味、定番のやりとりである。
「あ、会長が先でいいですよ。私は特に言いたいこともないですし」
「そ、それなら言わせてもらうわね」
こほんと言って会長は少し自身を落ち着かせる。そしてそのまま口を開き始めた。
「ご、ごめんなさいね。わざわざ華蓮に頼んでまでうちに来てもらって。実は咲ちゃんに話したいことがあって……」
「全然大丈夫ですよ。こんな豪邸が見れてうれしいです。ところで話ってなんなんですか?」
「えぇとそれは……」
私が理由を聞くと会長はなにか気まずそうに目線を反らしてさらには少し顔を赤らめていく。しかし何か意を決したのかすぐに目をきりっとさせてこちらに向いた。
「私、あなたと一緒に部活をしていた時からずっと思ってたのよね」
「思っていた?」
「えぇ、私の一方通行だけれども咲ちゃんと話してていつもすごく楽しくて、あなたを見るだけで元気になってたわ」
「まぁ、元気だけが取り柄ですから、ハハ」
「でもね、私自身、卒業してあなたと離れた時にすっごく寂しく感じた。普通ならそれで終わりだけど、気が付くとずっとあなたの事考えてばっかりで、同じ学校にあなたが来てくれた時、うれしくてずっと目を追ってしまってたわ」
「か、会長!?」
会長の声がだんだんを大きくなり、そして顔を赤めながらもしっかりと私を見据えて会話を続けていく。
「単刀直入に言うわ。私、あなたのことが好きなの!!!」
「へっ!?」
そして私は告白された。だけど一瞬頭が真っ白になる。そして数秒経ったところで私はようやく何を言われたかを自覚した。
「え、ええええええええ!!!!!!!」
★★★★★★★★★★
お嬢様と会長の優を部屋に残した私は、メイドである『青島涼葉』と別の部屋に来ていた。とは言っても特別な部屋ではなくて、ちょっとした小さな給付室である。青島さんは部屋にあった紅茶のパックを取り出してそれをカップに入ったお湯に漬けると私に手渡してくれる。
「ありがとう」
私はその部屋にあった席に座りながらそれを受け取り、お礼を言う。そしてそのまま彼女も席へと座る。すると青島さんは私に軽く話しかけてきた。
「華蓮さん。あなた、うちのお嬢様が何をしようとしてしているかわかってますよね」
「えぇ。たぶん咲さんのこと大好きオーラを出しまくってからね」
私はそう答えると、カップに口につけて紅茶を口にへと注ぐ。
「重ね重ね、うちの主人がすいませんね。わざわざ家に呼んで恋敵がいるところでこんなことして」
「恋敵って、私と咲さんとは何もないです」
本当は恋人同士だが、言うわけにはいかないのでとりあえず否定する。とはいえ彼女には完全にばれているように感じる。現にそう私が言っても見据えてような表情で口元を微笑ませながらこちらを見ている。
「ふふ、まぁいいです。あの人は昔からですよ。シャイで人前に出るタイプじゃなくて卑屈なのに、やると言ったらどこまででも突き進んでどんなことでもしてしまう。方法手段選ばすにね」
「その言い方だと、優を褒めてるようにも貶してるようにも聞こえますけど。いいの? さっきから悪口ばかり言って」
「別にいいんですよ。ここで働き始めてからずっとあんな感じですから。とはいえ今回ばかりは私も感情が出してしまうますねぇ」
そう語る青島さんの表情は先ほどと違って少し暗くなっていく。声も低く若干怒っているようにも感じる。
「もしかして咲さんに取られるのが嫌なんですか?」
少し嫌味だとは思いつつも私は彼女にそう投げかけていた。私もお嬢様とあの会長の優が接触しているのが気に食わないからか、少し意地悪になってしまっているようだ。
だがそんな問いかけでも彼女は淡々と返答してくれた。
「嘘をついてもしょうがないですから正直に答えましょう。答えはYesです。実はここに来たのは私自身もかなり小さい時でしてね。もちろんその時は仕事というわけじゃなかったですけど、お嬢様のお世話をしてきたんです。そりゃ愛着も湧きますよ」
