第7話 喫茶店とメイドさんとちょっぴり嫉妬と①
〜7月上旬〜
「ま、まじか!?」
「これ、本当なのぉ!?」
私が見せつけたスマホ画面に向かって、目の前にいる二人は驚きの声をあげていた。
私、鏡見咲(かがみさき)は現在、通っている白咲女子学院の自分の教室にいる。そして自分の席に座り、自らのスマホ画面を友達に見せていた。その友達とは、見た目はヤンキー系の優しい『神埼麻也香(かんざきまやか)』ちゃんと、おっとりだけど母性溢れる『柊天音(ひいらぎあまね)』ちゃんだ。
二人に見せつけているものは、私の家のメイドさんとなった水瀬華蓮(みなせかれん)先輩である。メイド服を着た先輩がうっとりとした顔で私に寄り添ってあり、本人である私が恥ずかしそうに並んでいる。
そうこれはいわゆるツーショット写真である。水瀬先輩が来たときに母が取ってくれた一枚だ。これは私の家宝の一つとなった。
そしてそんな写真を思い切り自慢していた。友達の麻也香ちゃんと天音ちゃんはあまりの衝撃に声が出ないみたい。
「ふふふ。すごいでしょ? 水瀬先輩がメイドさんだよ。はぁ、信じられない」
あからさまのどや顔を放ち、鼻高々に自慢しまくる。だってあの水瀬先輩と一緒に暮らせるなんてまるで夢や創作の世界だ。なんど頬をつねったことか。いろいろあったけど、こんなに嬉しいことはない。
しかし、そんな自慢もしばらくすると麻也香ちゃんは重い表情になっていく。そして私の両肩にそっと手を置いた。
「咲。あんた画像加工してまで、先輩と二人になりたかったのか。一体誰に手伝ってもらった?」
「違うよ! 本人だよ。水瀬華蓮先輩本人なの! 信じれないかも知れないけど」
麻也香ちゃんはこの写真を見せても全然信じてくれないようである。私もむきになって、立ち上がってしまう。
「咲ちゃん、落ち着いて。麻也香ちゃんも煽らないの」
二人が対峙しそうになった瞬間、天音ちゃんが待ったをかける。私たちを優しく宥めると、とりあえず私が席に座ることを促してくれた。
「私は信じるよぉ。流石に咲ちゃんがこんな加工するはずないし、なによりこの照れ方が咲ちゃんらしいし」
ふふふと優雅に微笑む天音ちゃん。でも照れ方を指摘させる方がちょい小恥ずかしい。
「悪かったよ、咲。水瀬先輩がメイドさんなんて流石に信じられなかったし、写真見せられてもしっくり来なかったんだよ」
「こうして話してる私も信じられないよ」
確かに夢のよう。あまりにも現実離れしすぎて、先輩との触れ合いは幻だったのではないかと度々思う。
(あ、水瀬先輩)
そんな中。反対側の校舎に他の生徒に囲まれた水瀬先輩を見かけた。やっぱり遠くから眺める先輩も美しいな。さらっと流れる髪に、クールな佇まいがとても良い。
見つめていると、先輩がこちらの視線に気がついたようで、なんと軽く私に微笑んでくれた。
「えへへ、先輩がこっち見て笑ってくれた、えへへ」
それだけで上機嫌。これだけで今までの嫌なことが吹っ切れるよ。
「咲、気持ち悪いぞ」
そんな幸せ空間を躊躇なく潰してくる麻也香ちゃんだが気にしてはいけない。
「はぁ、先輩は本当に私のメイドさんなんだ。うへへへ」
とろけ顔になって机に突っ伏してしまう。はぁ、幸せとはこの事だよ。
「でも咲ちゃん。あんまりメイドさんって公言しない方がいいよぉ」
「ふぇ、なんで?」
「そりゃそうだろ。あんなにファンがいるのによく思わない連中が出てくると思う。それが信じられない事実としてもだ」
「ななるほど」
浮かれていたが、確かにそうだ。他の人の立場になれば真偽はともかくあまりいい気分じゃないかもしれない。
