第2話  Prediction(予知)

インドネシア人の寿命は、日本人のそれに比べるとかなり短い。今回もマルチンには会えないのかという寂しい気持ちがあった。以前あったインド洋津波いわゆるスマトラ島沖の地震である。その地震でもしやと思ったりもしたことがあった。ただ実際のところは不明だ。


人の出会いは、一期一会の縁というのがあると、その通りだと感じた。次回という約束は必ずしもないと実感している。


実は、今回バリ島へ行く前に、知り合いの霊能力のある女友達の吉野とたまたま新宿のタイ料理の店で食事をする機会があった。僕は彼女へ今回またバリ島へ渡航することを話した。それも最初は彼女へ話すつもりなどなかったが、話の流れで今回のバリ島渡航の件を伝えた。


吉野「酒井さんって、本当にバリ島が好きだよね。」


僕「なんだかバリ島へ行くと心身ともに落ち着くんだよね。」


吉野「そうなんだ。それはそうと、今回酒井さんから、またバリ島へ行くって言われる前日の夜に、わたし、夢をみたんだよね。つまり昨日の晩だけどね。」


僕「どんな内容だった?」


吉野「それがさぁ。酒井さん、バリ島に外国人の友達いたでしょう。その人が酒井さんに会いたいって、私にインスピレーションをおくってくるのよ。」


僕「そうなんだ。」


吉野「友人って、男性だよね。」


僕「そうだよ。インドネシア人の友人なんだよ。」


吉野「その男性が、酒井さんに会いたいって何度も言ってくるんだよね。でもね。その人は、実はもうこの世にいないんだよね。」


僕「まじ?そうなんだ。僕の第六感はあたっていたが、改めて真実を突き出されると何とも言えない気持ちになった。


吉野「そうなの。実は、その人はスマトラ島出身だったでしょ。何年か前に、スマトラ島沖での大地震で津波があったじゃん。」


僕「あったね。もしかして、その時に?」


吉野「そうなのよ。夢の中で彼が私に伝えてくるの。その時に、たまたま出稼ぎのバリ島から実家に戻っていたみたいで、家族全員があの津波に呑み込まれちゃったんだって。その時に唯一、年がそう離れていない弟だけが助かっているみたいだけどね。」


僕は、思わず涙が出てきた。だから、ここ数年、バリ島へ行っても彼に会えなかったんだと、僕はこの時初めて理由が分かった。吉野は話を続けた。


吉野「彼が、酒井さんに会いたいって思いを私に伝えてくるんだよね。だから、今回バリ島へいくことになったのよ。バリ島好きの酒井さんが、なぜ今バリ島へ行くことになったのかってことも関係してくるんだよね。確かに日本にいると疲れて、どっかへ行きたいって思うけどね。それがなぜ今かってことよ。もしかして、彼と初めてであったのがこの時期なんじゃない?」


僕「そうだよね。そうそうその通り。今回の日程の機関だよ。いつものように日本に疲れちゃったから、バリ島へいきたくなったんじゃないんだ。」


吉野「そうなのよ。彼が酒井さんを呼んでるんだよね。バリ島へ。だから今回、絶対にバリ島へ行ってね。彼の思いを癒してあげるためにもね。彼の供養だね。」


僕「絶対行くよ。彼の供養とかは何かしなきゃいけない?」


吉野「特別何かをしないといけないってことはないわ。それに彼も、それは望んでいないわ。ただ、二人が知り合って、縁のあるバリ島へ来てほしいという思いだけよ。それに私から酒井さんへ、彼がもうこの世にいないことを伝えてほしいといっていたの。」


僕「そうなんだ。そういうことがあったんだね。今回の渡航は、感慨深いものになりそうだよね。」


吉野「絶対になるよ。今までと違ったバリ島の空気を感じると思うわよ。不思議な出会いもあると思うよ。」


僕「今回のバリ島への渡航は楽しみだけど、なんだか気持ちがひきしまるね。友達のマルチンも僕のことをおぼえていてくれたことがうれしいよ。涙がでてきそう。本当に次の約束をしたからと言って、約束が守れるとは確約されないんだね。」


吉野「ちょっと待ってね。他にメッセージあるか、今から霊視してみるから。」


僕は、吉野にそう言われ少々戸惑った。しばらく、吉野は目をつむり、意識を集中しているようだった。インスピレーションが彼女に伝わったと同時に、僕の意識にも熱帯の映像が映り込んできた。


吉野「実は、インドネシア人の彼と酒井さんはソウルメイトなんだよね。だから、知り合ってすぐに意気投合しちゃったんじゃない?酒井さんって自分から積極的に友達などを作る方ではないけど、その時は違っていたはずよ。」


僕「そうそう。僕も不思議だったんだよね。海外でそんなに知り合ってすぐに、こんなにも仲良くなれるって人は、なかなかないからね。」


吉野「そうでしょ。それが縁なのよ。ふたりには、ご縁があったってことね。」


僕「縁って不思議だよね。本当に。」


吉野「バリ島へ行ったとき、彼と初めて知り合ったというか、出会った場所へ、是非、行ってみて。彼はそれを望んでいるから。何があるってことはないけど。二人の出会いを忘れないでほしいといっているから。そこに行くことが、酒井さんからできる彼にとっての供養となるのよね。」


僕は、本当に涙が溢れそうになっていた。人の縁の貴さ、貴重さを改めて考えなおすと、本当に縁って、改めて大切に思えた。その時僕は山田との縁も大切にしたいと、ふと頭に浮かんだ。続けて吉野は僕に話し続けた。


