第6話 Inspiration(奮い立つ思い)

入口では、キャビンアテンダントが乗客を迎え入れていた。僕と山田の二人は、席を確認しコンパートメントに手荷物を入れ、席へ着いた。僕は窓際の席だったため、山田を窓際の席にし、僕はいつものように通路側に着席した。僕は通路側の席がトイレなどに立つ際にも気を使わなくてすむため、通路側を好んでセレクトする。僕も大学生の時には、窓際が良かった。機内から見える空の景色が好きだったからだ。


僕と山田の席は、A21とB21で隣の席にできた。今回は別々にエアーチケットを購入したが、チェックインカウンターのアテンダントの心遣いで隣同士の席となった。こういったおもてなしの気持ちというか気づかいには本当にうれしいものだ。旅行者を気持ちよくさせてくれる。


フライトスケジュールは、往路は成田国際空港よりデンパサール ヌングラライ国際空港まで直行便であった。搭乗する際にはキャビンアテンダントから、日本語で「ようこそ、ガルーダ・インドネシア航空へ」と挨拶があった。それと同時にインドネシア語で「スラッマ ダタン プサワット ガルーダ・インドネシア」と、インドネシア語の挨拶もあった。


いよいよ今から僕と山田のバリ島への旅行が始まる。フライトの時間は約7時間30分である。世界地図で言うと日本から下へ下がる感じである。直線距離で言うとおそらく日本から20センチメートルぐらいの距離になる。日本でも7時間ちょっとの時間ってあっという間に過ぎてしまう。特に仕事のタスクをこなしているとあっという間に時間が過ぎてしまう。そんな時間で常夏の島バリ島へ行けるとは、本当に不意義なことだ。文明の利器には感謝したい。


インドネシア語が僕の耳に入ってくると、いよいよ、バリ島への旅立ちなんだと実感できた。今回、ステイするホテルは、行きつけのホテルで何度かバリ島へ渡航した時には、ステイしたアグン・コテージというホテルである。このホテルは、日本人の滞在者はほとんどいない。僕が大学時代に以前、ステイした時に同じ同郷の同世代に出会った。日本へ帰国してからも何度か、都内で食事をしたことがあった。久しぶりにこちらのホテルへ滞在することになって、現地スタッフにも会えるのも楽しみであった。


以前、働いていたスタッフはまだ勤務しているんだろうかと少々疑問ではある。とりあえず、懐かしいホテルにステイできることが何よりもうれしい限りだった。一様、ステイルームをスィートコテージタイプにしているので、プールの目の前のルームだと思うが。実際に行ってみなければわからないところも、インドネシアっぽくて、僕はその感覚が好きだ。


山田「酒井さん、今回のステイのホテルって俺もステイできますか?」


僕「昨晩、山田君からのメールを確認し、すぐにホテルにメールで人数追加しておいたから、心配しなくていいですよ。スィートルームにしているので、ステイの居心地はいいと思います。料金も一部屋一泊6000円程度ですから。」


山田「安心しました。俺まだ学生だし、そんなに収入がないから。」


僕「僕もびっくりするようなそんな贅沢なホテルにはステイしませんよ。分相応というのがありますからね。今回ステイするホテルは、繁華街のメジャー通りのレギャン通りに面しており、すごく便利なんです。そうかといって町の喧騒が気になることもなく、一歩ホテルの敷地内に入ると、南国の鳥の何声がして、すごくリラックスできます。まったく、町の喧騒が気にならないんですよね。不思議なぐらいです。」


山田「ホテルは、どんな感じのところなんですか。コテージタイプなら昔ながらのインドネシアの建築って感じでなんでしょうね。」


僕「そうですね。日本人の滞在者はまずいないですね。オーストラリア人やインドネシア人の旅行者ばかりですね。朝食はシンプルなコンチネンタルスタイルです。キッチンはスタッフへ言えば、使わせてくれますからね。ホテルのスタッフがすごくフレンドリーなんですよ。」


山田「そうなんですね。まじ、俺、テンション上がってきますよ。」


僕「それにホテル専属のバリニーズマッサージのおばちゃんスタッフがいて、2時間で1000円ぐらいなんですよ。プールサイドでバリニーズオイルマッサージをしてくれるんですよ。マッサージの腕もなかなかですよ。」


山田「そうなんですね。楽しみです。海外のマッサージって、スパとかにいくと値段はそれなりにしますけど、地元の方のマッサージですと割安ですよね。シェムリアップのマッサージもすごく疲れをとってくれましたね。」