「でもやっぱりにやけちゃうなぁ。だって実は今日は先輩と帰ったら喫茶店によるんだぁ。えへへ」
「だめだこりゃ」
「咲ちゃん、浮かれすぎだねぇ」
周りの人にとっては快く思わないのは確かだ。でもやはりこんなに楽しみがあれば、その気遣うということも怠ってしまって仕方ないだろう。
「こりゃ、罰が当たるかもよ」
「うんうん、咲ちゃん。気遣いは大事だからねぇ」
二人は調子に乗る私を戒めてくれるが、有頂天は私には聞く耳を持つことは出来なかった。まぁこの後、ちょっぴり痛い目に会うことになるのだが。
★★★★★★★★★★
「先輩!!!」
放課後、二人と別れて私はある喫茶店の前に待っていた制服姿の水瀬華蓮先輩に声をかけていた。
「お嬢様!」
遠くから見えたクールな表情は、頬を赤らめて嬉しそうな表情に一気に変わる。それだけで胸がきゅんと熱くなる。
「す、すいません。せ、先生の放課後の連絡が遅くなって。はぁはぁ、待たせてしまいましたか?」
「いいえ。お嬢様の待つ時間、私も胸を踊らせていましたから、ふふ」
そう言って手を口に当ててくすくすと笑う先輩。すごくかわいらしい。息を切らせるほど走ってきた私だったが、先輩とその笑顔だけで疲れが吹っ飛んでしまいそうだ。服装に関してもそうだ。メイド服もいいけどやっぱり学生服もとても似合う。思わず見惚れそうになるがぶんぶんと首を振って気を取り戻す。
「そ、そういえばここが先輩のオススメの喫茶店ですか?」
私達が集合場所に選んだのは、学校の帰り道にある喫茶店。ただし大通りの脇にある、小さな路地先に立っている喫茶店だった。周りのお店もどこか古めかしい印象のお店ばかりだ。このお店も喫茶店というよりアンティークショップみたいだ。
「左様でございます。ここの喫茶店は路地の中にあって雰囲気も大人びてますから、学院の生徒はほとんど来ないのです。やはり学院の人には私達の関係をあまり知られるわけにはいかないでしょう」
「そ、そうですね。全然、そんなこと考えられなかったですよ」
やはり先輩だなと改めて思う。メイドとして付き添ってもらえているが、他人の目も配慮して気遣ってくれる。容姿だけではない、そんな気配りができる性格も人気の秘訣なのであろう。
(うん? でもあれ?)
周りに目を気にしてるという点に若干、気になることを思い出す。
「けっこう町中でセクハラされたような」
「それでは入りましょう」
言葉を発した瞬間、先輩は何事もなかったかのように見せ前に立ってドアノブを取り、入店を促す。私はつっこむ暇もなく、そのまま入店した。
カロンコロン
とどこか懐かしいベルの音を聞かせながら先輩がドアを開ける。そして私は店の中に入った。
「いらっしゃいませ」
入店と同時に、女性の声が私達を迎える。そして私の目には店の様子が映し出される。
「すごい」
外見もそうだったが、中もこれまた古めかしく、なつかしい雰囲気を立っているおしゃれなお店だ。濃い色をした木がベースの内装で、大きい古時計や、小鳥が止まった木々の彫刻が並べられている。というか置かれているものがアンティークショップまんまだ。
横長のテーブルの向こう側には、店の制服を着ている髪を後ろで短く結った女性がいた。なんというかクールでかっこいい印象の人だ。この人が店のマスターだろうか。後ろにはいろいろなコーヒーやココアなどの豆が置かれており、奥に見える部屋には台所も見える。そこにはエプロンを来たキッチンスタッフの女性がいた。
「お嬢様、こちらに座りましょう」
店内の装飾に魅せられていると、先輩が店のテーブルに座るように手を差し伸べて促してくれる。
「あ、すいません」
私はそれに気がつくと慌てて席にへと座る。そして先輩が向かい側に座ると思ったら、なんと真横に先輩が座ってきたのである。
