32bitの世界篇
フィールドアドベンチャーの章
第13話 青年はなぜか騎士様に目の敵にされる
島から移動した五階層の深いダンジョンを抜けると雪国だった。
いやいやそんなことはなく、そこは小高い丘の上に立つ神殿遺跡だった。
リアリティという点では違和感ありまくりだが、ゲーム的には何となく雰囲気があるなぁとか思ってしまうレイトであった。
「あれ?」
あまりにも唐突な変化で気づきが遅れたわけだが、視覚情報が更新されている。
30度上方からの
MMORPGではオーソドックスな
(あー……また自分が見える)
と、レイトが嘆くのも無理はない。
ドットの荒い2Dの四頭身キャラが、立ち止まっているだけなのに微妙に揺れている。
デザイン上クリスティーンとヴァネッサ、ライアンは区別がつくけれど、自分とクリスの区別がつかない。
(まあ、視界の中央にいるのが自分だろうなぁ)
と、相変わらずゲーム感覚なレイトである。
クリスがいう。
「ここはファンタジア王国の辺境にあるファジリアム神殿遺跡だ。すでに廃墟だが神の加護が残っていて周辺に強いモンスターはいないが、充分注意して丘を下ろう」
面白いことに声がクリスと思われる鎧のキャラクターの方向から聞こえてくる。
(ていうか、加護があるならダンジョン内にも効果発揮しろよな)
と、もっともな悪態をつくレイトであった。
(さて、どうやって操作すればいいんだ?)
なんて自分の身体なのにそんなことを思ってしまうあたり、レイトはいろいろこの世界に毒されているようだ。
ともかく、操作方法はとても簡単で、自分の体を普通に動かせば大体その通りに動いてくれる。
ただ、視覚情報的にはできることが限られているようで思った通りに身体が動いてくれない。
たとえば「歩く」「走る」といった動作は問題なくできるのだけれど、「しゃがむ」「伏せる」なんて動作はできない。
試しにラジオ体操第一をやってみたが、見えた感じ小刻みに震えるだけだった。
「何をやっているんだ?」
と、クリスがいうところをみるに他の人にはラジオ体操しているように見えるようだ。
「……なんだかなぁ」
本当、なんだかなぁ……である。
それはともかく、レイトが行動しないと他のメンバーが動かないようだったので、一通り行動を試したあとは神殿遺跡の建つ丘を下ることにした。
自分が行動選択しているのに先頭がクリスでレイト、ヴァネッサ、クリスティーン、ライアンと一列縦隊で歩くのが釈然としないレイトであった。
しばらく行くと、草原になっている丘の中腹でスライムがうねうねと三匹くらい現れた。
ヴィジュアルから弱い系のスライムのようだ。
すると、隊列を組んでいたパーティが散開してスライムを囲むように移動する。
まるでNPC仕草である。
とりあえず腰の剣を抜いて一番近くのスライムに斬りかかるレイト。
「待て、そんな不用意な……」
クリスが慌てた声で静止するので、レイトは間一髪(と言っていいのか?)攻撃を思いとどまる。
「何?」
「スライムは何でも溶かすモンスターだぞ、そんなことも知らないのか?」
「え? このヴィジュアルでそっち系?」
「そっち系というのがどっち系なのか知らないが、火以外の攻撃は効かないというのが常識だぞ」
と、丁寧に解説してくれたのはライアンだ。
「そうか、そりゃあヤバかったんだな、ありがとう」
言ってレイトはファイヤーボールで三匹のスライムを倒す。
たった三匹だというのにレベルが上がった感があったのは、例によって新しいモードになってステータスがリセットされたからなのか?