僕「そうですよね。」


などと、僕は山田へ今回のステイのホテルについて説明していた。


僕「以前、ステイした時には、ウェディング会社の社長の常宿にもなっていて、その方はすごく気さくな方で、若かった僕にビジネスチャンスをいろいろと与えてくださいましたよ。」


山田「そうなんですね。酒井さん、人の出会いって、本当に不思議なのと、どこであるかわかりませんよね。」


僕「そうなんですよね。本当に不思議ですよね。これが縁ってことなんでしょうね。というかバリ島が神様の棲み島といわれているので、神様へ呼ばれているんでしょうかね。今日もこうやって、山田君とバリ島へ行くことになっていますしね。後で面白い話をしますよ。この話はさすがの僕もびっくりしちゃいましたよ。」


山田「それ、どんな話なんですか。超楽しみなんですけど。」


僕「そうそう今回のステイ先のホテルであるアグン・コテージに出会ったのも僕がエアーチケットだけでバリ島へ到着し、空港で、ホテルを探していた時に、たまたまホテルのスタッフが、僕に声をかけてきたのが始まりですからね。そのままスタッフの車に乗車し、ホテルへ向かって感じですね。今考えるとちょっと怖いですけどね。僕もそのころはまだ若かったんで、怖さよりもワクワク感のが勝っていたんでしょうね。」


山田「そうなんですね。ホント、そういった偶然の出会いって縁を感じ取れますよね。俺だったら、小心者なのでついていかないとかもですね。酒井さんのそういった人を見抜く力というか感がすごいですよね。マジで。」


僕「今考えるとその声をかけてくれたホテルのスタッフとも、数分のずれがあれば出会っていなかったわけですからね。今回のホテルの存在も知りえなかったかもですね。」


山田とそんな会話を席で話していると機内では、ディパーチャーのアナウンスが流れ始めた。


山田「いよいよ、離陸ですね。俺、この瞬間がなんともいえないですよね。」


僕「そうですね。いよいよですね。早くバリ島へ到着して、バリ島のあのまったりとした時間の流れを体感したいです。町中のあちらこちらから聞こえてくるガムランの音魂が僕を癒してくれるんですよ。あのまったりとしたゆるーい感じがいいですからね。本来の人の体内リズムを取り戻すことができますからね。」


僕と山田は、それぞれにバリ島への思いを心に浮かべながら、ディパーチャーの時間をまった。成田国際空港の天気は、上々で風もなく穏やかだった。機体が離陸体制に入っていった。Gがかかってくる。あっという間に、機体が地上から遠ざかり雲の上へと上がっていった。


僕と山田は、席のモニターで映画を検索し始めた。僕は、以前見逃していたアニメの映画をチョイスした。山田も同じものを見ているようだった。こういったチョイスでも感性が一緒であれば、セレクトするものも同じなんだなって、僕は一人感心していた。


僕は、映画を見ながら、ウトウトと睡魔に襲われてきた。気が付くと、夢の世界というか別世界に自分自身がいることに気が付いた。そこには、今回の旅の目的でもあった友人のマルチンがでてきた。マルチンは、僕にバリ島まで来てくれることになり「ありがとう」とメッセージを送ってきた。僕は「メッセージありがとう」と彼に伝えた。


僕の隣の席に座っていた山田が話しかけてきた。


山田「酒井さん。機内食の時間になりましたよ。」


山田から話しかけられて僕は目が覚めた。僕は、一時間弱ぐらい眠っていたようだった。


僕「一瞬の時間に感じたんだけどね。もうそんな時間ですか。機内食なんですね。」


山田「酒井さん、お疲れなんですか。離陸してすぐにねむっちゃったみたいでしたよ。」


実際のところ、仕事が昨晩遅くまであったので、そのまま睡魔に襲われたみたいだった。この眠りは、マルチンのいたずらによるものか、それとも純粋に疲れからくるものかは不明であった。


機内食が配膳され、僕たちのシートへもスチュワーデスから「インドネシアンスタイルかジャパニーズスタイルか」の確認があった。僕はいつものようにジャパニーズスタイルを選択した。山田も同様だった。


ジャパニーズスタイルの機内食には、デザートに人形焼が付いてきた。わんこそばのような量の傍もついている。そばつゆも日本人にあった味付けになっている。メインディッシュは早良か何かの焼き魚のムニエルになっている。僕が初めてインドネシアへ行った頃は、ライスはタイ米だった。今は日本米を利用しているようだった。