「せ、先輩!?」
「私、お嬢様の横がいいんです」
そう言って肩を寄せて、ぴとっとくっついてくる。そんな大胆な様子を女性のマスター顔を赤らめながら見てくる。恥ずかしい。
「せ、先輩。周りの目を気にすると言ったじゃないですか!!?」
「学院の生徒には見られてませんから大丈夫なんです」
前のように体を触るというセクハラまがいなことはされないが、今度はとても甘えてくる。この前に先輩と一緒に眠て、すごく密着してたけどやはり慣れない。嫌じゃないけど慣れないのだ。本当に心臓が持たないよ。
「せ、先輩。メニュー見ましょうよ、せっかく来たんですから」
そう言うと先輩もはっと我に返った。
「す、すいません。我を忘れてつい」
先輩は落ち着いた所で、置かれていたメニューを開く。
「どれになさいますかお嬢様?」
メニューの内容は至ってシンプルだ。特製コーヒーと書かれたものの他に、ココアやアイスティー、ホットケーキといった喫茶店ではありふれたもの。せっかくなのでここは特製コーヒーを頼むことにする。
「え、えっと。じゃあ特製コーヒーとそれからこのホットケーキを」
「では同じものを、私もお願いいたします」
「かしこまりました。今から支度しますので少々お時間いただきます」
私の注文と先輩は同じものをそのマスターへと頼む。マスターは注文を受けると、奥にいる人物にホットケーキのことを伝えて、自分は豆をひき始めた。
「せ、先輩。私にかぶせてきましたね?」
「お嬢様といっしょではだめですか?」
「ふふ、いいえ」
先輩と会話するのがやっぱり楽しい。注文を一緒にしただけなのになぜか会話は弾み、笑みが浮かぶ。好きな人といるのはやっぱり幸せなんだな。
ちなみにホットケーキとコーヒーが出来上がったのは約15分ほど。普通の店よりだいぶ時間がかかっているみたいだが、先輩曰くここはすべて自家製で丁寧に作るので時間がかかるらしい。
そもそもここは周りのアンティークなどの癒やされながらゆったりと落ち着きたい人向けの店みたいだ。ちょっと一人で来るのは不安だが好きな人と来れるならとっても心地よく過ごせる空間ではないだろうか。
先輩とささいな会話弾んだおかげで、時間の流れもドアのベルが鳴って他の人が入ってこともほとんど気にかけずに済んだ。なのでいつのまにかマスターは注文したした物を持ってきてくれていた。
「こちら特製コーヒーとホットケーキになります」
にこやかな表情で、マスターは注文を届けてくれる。私達は「ありがとうどざいます」とお礼を言った。
「ふふ、お二人は仲がよろしいのですね。お付き合いされているのですか?」
「つ、付き合い!? い、いえそんな」
急なマスターの振りに声が裏返ってしまう。
「はい、付き合っております」
「せ、先輩!?」
そして先輩も爆弾発言。いきなりなんてこと言うんだ。今度は声を荒げてしまった。
「ふふ、そんなのですね。素敵なカップルですね」
私のリアクションと先輩の清々しい態度に、思わずマスターも笑ってしまう様子。あぁ恥ずかしい。しかしそのあとマスターが口にした言葉に私達は驚かされることになる。
「でもあなた達がカップルなのでしたら、この娘はいったいどういった関係なのでしょうか?」
「「へ?」」
マスターが指を指した方向。それは向かい側の椅子だ。私達はそこに目線を向ける。すると
「えぇ、女の子!!!?」
そこにはツインテールに髪を結った金髪碧眼の小さな女の子がちょこんと座っていた。
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