「小さい時から? なら余計にむずがゆいでしょうね。その気持ちは優は知っているの?」
「さぁ? 気づいていたとしても今は意味がないですけど。咲さんに絶賛夢中ですからね。主人の意見は尊重しますよ」
「でも本心では今日が何事も無ければいいと思ってますよね。それに尊重とか言ってますけど、自分の気持ちを話して受け入れてくれるか怖いとか思ってたりしてませんか?」
私はまた嫌味にそう返してまた紅茶を口にへと注いだ。自分も咲お嬢様とのことで色々あったくせにどうして今日はこんなに口が悪くなってしまうのだろう。
「咲さんとイチャイチャカップルっぷりを見せつけてくる方は行動ののみならず言葉もストレートですね、全く。お互いむずむず感というかイライラ感というか収まりませんね。まっすべて優お嬢様のせいなんですけどね」
「全くです」
青島さんとなんとも妙な雰囲気になりながら、私は会話を続けていく。ギスギスしながらもどこか共感できる感覚を味わいながら、その部屋で1時間くらいのんびりするのであった。
★★★★★★★★★★
空も少し夕暮れに染まる頃。私と咲お嬢様は、会長である雨宮優の家を後にしていた。辺りには人はおらず、二人の足音が静かに響いていた。
「華蓮先輩。私、雨宮会長に告白されました」
「え、あぁ。そうだったのですか」
私の顔がすごく不安そうに見えたためだったのか、お嬢様は私が気になっていたであろうことを察して言ってくれた。ただ自分でも何となくは感づいていたが、はっきり言われると少々凹んでしまう。
というかあの優が本当に告白するとは。青島さんの言ってた雨宮会長の猪突猛進的な性格は伊達じゃないようだ。
「あぁ、先輩。気を落とさないでください。私も驚きましたけどもちろん断りましたよ」
「はぁ、安心しました」
お嬢様のその回答を聞いて胸がすく。お嬢様の事だからそういう事はないとは思っていたが、それでも安心した。
「とはいえ取り繕った嘘で断るのは相手には失礼なのでもう私たちの関係は言ってしまいました」
「え、お嬢様。我々の関係を言ってしまわれたのですか?」
「『先輩は私のメイドさんとして働いてくれていて、一番大切な人なんです』って雨宮会長には話しました。秘密にしてと先輩に言われたのに、申し訳ないです」
「お、お嬢様……」
お嬢様はそう言って会長に話したこと述べてくれた。お嬢様のその真剣なまなざしに思わず顔が真っ赤になってしまう。
「だ、大丈夫です。仕方がありませんよ。お嬢様のことを好いていたことは分かっていましたがまさか彼女がそこまでするとは思ってませんでしたし。お嬢様の心遣いは立派だと思います」
「立派ではないですよ。雨宮会長ちょっと泣いてましたし、諦めないって怒ってましたし。むしろ傷つけただけかもしれません。まだまだいろいろと未熟です」
「み、未熟なんて……」
「なんかいろいろとネガティブになっちゃいますね。でもやっぱり先輩とこうして歩いているとそんな悩みなんてちっぽけに思えてきます。というより先輩と繋がれていることがすごくうれしいからでしょうね」
お嬢様はそうして私と手を繋いでくれた。すごく暖かくて心地が良い。私は思わずぎょっと強く手を握りしめていた。
「お嬢様、私もお嬢様と繋がれていつも満たされてます。私の恋人になっていただいてありがとうございます」
「ふふ、私も先輩と恋人になれてすごくうれしいですよ」
私とお嬢様、お互いに微笑みながら言葉を返す。そして自然に二人の口は合わさっていった。
先輩はメイド様!? フィオネ @kuon-yuto
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