僕と山田は、早速、機内食に手を付け食べ始めた。以前は、チキンかフィッシュの確認だったが、ここのところは違ってきている。これもまた航空会社からのおもてなしなのだろう。


山田「そういえば、先ほど酒井さんが眠っていらっしゃったときに、すごく懐かしそうな表情をしていらっしゃいましたよ。」


僕「マジですか。というより、山田君、僕の寝顔をみちゃったんですね。恥ずかしいですけど。」


山田「超かわいい寝顔でしたよ。」


僕「マジですか。なんだかこっぱずかしいですね。それはそうと山田君はバリ島で是非行きたい場所って、どこかありますか。」


山田「そうですね。酒井さんのお供で大丈夫です。酒井さんについて行けば、間違いないって感じですからね。」


僕「そうですか。じゃぁ、アグン山のブサキ寺院と天空の寺院、ランプヤン寺院、あとはバリアンからおすすめがあったら、そこにしますけど、それでいいですか。ちなみにアグン山は休火山なんだけど、バリヒンドウ教のメッカともいわれています。霊験あらたかな場所なんですよね。ちなみに今回はバリアンに占ってもらうんですよね。予約もタイミングよくとれたんですよ。」


山田「そうなんですね。そのタイミングの良さもさすが運の強い酒井さんですね。持ってますね。もちろんブサキ寺院とランプヤン寺院でいいですね。とうかぜひそちらへ行ってみたいです。そういえば、バリ島のクタビーチの夕日が感動ものだって、以前、酒井さんがおっしゃっていたので、夕日は、俺、必ず見たいです。酒井さんと一緒に。」


僕「クタビーチの夕日は、本当に美しいですよ。僕も初めて見たとき、何かわからないけど自然と涙が出ちゃいました。自然の美しさに感動してね。日本の日常の喧騒の中にいると夕日なんて見ないですからね。自然の偉大さというか美しさに感動しちゃったみたいですね。」


山田「俺も酒井さんと一緒に、その自然の雄大さの感動を体感してみたいです。」


僕「実は、今回のバリ島の渡航は、僕自身のエナジーチャージだけではなく、もう一つの意味合いもあるんですよ。」


山田「もう一つの意味合い?ってなんなんですか。なんだか意味深ですね。俺、超絶興味がありますよ。教えてくださいよ。」


僕「それは、僕のインドネシア人の友人の供養を兼ねてなんですよ。」


山田「そうですか。友人がお亡くなりになられているですね。それは、お悔やみ申し上げます。」


僕「なんだか。今回も何かが起こりそうな感じですね。奇跡というか運命の不思議さを感じるような気がします。」


山田「バリ島自体が、神様の棲む島ですからね。何かに呼ばれている感じがしますね。それに搭乗する前に面白い話があるって言われていましたけど、その話も聞きたいです。」


僕「そうですか。それは今回山田君が一緒に来れるようになったことを、予知した人がいたんだよね。山田君から連絡が来る10日ぐらい前に、友人の女友達と食事していた時のことなんだよね。」


山田「なんなんですか。興味あります。俺が関わっているんですか。」


僕「山田君が直接って言うことではないけど、その友達は予知能力というか霊感がすごく強い人なんだよね。その子から、今回山田君も一緒に必ずバリ島へ行くことになると予知されたんだよね。」


山田「マジですか。」


僕「それで本当に山田君とバリ島へ行くことになって、僕がびっくりしていますよ。」


僕と山田の機内食タイムも終了し、インドネシアの入国書類が配られ始めた。僕と山田もそれぞれ書類を受け取り、必要事項を記載し始めた。


そういえば、山田と初めて知り合った時も、入国書類記載の時がきっかけで会話をし始めたんだと思い出した。あれから3年が経って、今では二人は、年齢差は関係なく旅友のような関係になっている。人の出合いは、本当に不思議なものである。人の出会いはその瞬間、瞬間が大切なんだと実感させられる。


入国書類へ記載が終わり、僕と山田は、またDVDへ見入って機体の着陸を待っていた。

間もなくすると、アライバルのアナウンスが機内に流れてきた。僕はバリ島への到着をいまかいまかと待ち遠しくなっている。僕だけではなく、このフライトの同乗している全員が同じ気持ちなんだと思う。


着陸態勢にはいり、Gが僕の体にかかり始めてきた。いよいよ今回のバリ島紀行がはじまる。

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