君は気付かない
セナ
第1話 「聞いてる?」
初めて、のことだったと思う。
ていうか、あいつに会ってから、あたしは初めてばっかりだ。
ほら、あの高校進学して、初めてのホームルームのときから、ずっと……
「
あたしの名前を呼びながらこまがこっちに向かって走ってくる。
今日は合格発表の日。そして、こま曰く、2人揃って合格したみたい。
「わ、良かった。あたし、落ちてるかもしんないって心配だったんだ」
あたしは本当にほっとして、溜息まで吐いていた。
そんなあたしを見て、こまはただ笑うばかりだった。
「何言ってるの。私と
そうなの。
こまは、あたしの為に彼氏と一緒に相談してあたしの学力と、将来の進学とか就職にも強い学校を選んだんだ。あたしは、取り敢えずバスケ部があればどこでも良かった感じ。
でも、ずっとバスケばっかりしていくわけにも行かないって言ったら、こまは迷わずにここにしろって言ってきた。
何でも、この学校はあまり部活動には力を入れていないらしい。
だからと言ってレベルが低いわけでもないみたいで、県大会の上位常連校だった。
うん、何と言いますか。ここまでしてくれる友達に感謝するしかない。
あ、因みに俊之はこまの彼氏ね。こっれがまたバカップルで。ま、あたしには縁のない話だけどね。あっはははは。
「同じクラスになれるといいね」
こうやって、あたしを和ませてくれるのがこまのいいところかな。何となく、こんな関係が当たり前になってる感じ。
昨日、入学式が終わった。
次の日はオリエンテーションと最初のホームルーム。ま、どこも同じもんか。
あ、そうそう。あたしは無事こまと同じクラスになれたんだけど、俊之こと
それよりも。
あたしの隣に座る男の所為であたしの、いや、こまと一緒の楽しい高校生活が、いきなり不安なことになろうとしてる。
だけど、きっと、奴自身に落ち度はないんだ。ただ、生まれ持ったその顔の所為で、その隣になってしまった所為で、あたしはクラスの大半の女子から羨望と憎しみの視線で睨まれている。
あたしはできるならこいつの隣にいたくはない感じ。だって、こんな女遊びしそうな奴の隣なんて。ほっといたって綺麗な子が寄ってくるんだし、席替えになったらさっさとどっか行ってくれたらいいのに。
あ、
「じゃ、席替えするぞ。出席番号順のままじゃ芸がないだろ」
先生、話がわかるねぇ。てことは、やっぱりくじとかは準備してるんだろうな。
と、思ったら先生は一枚の紙を取り出した。下のほうが折ってあって、線が沢山。もしかしなくても、あれは
まぁ、こいつの隣から別れられるんならどこだって歓迎。できればこまの隣がいいけど。
「じゃ、全員順に回していけ。ついでに、好きなとこに一本線を足してもいいぞ」
ありゃ。そんなこと言われるとついやりたくなってしまうではないですか。ま、言われなくてもするけども。
で、あたしの苗字は
あ、来た来た。
にひひ。どうしてやろうかな。取り敢えず、あたしはここで。線はここ。
「内海、なんかむっちゃ楽しそう」
ん? 誰か何か言ったかな。ま、いいか。次の人に回さなきゃ。こまが隣でなくても近くに来てくれたらいいのにな。
ていうか、さっき話しかけてきたのは誰だろ? 視線がさっきよりも厳しくなってるんだけど。皆ここ狙い? そんなのいくらでも譲ってあげるって。
そんな感じで、全員が線を書き足した阿弥陀はとんでもないことになってたけど、先生はその場で楽しそうに阿弥陀を辿り始めた。阿弥陀がすきなのかな。
よし、今日から君は阿弥陀先生だ。いい渾名かもしれない。
あとでこまにも確認してみよ。
「内海?」
ん? また誰か何か言った?ま、いいか。今、ホームルームだし。
「聞いてる?」
ふ、と。あたしの目の前に顔があった。
「うわぁああああああああっ」
よく、可愛く悲鳴を上げる子とかいる。でも、あんなの狙わなきゃ出るわけもない。で、あたしも例に漏れずあんな悲鳴。ていうか、顔近い近いっ!
