第31話

工場では滝川さんと呼ぶ約束だったが、そんな事は忘れていた。


「てめぇ稲本!俺はてめぇがそこまでBAD MIND持ってる奴だとは思わなかったぞ!…その時点でもう勝負は決まってんだよ!」


『馬鹿!んな事したらお前が懲罰に…』


その時、担当の親父がそれに気付いた。

「てめぇら何やってんだぁ!」


同時に警報のボタンを押して、工場に非常ベルが鳴り響いた。


「TOYさん…自分はいいっすよ。どうせ娑婆で待つ人間はいないっすから…TOYさんは…娑婆で待ってる人が沢山います!…」


『関係ねぇだろ!2人で1日も早く娑婆出てがっちりREGGAEやろうって約束したじゃねぇか!』


「…TOYさん、本当に頑張って下さい!…絶対に…DUB録って下さいね…」


『当たり前だろ!俺らはもう仲間だ!…家族だよ!だからマジ止めろって!てめぇが工場からいなくなったらつまんねぇよ…』



その時、工場の扉が開き、20人近くの警備隊がなだれ込んで来た。稲本とBE-CORE、そして俺の三人は取り調べ室へと連れていかれた。



処遇担当の親父に俺はありのままの事を話した。


「じゃあお前は殴ってもないし殴られてもないんだな。」


『だからそう言ってるじゃないですか!んでBE-CORE…滝川さんは工場長として自分が殴られそうなのを止めてくれただけで何も悪くないんです!だから…』


「分かった。外で待ってろ」


俺は取り調べ室の前にある、面会の時に入ったビックリ箱に入れられた。


しばらくするとビックリ箱のドアが開き親父に言われた。


「工場へ戻るぞ!」

『滝川さんは…』


「稲本と滝川は取り調べ房行きだ。」



…その時、取り調べ房に連れていかれるBE-COREが俺の方を振り向いた。BE-COREは悲壮な顔をしていたが、俺に気付くと無理やり笑顔を作った。そして親父に気付かれない様に口パクでこう言ったんだ。






「四工を頼みます」






俺は取り調べから工場へ向かう途中ずっと上を向いて歩いた。涙がこぼれない様に…



工場へ戻ると担当の親父に呼ばれ、俺は再び事の一部始終を話した。



『…先生、お願いですから滝川さんを工場へ戻して下さい!』


「一応話しはしてみるが、多分無理だろうな…諦めろ…」


『でも…』


「それを承知で滝川もやった事だろう…上の2人がいなくなってこれから工場はまた乱れるだろう。それを考えろ…お前は明日から衛生係だ」

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