第2話 キスから始まるメイド生活
「うぁ、あれ?」
頭をぼやけさせながら、陽の光とともに私は朝の目覚めを感じていた。ベットで横たわっているこの感覚。今日も平凡な朝が始まったと思う。
しかしなぜだろうか。口元に妙な感触があったのである。ふんわりとして、温かく甘い。そしてなぜだか安心する。だけど、やはり違和感があったので目をゆっくりと見開いた。
「んん!!??」
その瞬間、私は目の前の光景を見て、思い切り頭がフリーズした。驚いて声も上げようとしたが、出せなかった。それは私の口は塞がれていたからだ。
どういう事かというと。なんと、あの水瀬華蓮(みなせかれん)先輩が私にキスをしていたのである。そして私が目を覚ましたことに気が付くと、先輩は口元から離れた。
「お目覚めですか? お嬢様」
水瀬先輩は少し頬を赤らめて、しかしながら表情はそれでもクールさを保ちながらそう話しかけてきた。
「え、うぇ!? なななななにしてるんですか、一体!!?」
一瞬、先輩に見惚れてしまった。だが今の現状のおかしさにすぎに我を取り戻し、私は足をばたつかせながらあわてふためく。
そんな私の質問に水瀬先輩は淡々と答えを返した。
「何をとおっしゃいましても。お目覚めのキスでございますが……」
「お、おお、おぉ、お目覚めのキスじゃないですよ、ななななんでそんなことをぉおお!!!??」
目覚めのキスという意味がわからないワードをさも当たり前のようと言ってのける。はっきり言ってパニックにしかならなかった。
と言うか、そもそもなんで水瀬先輩が私の部屋にいるのだろうか。
「そういえば、私の家に、部屋に、せせせ、先輩がいるんですか!?」
「何を言っているのですか? 私は昨日から鏡見咲(かがみさき)様の専属メイドでございます。咲様のお母様の言いつけで」
「へ!?」
私が理由を聞くと、先輩は説明しながら不思議そうに首元を傾けていた。そして私も先輩の答えから昨夜のことを思い出した。
「あっ!!」
頭に浮かんだのは学校から帰ってきた玄関での場面。その時に母が『水瀬先輩をうちのメイドとして雇った』と意味不明なことを言っていたような。。
あまりにも唐突すぎた上に理解が追いつかなかったので、私は昨日のことを完全に忘れていたのである。
「いやいや、でもそんなこと納得できるわけ無いでしょ!! 第一、あ、あの水瀬先輩といっしょにここにいる時点で、わ、わわたしは、」
昨日のことを思い出したにせよ、異常事態には変わりないのである。言葉は噛むし、呂律は回らないし、いったいどうしたらいいかわからない。そんな状態の私であったが、先輩はゆっくりとこちらへと近付いて来る。
「お元気にお目覚めのようですので、さっそく朝の支度にとりかかましょうか」
「ふえ!?」
そう言って水瀬先輩は私は軽く持ち上げる。そしてベットから私を降ろして、その場に立たせる。
「あ、あのなにを?」
「もちろん朝の着替えでございます」
「き、着替え!? そんなことしなくてもいいですよ!?」
「すでに、朝ごはんの支度はできております。お母様も出社済みなのです。なのであとは咲様のお着替えだけなのです。ささ、早くしないと学校に遅れてしまいますよ」
「ひゃあ!!?」
そういうと水瀬先輩は、私着ていたパジャマの上着をまくりあげた。寝ている時にブラなんかしないから、脱がされた瞬間すぐさま両手で胸を隠した。
「そしてズボンもですね」
「い、いやそこは!?」
私の制止も聞かず、水瀬先輩はパジャマのズボンを下ろす。そして回収した上下のパジャマを丁寧にたたむと、その場に重ねて置いた。
「うぅ」
私は胸を抑えてショーツ一枚の格好で、恥ずかしさに震えながら立つ。すると先輩は部屋にかけてあった制服や下に着る薄手のシャツ、パンツやブラなどを次々と取り出して用意していく。
「な、なんで私の服の場所知ってるんですか!!??」
当たり前かのように私の衣服を把握しており、私は怖くて別の意味で震えた。というか本当に死ぬほど恥ずかしい。
「お母様から色々と伺っております。とはいえ咲様のプライベートに入り込んでしまっていることは承知しております。もしお気に障るようでしたら即刻おやめします」
「え、あの」
私の戸惑いっぷりに何か察してくれたのだろうか。急によそよそしくし始める先輩。そして申し訳無さそうにして頭を下げていた。ここまでされたら逆に私の立場が悪い気がする。