「うーつみー。俺の話聞いてる? さっきからずっと話しかけてんだけど」
「は?」
隣のチャラ男くん。名前は確か、
「内海、何で無視するわけ?」
「いや、ホームルーム中でしょ?」
そもそも用がないし。
「先生は暫く雑談でもしてろって言ってたけど」
「あたしが話すことないから」
チャラ男に用はないのよ。ていうか、邪魔。どうせあたしの席の近くには来ないんだから。
「ふぅん」
チャラ男はあっさりと引き下がったように見えた。
あたしは、この時、こいつが引き下がったと思い込んだことを後で後悔することになる。だって、コイツは。
「よし、今から番号を発表する。それがお前らの席を決める順番だ」
何と。
あれは席を決める籤じゃなくて、選ぶ順番を決める籤だった。そんな手の込んだ真似しなくてもいいじゃない。
「最初だからな。談合はなしだ」
あら。しっかりと考えてらっしゃるけど、最初だからってことは、次からはありってことかな。
「内海、1番」
しかも、あたしが最初だった。
ここは、少しでもチャラ男が近くに来る確率を減らすか。そうするとこまが近くに来る可能性も減っちゃうけど、背に腹は変えられない。
「じゃ、窓際の一番後ろで」
これなら後ろと左には誰もいない。つまり、選択肢は3つ。さぁ、皆で早く埋めてね。
暫くして、他の女子が入れ始めるけど、あたしの隣とかには誰も来なかった。で、こまは無事にあたしの前を選んだ。どうしてって、後から聞いたら、隣にいるとあたしが授業に集中しないからだって言われた。納得。
「次、佐間」
遂に来た。しかも、あたしの隣は未だに空席だ。
「えーと、内海の隣の席で」
「ふざけんな」
あたしはすぐに言った。
「いや、お前が口出すなよ。しかも今回談合なしだろ」
見てて思った。確かに、気持ちはわからないでもない。入学式の日に女子に囲まれて面倒そうな顔をしてた男だ。あからさまにこいつを迎え入れるために用意された席には行きたくないんだろう。
でも、だからってどうしてあたしの隣に来る。
他にも、男だらけの席とかだってある。まぁ、この辺も男ばっかりで逆ハーレム状態なんだけどね。
「ん。佐間が内海の隣だな」
決定してしまった。こまぁ…どうして隣じゃないのよ。
不満をぶちまけたくもなるけど、これは流石にどうにもならない。談合禁止がきつい。
「じゃ、よろしくな」
よろしくされたくないわよ。と、口に出すことも出来ない。だって、クラスの女子の大半がコイツの隣を狙っていたんだから。いきなりクラス全員敵にしました、なんて冗談にもなりはしない。
うぅ。これから暫くコイツの隣にいなきゃいけないわけ?
大体、どうして態々あたしの隣選ぶのよ。神経疑うわよ。どうせならもっと可愛い子の席とかあるじゃない。あたしの隣である必要もない。あいつの隣も男だし。
男がいいなら男のところに行きなさいよ。中途半端なことしないでよ。
「…… ヨロシク」
「うわ。全然感情篭ってない。てか棒読み酷くないデスカ?」
そっちこそ。何で最後が片言なのよ。わけわかんないわよ。
こうして、あたしの地獄の1学期が始まってしまった。
少なくとも。このときのあたしはそう思っていた。後で、そう思っていたことを少し後悔することになる。
以下後書き
ゲームに負けたら~、雪と花火高校生などとリンクした作品です。
今後、上記の作品の人物が作中に出てくることがありますので、よろしければそちらもお読みください。
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