吉野「それとね。酒井さん、2年ぐらい前に知り合った人いる?」


僕「いるよ。ハノイ行きのフライトの中で知り合った子が、いまでも付き合いが続いているよ。」


吉野「その子も、酒井さんと縁のある人なんだよね。その意味も今回のバリ島渡航でわかるはずよ。」


僕「まじで。なんだか、その子を見ているとソウルメイトって感じちゃうんだよね。彼も非常に僕に懐いてくれて、本当の家族みたいなんだよね。」


吉野「そうなのね。彼は、今回のバリ島へは一緒にいかないの?」


僕「今回は、お互いのスケジュールが合わなくてさ、一緒じゃないんだよね。」


吉野「そうなんだ。でも、その子はきっと一緒に酒井さんとバリ島へ行くことになると思うよ。」


僕「まじ。そんな兆候は、全くないけど。」


吉野「必ず一緒に行くことになるから。心配しなくて大丈夫よ。」


僕「そういうことってあるんだね。そうなったら、本当にびっくりだよね。」


吉野がそれはそうといいながら、さらに話を続けた。


吉野「今回のバリ島の前って、東南アジアへは彼といったでしょ。そこで知り合った人いる?」


僕「いる。いる。いる。あの出会いも本当に偶然だったんだよ。たまたま、入った飲食店で知り合ったんだよ。本当にそれもたまたまこの店でいいかって思ったぐらいで、立ち寄ったんだよね。」


吉野「そうなんだ。その人も酒井さんとハノイで出会った人のソウルメイトよ。実は、ハノイで知り合った子にとって、前回出会った人とは、前回の出会いにはハノイで知り合った子との出会いがあった縁があるんだよね。」


僕「そうなんだ?ということは、すべて繋がっているってこと?」


吉野「そうよ。すべて繋がっているのよ。それに、その二人ってなんだか雰囲気が似ていたでしょ。」


僕「似ていたよ。というか、他人の空似っていう空気感を二人が持っていたんだよね。」


吉野「前回はどこへ行ったの?」


僕「カンボジアのシェムリアップだよ。アンコール・ワット遺跡を見に行ったよ。」


吉野「そっか。私へ伝わってきているインスピレーションの景色ってカンボジアだったんだ。そういえば古い遺跡のような建物も画像で伝わってきていたんだよね。」


僕「そうなんだ。どうして?」


吉野「酒井さんとハノイのその子が、一緒にカンボジアへ行ったことも意味があるんだよね。」


僕「どんな意味?」


吉野「カンボジアへは導かれたって感じだと思うよ。」


僕「そうなんだ。アンコール・ワットへは以前から行きたかったんだけどね。なかなか行く機会がなかったんだよね。それがようやく行けたって感じだったよ。」


吉野「それには、今から私が話す理由があるし、今回のバリ島へ行くことにも繋がっていたのよ。」


僕「で、どんな風に繋がっている?」


吉野「時間は繋がっているっていうのはもちろんなんだけど、ハノイで知り合った子の前世が、カンボジアで知り合った子と現世でまた出会う運命になっていたんだよね。おそらく、その子がカンボジアへ着いて一番それを感じたと思ったはずよ。」


僕「そうだったんだ。それにはさすがの僕も気が付かなかった。前回のカンボジアと今回のバリ島ってどうつながってくる?」


吉野「私も、今、伝わってきたインスピレーションで初めて分かったのよ。カンボジアで知り合った子とハノイで知り合った子、それと酒井さんとのつながりがわかるタイミングって伝わってくるんだけどね。」


僕「さすが、吉野さんだよね。そのパワーすごいよね。」


吉野「そんなことないわよ。酒井さんより、少しだけパワーが強いってだけよ。かわらないはずよ。」


僕「僕にもそんなパワーがある?」


吉野「あるわよ。自分でもうすうす気が付いていたでしょ。」


僕「そうだね。確かにうすうすは気が付いていたけど、そんなにもって自分でそんなパワーを意識したことはなかったよね。」


吉野「まぁ、今回は、インドネシア人の友達の供養のためにも、バリ島へ必ず行ってあげてね。それと、必ず、ハノイで知り合った子もバリ島へ一緒にいくことになるはずだからね。その偶然には、酒井さんもかなりびっくりするはずよ。」


僕「でも、二人のスケジュールが合わなかったし、今回のバリ島渡航は、もうすぐなんだけどね。さすがにそれはないでしょう。今回に限っては。」


吉野「まぁ、たのしみにしているといいかもよ。土産話を楽しみに待っているわよ。そうそうそれに彼と一緒にバリ島へ行くことになるんだけど、バリ島へ一緒に来た意味もバリ島で必ずわかるはずよ。」


僕「了解。」


吉野「それとハノイで知り合った子も、実は酒井さんと一緒にバリ島へ行きたがっているはずだわよ。連絡してみたら。」


僕「そうなんだ。スケジュール合うのかな。本当に。」


吉野「今なら彼とのスケジュールが合うはずよ。」


僕「それじゃ、後で電話してみようっと。」


吉野「それがいいわ。絶対よ。彼と一緒にバリ島へ行くと、今までの出来事がすべて繋がって、彼との出合いの意味もお互いにわかるはずよ。」


僕「ラジャー」


といった出来事が、今回のバリ島渡航前にあった。そんな会話があったことを僕は、仕事に追われ忘れかけていた。山田への連絡をすっかりと忘れていた。

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