第27話
「TOY、稲本はな、大阪のHIP-HOPのMCバトルで優勝経験があるらしいんだよな。去年、年に二回のカラオケ大会で二回とも優勝してるんだ。これはこの刑務所内の歴史で初めてらしい。」
部屋の皆は真剣な顔をしていた。そう、端から見たらたかがカラオケ大会なのだが、刑務所というのはこの些細なイベントが重大な事なのである。
「今日稲本さんの部屋の長瀬がTOYさんの事色々聞いて来ましたよ!だから言ってやりましたよ!娑婆じゃ若手No.1のREGGAEの歌い手だって…」
「てめぇ!何勝手な事言ってんだよ!TOYさんに許可取ったのか…」
『いや、いいよ。別に言っても。望む所だわ…』
皆驚いていた。俺は笑っていたんだ。刺激の無いクソみたいな生活の中でやっと見つけた目標。しかもこれが音楽って来たもんだ。何を怯える事があろうか。
翌日、工場へ行き運動の時間にランニングをしていると、稲本さんが俺の横へ来た。
「おぅサラ、滝川に…滝川さんに気に入られて随分目立っちゃってんなおい?よほどケツの穴の締まりがいいのか?はは…」
気が付けば俺は稲本の部屋の奴に囲まれていた。
「お前稲本さんに勝てると思ってんのかよ?ヤバいなぁおい?」
…俺は稲本以外のこんなおかまみてぇなバッシングをシカトして言った。
『さすが、凄い自信ですね稲本さん。だったら負けた方が工場出てくって掛けをしないですか?』
勝手に口から出た言葉だった。下の人間がこんな事を言うのは本来絶対に許されない事だ。
「てめぇサラ…」
「いいぜ…面白れぇ、てめぇ吐いた唾飲むなよ!」
「こらそこっ!何話してんだ!」
親父の一声で皆散らばって話しは終わった。
工場へ戻り、俺は事の一部始終をBE-COREに話した。
「そうすか…じゃあTOYさん、恋愛や友達の歌にしましょう!審査員は更正委員会から来るおめでたいおっさん連中なんでその方が絶対にウケます!…そうだ!クリスマスが近いんでクリスマスソングが良いですよ!」
クリスマス…封印していたメグとの思い出が蘇る。
俺がパクられなかったらクリスマスにジャマイカに行こうって約束をしていた。その為に今年の元旦からどんなに金欠でも1日500円ずつ貯金をしていたのだ。
『悪ぃ、俺恋愛とかクリスマスとか…そんなんはキツいわ…』
その時、担当の親父が俺を呼んだ。
「1229番、面会。内妻だ。」
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