第40話

「じゃあ発表する…この面子で俺達は、TOYに会いに行ってくる!」


…?


会場がざわめいた、まだ皆意味を理解していなかった。


「植松先生、お願いします。」


そう言われると、ステージに明らかに場違いなスーツに身を纏った男が現れた。


「只今ご紹介を受けました、弁護士の植松と申します。この度は…ええ…ぱ…PAPA-RAT氏の依頼を受けまして、ここに参上させて頂いた訳でありますが、私共は、刑務所の受刑者の更正に少しでも役立っていこうと、慰問活動を積極的に行っておりまして、この度PAPA-RAT氏に湘南少年刑務所への慰問をお願いさせて頂きました。」


その瞬間、会場中が一斉に沸いた。初めて体験する異空間に戸惑いながらも、植松弁護士は心なしか顔を上気させて話しを続けた。


「本来ならば慰問の事を口外する事もいけないのですが、出演者の皆様が了承という事で特例として発表します。当日は私が責任を持たせて頂きますので、どうか宜しくお願い致します。」


その時、PAPA-RATが植松弁護士に笑いながら耳打ちをした。弁護士は一瞬戸惑いながらもRATにうなずき、また話しを始めた。


「えぇ、…私も弁護士生活を40年行っておりますが、この様な方々を慰問に連れて行くのは初めてでして、正直怖さもありますが…やはりそこは…要するに…」


RATはずっと含み笑いを顔に浮かべ弁護士を見ている。お客は皆何を言うのだろうという顔で弁護士を見ている。


「要するに…こういう事なんです…自分もREGGAEが好きなんですよ…」


そう言った瞬間にRATがレコードの針を落とした。





流れたのはボブ・マーリィのONE LOVE。


会場は大変な騒ぎになった。ステージに立たされたアーティストもお客さんも、楽屋から飛び出してきたSOUND MANが皆総出でガンフィンガーを挙げた。

PAPA-RATが真顔に戻り植松弁護士に深々と頭を下げると、植松弁護士は笑いながら皆の真似をして頭上にガンフィンガーを挙げて見せた。


法律を裁く人間がこの音楽を通じて、法律を犯した者の為に動いた瞬間だった。


PAPA-RATは再び涙を流した。


地元の同級生達が次々と結婚し、安定した生活を手に入れる中、このREGGAEという音楽と出会い、この音楽を愛し、どんなに辛い事があっても続けてきた事は間違いではなかったんだと再認識した。



この晩は本当に最高の夜になった。

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