「あ、頭を上げてください先輩。そ、その別に嫌ではないですよ」
だから私は先輩が頭を下げているのを止めた。はっきり言って無茶苦茶ではあるが、先輩が好きだった私には先輩こうしていることに不快感は一切無い。というか戸惑いのほうが大きい。
「お嬢様……」
「あ、あの。それといつまでも裸のままってのは恥ずかしいので早く着替えさせてください。服も先輩の手の中だし」
「かしこまりました」
私はそう言ってメイドの水瀬先輩に着替えを任せる事にする。すると先輩はさっそく私の背中に回ってブラを付け始めた。でも気のせいだろうか。一瞬、先輩が口元が緩んだ気がしたけど。
「それでは、先に上の方から」
「は、はい」
そして先輩はなぜか私に密着し始める。
「ふふ、咲様のお体はとてもきれいですね」
「そ、そんなことないですよ、たたぶん先輩と比べたら」
先輩とこんなに近い。体中が熱くなってばくばくと音が聞こえるほど鼓動が高鳴っていく。
(や、やばいよ。こんなに至近距離で先輩と、しかもとってもいいにおいする。甘くてそれでいて爽やかな感じ。はぁぁ)
「咲様、謙遜はいけません。肌も白くてすべすべで、美しいです。ほら、私の手がこんなにすべっていきますよ」
「ひゃあ!?」
ブラをつけて、服を着せていくだけなのにその過程で水瀬先輩は私の体を時々撫でてくる。それもゆっくりと優しくと。思わず声が漏れてしまう。
「どうしたのですか? そのような気持ちよさそうな声を出して❤」
「いや、だって先輩が、触ってきて、あぁ❤」
「ふふ、これは粗相を。しかしながら着替えをしているのですから肌に触れてしまうのは仕方がないこととは思いませんか?」
「そんなこと……」
先輩のセクハラ?に耐えかねて軽く後ろを振り向く。本当に真面目にやってくれているのかと、そう思ったのだ。しかし先輩の表情は至って普通だ。冷静な顔つきのまま黙々と、服を着せてくれている。
「どうしました? 私の顔を見て」
「い、いえなんでも」
じっくりと見つめられて心臓がきゅっとなった。本当にきれいすぎる。くらっと意識が飛んでしまそうだ。本当にやばいやばい。
「ふふ、ささ早く支度してしまいます。あとはズボンとパンツですよね。ではショーツを降ろさせて頂きます」
「えぇ、ちょっとショーツはいいですよ!!」
「いけませんよ咲様。さぁじっとしていてくださいね❤」
「だめですって、そんなとこぉおおお~~~~~~❤❤❤❤」
★★★★★★★★★
「咲、どったの? 来てからずぅぅーーーと、ぽけ〜としてるけど」
「どうしたのかしらね、いったい」
数時間後、私は学校の自分の席に座っていた。周りには友達の神埼麻也香(かんざきまやか)ちゃんと柊天音(ひいらぎあまね)ちゃんも座っていた。
ただし私は放心状態である。そして頭の中では先程までのことを思い出していた。先輩との着替えをしていたはずだが、全く現実感がない。しかもなぜか最後の方は記憶が曖昧であり、気がついたら席に座っていた。
「完全に目が座っているし。天音、なぜだと思う?」
「そうねぇ〜。悪いものでも拾い食いしたのかしらねぇ〜?」
「確かに、食欲旺盛なこいつならやりかねないよなぁ」
なにかひどいことを言われている気がするけど、なにも考えられない。あぁ水瀬先輩。
「でもこの調子じゃうざいからからなぁ、しょうがない。ほれ、しっかりしろ咲。いつも先輩の隠し撮りを眺めてにやけている気持ち悪い咲はどこ行った? なんかあったのか!?」
麻也香ちゃんが私の肩を大きく揺らして必死に私に語り掛けてくる。何があったかと。
「ふへへ。私、水瀬先輩をメイドとして雇ったの。それで、お着替えさせてもらったの。体触られちゃった」
そしてぼぉとしながら麻也香ちゃんに聞かれたことをありのままを話した。するとどうだろうか。二人は急に暗い顔をしてそしてひどい汗を流し始めた。
「や、やばいよ、天音。とうとう虚言癖に目覚めちゃったよ、こいつ……」
「こ、ここまでひどいなんてぇ。せ、先生呼ばないとねぇ……」
いつものんびり口調の天音ちゃんもちょっと焦っている。
一体なんでだろうかと思ったけど、まぁどうでもいいか。あぁ水瀬先輩。
その後、私は保健室に連行されて早退させられた。
ちなみに私は夕方くらいまでこんな感じでした。
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