(だとしたら、レベル不足で武器や防具の一部が使えなくなるはずなのになぁ)
と、そんなことが気になる呑気なレイトに怒り心頭なのがクリスである。
「スライム程度のモンスター知識もない男に国宝級の武器を預けておくなんて危険すぎる。おい、お前! その剣は私が預かる。こちらへ渡してもらおう」
「は?」
なんて横暴だとレイトは反発するが、なぜかライアンが同調し、あれよあれよという間に身ぐるみ剥がされてしまう。
そんなこと言うならヴァネッサなんか武器も防具も魔力のエンチャントされたそれこそ国宝級じゃないかと抗弁したいところだったけれど、どさくさに紛れてヴァネッサからも取り上げられたら戦力ダウンどころじゃないのでじっと我慢の子であった。
てなことで、王国支給で冒険中に倒された騎士の残した騎士の鎧と騎士の盾、予備で持っていた鋭利な鉄の剣というちょっともやもやする装備になったレイトは、改めてパーティと共に丘をくだりはじめる。
丘の斜面は草原で、もっぱらスライムとコボルド、まれにコブリンが現れたが、パーティを組んだ冒険者が苦戦するような相手ではなかった。
スライムはファイヤーボールで簡単に倒せたし、コボルドは剣をひと振りすれば一撃で破裂する。
(破裂ってのがゲーム的だよな)
その感想はよく判るよ、レイト。
自分の意思で行動することができ、モンスターを攻撃すれば手応えがあり、ダメージを受ければ痛い。
触覚・痛覚は現実的なのに視覚だけが妙にコンピューターゲームなのでイマイチ現実感を得られないのだ。
だからついついダメージを顧みない無茶をしてしまう。
そんでもってなぜかクリスに
「無茶をしすぎだ! いくら魔法で回復してもらえるからと言って姫の手を煩わせるな」
と、怒られる。
どうでもいいことかもしれないが、回復は基本プリーストであるライアンがしてくれる。
(クリスティーンの手なんか煩わせてないんだけどな)
と、心の中で悪態をつくレイトであった。
ともあれ、丘をくだって森の中を頻繁に遭遇するウルフ、バット、コボルド、ゴブリンを倒しながら、道無き道をかき分けて(視覚的には移動できる場所を縫うように)進み続ける。
それぞれがアルゴリズムを持っているかのようなパターン攻撃をしてくるモンスターを作業のように倒していくと、どんどんレベルアップするようでメキメキと強くなる感覚を味わう。
(これって、俺だけが体感してんのかな?)
なんて疑問に思うのは当然なのか?
レイトはなかなか攻撃を当てられなかったバットを瞬殺して何度目かのレベルアップを自覚した後、みんなで息を整えている間にヴァネッサに疑問をぶつけてみることにした。
すると彼女は
「はぁ? 戦っている最中に突然はっきり判るくらい強くなった感覚? 何言ってんの?」
と言う反応だったので、これは自分だけの感覚らしいと知れた。
森の中で一泊して(これまたレイトには寝た瞬間に朝になった感覚だったわけだが)森を抜けると、荒涼とした平地に一本道の街道が現れる。
「この道はどこに続いているんだ?」
と、疑問を口にしたら、クリスがこれまたため息をつき、言い聞かせるようにこう言った。
「この道は王都までの道だ。建国当時、王都からファジリアム神殿までの街道として整備されたらしいが、度重なる魔王軍の侵略などですっかり荒廃してしまい、もはや街道跡としてかろうじて痕跡が残っているという状況だ。この先に『捨てられた町』と言われるサナリアムという町がある。その町までは神殿の加護がかろうじてある。そんなことも知らないのか? お前、どこから来た?」
ここで「日本」と答えたものかどうか一瞬考えたレイトは、念の為「ハジマリの島」と答える。
「何!?」
そこに食いついたのはライアンだった。
「ライアン、何か知っているのか?」
問い詰めるクリスにライアンは
「あ、いや……知っているのは伝説の島という話だけで、姫をさらったウィザードがハジマリの島へ行くのに姫をさらったとかなんとか……」
「詳しく聞きたいが、今は町へ向かうことを優先しよう。我々にはもう食料もない」
「そうですね」
クリスティーンの賛同を得て、パーティは街道をゆく。
街道を歩く間はほとんどモンスターに出会わなかったあたり、腐っても街道なんだなと、レイトは感心する。
やがて、景色が夕景になった頃、町が見えてくる。
人の倍ほどの町は例によって、重なるとブラックアウトして町中へと視界が切り替わった。
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