第15話 Healing(ヒーリング)

エディは、そのカフェの傍らに車を止めた。僕と山田、エディが車の中で待っていた。間もなくするとバリアンらしき男性と日本人っぽい女性がカフェへ入っていった。僕と山田とエディは車から降りた。バリアンと女性の元へ近づき、声をかけた。


エディ「今日、ヒーリングの予約を入れている酒井です。待ち合わせ場所は、このカフェでいいですか。」


バリアン「今日の予約の酒井さんですね。はい、このカフェが待ち合わせ場所です。こちらの席でお持ちください。」


僕と山田とエディは、丸太を切った椅子に座り、店内を眺めていた。店内にあるインテリアは、仏陀のお目面やバリ島の木彫り彫刻、ほのかにお香が香る店内であった。店内といっても日本でいうようなおしゃれなカフェではなく、バリ島の一般的ない終われるカフェのような作りであった。男性の店員が、僕たち三人へお茶を出してくれた。窓などがないため外気がそのまま入ってくる。よく言えばオープンカフェのような造りである。


エディ「酒井さん、待ち合わせの場所はこのカフェでいいみたいです。準備をするので少々お待ちくださいと言っていました。」


僕「そうですか。なんだかドキドキしちゃいますね。あの男性がバリアンですか。」


エディ「そうみたいです。なにか雰囲気がありますね。」


山田「先ほどのあの男性が、バリアンって言われる人ですか。なんだか、俺までドキドキしちゃっていますよ。俺がヒーリングしてもらうんじゃないんですけど、なんだ、緊張していますね。」


僕「そうだよね。なんだか緊張してきちゃいました。」


僕と山田とエディは、オープンカフェのテラス席へ座った。店内のオブジェには、スピルチュアルなものが多く飾ってあった。改めて伝えると、例えばブッダの絵が飾ってあったり、テーブルの台の彫刻もバリ島っぽい感じのものである。曼荼羅も飾ってあった。その曼荼羅はバリヒンドゥー教となにか関係があるのだろうか。いったい全体このカフェは何が基軸なんだろうかという感じだ。空気感は、他のカフェとは特に変わらない。今はバリ島の朝の日差しがサンサンに降り注いでくる。この日差しもなんだか僕の身体を浄化してくれている感じがする。


バリアン「お待たせいたしました。酒井様はあなたでいいですか。」


と、僕はバリアンへ何も言っていないが、僕が今回の予約を入れているのが、わかっているかのように僕を呼び寄せるように手招きをされた。


僕「はい、僕が今回予約を入れている酒井です。よろしくお願いします。」


山田「どうして酒井さんが分かったんでしょうね。なんだかもう既に神秘的なにおいがクンクンしちゃいますね。」


僕「本当だね。さすがバリアンって感じだよね。楽しみです。スピリチュアルな雰囲気が出ているよね。」


バリアン「酒井さんと連れの方も一緒にヒーリング室へ向かわれますか。」


山田「はい、おねがいします。」


僕「山田君も貴重な体験ができそうですね。」


山田「酒井さんと一緒なら、いろいろな体験ができて本当にうれしいです。」


と、僕と山田はバリアンに案内されながら、ヒーリング室へと向かった。オープンカフェのテラス席から室内へ向かった。エディはカフェで待つこととなった。


僕と山田は、バリアンの後ろに付き、中庭のような細い道を通っていった。すると、離れのような部屋が見えてきた。その中庭は、先ほどのカフェのあった同じ場所なのだが、空気は全く違っていた。まるで別世界へ迷い込んだような感覚になった。


山田「なんだかわくわくしてきますよ。酒井さん。あの部屋でヒーリングをするんでしょうかね。」


僕「きっとそうでしょうね。なんだかスピリチュアルな雰囲気が、ヒシヒシを伝わってきますよね。」


僕と山田は、バリアンへ導かれるようにヒーリング室へと向かった。ヒーリング室への小道は、ブーゲンビリア、ハイビスカスなどの日本でいう観葉植物に覆われ、苔むした下草の間にある飛び石の上を僕と山田は歩いて行く。そこは、周囲は建物に囲われた中庭のようなところだったため、風がなくサンダルウッドのお香のかおりが、あたり一面にほのかに漂っている。この香りはヒーリング室から漂ってくるようだ。空気が籠っている印象は全くなかった。


逆に、その空間だけが一種独特な空気感に包まれている。手入れがいき届いており、苔で覆われて、地面の土はほとんど見えなかった。僕と山田は、お香でさらに気分は、神秘的な雰囲気へ導かれることになった。ふと気が付くと僕の頭のあたりを、水色のアゲハチョウぐらいの大きさの蝶が一匹舞っていた。その蝶を見ていると、なんだか気分が心持落ち着いてきたように、僕は感じた。


山田「酒井さん、香ってくるお香のにおいがさらにスピリチュアルな雰囲気を醸し出していますね。俺、なんだか緊張してきちゃいました。」


僕「そうだよね。お香の香りって現世から違う世界へ導く役目もあるみたいだよ。ヒーリングの際には、よく使われるって言われているよ。先ほど、僕の頭のあたりを飛んでいた水色のアゲハ蝶も、なんだか不思議な感じでしたよね。虫は霊界からの使者の役割もあるといわれたりしますからね。」


山田「アゲハ蝶ですか。どこにいたんですか。俺は、あ全く気が付きませんでしたよ。そうなんですか。俺には、酒井さんが見えていた水色のアゲハ蝶が視界に入ってきていませんでしたよ。水色の蝶がいましたっけ?」


山田には、僕の頭の周りを飛んでいた水色のアゲハ蝶は見えていなかったようだ。その蝶の色は水色でも海の深い場所の色でもあるブリリアントブルーの色に近かった。なんだか不思議な感じを受け取った。僕は初めて見た色のアゲハ蝶だった。


バリアン「酒井様、お連れの方、こちらのヒーリング室へどうぞ、お入りください。中にテーブルがあるので、その前に座っていただければと思います。」

と部屋の扉を開け、中へ誘導してくれた。


案内されたヒーリング室は、日本でいうところの茶室のような離れだった。僕と山田は誘われるまま中に入った。


僕「わかりました。こちらのお部屋なんですね。」


山田「はい。」


山田は、かなり緊張している様子だった。山田の返事も短かった。


僕と山田が通された部屋は、日本でいうところの10畳ぐらいの広さだった。床は板のフローリングになっていた。その床に少々厚みのなるイカットが敷いてあった。イカットの上には一本の大木から切り出された一枚板のテーブルがあった。さらに部屋には、オーラチャクラの説明文が書かれた布が曼荼羅のように掲げられていた。


扇風機で部屋にそっと風を入れていた。普通ならば蒸し暑さを感じるはずだが、その部屋の中は、暑さは感じない。部屋の中心に先ほど僕の目に留まった置かれている。しっかりとした一枚板のテーブルの前に、バリアンは胡坐をかいた。


テーブルにバリアンと向かいあわせに、僕と山田へ座るように案内された。


その案内に導かれるように僕と山田は、早速、テーブルの前に正座で座った。テーブルには冷やされたジャスミンティが用意されていた。


山田「なんだか緊張してきました。俺がヒーリングされるわけじゃないんですけど。この雰囲気にのまれそうですよ。」


僕「そうだよね。山田君の言う通り、何とも言えない神秘的な重厚感と、神秘的な空気があるよね。かといっておどろおどろしい感覚は全くないよね。」


バリアンは、インドネシア語で挨拶をしてくれた。インドネシア語から日本語へ通訳してくれる日本人女性も同席していた。


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