第4話 青年は島でモンスターと戦い装備を充実させる
村の外に出るとBGMがそれまでの明るいものから暗めのものに変わった。
「新しいBGMってワクワクするんだよねぇ」
などと独り言を言って視界を確認する。フロアマップの中心に自分が仰向けで横たわっているように見える。
そもそもにおいて自分の視界のど真ん中に自分がいる違和感もまぁ、そう言うもんと割り切ってしまえばそのうち慣れるものらしい。
もともとゲームで育った大学生だ。
叔父さんの影響でレトロゲームマニアになった経緯も手伝って、ゲーム画面を見ているんだと思えばそれもアリかと納得している。
ただ、そんなゲーム画面視界を見ているにも関わらず、現実である感覚があるのが認識のズレを感じさせられる。
なにせ村では家が、村の外では村が自分の倍くらいの大きさしかないのだ。
「参ったね、これ」
それはともかく、村の周りはセーフティーゾーンになっているのか、ドラクエみたいにエンカウントしないと敵が見えない仕様なのか、モンスターが見当たらない。
とりあえず探険すると、村からそれほど離れていない草原にスライムを発見する。
「スライムって棍棒で殴って倒せるのか? あ・でも洞窟でも剣で倒してたわけだし、視覚的には体当たりしてるだけだし、どう言う原理か判ってないにしても倒せる前提なのか」
お気楽に近づくと不意に頭の中に戦闘イメージが浮かぶ。
どうやら、ここでは体当たりじゃなく武器を振る動作が必要なようだ。
「offense」「defense」のモードもあるらしい。
「defenseモードって使う?」
レイトはスライムに近づき、棍棒を振る。
自分のそばに棍棒がつき出てきてスライムに当たる……ような動きをする。
視覚的にはそんな感じだ。
それでも単純な当たり判定を神様にされてる気になる体当たりより、自分で戦ってる感が得られる。
そして、スライムを倒すと経験値の他にゴールドが獲得できるようだ。
例によって弾けたモンスターの後に金貨が落ちているとか言うことはなく、感覚としてゴールドがゲットできていることが判るだけなのだけど。
「これは面白い!」
と、例によってゲーム感覚で調子に乗ってスライムを倒していたら、やっぱり無理をしていたらしく、BGMが歪んで激痛に身悶えすることになった。
もっとも、ドット絵の
「や、薬草……」
買ってきた薬草を使うとアラ不思議、すっかり痛いのがなくなったじゃあありませんか。
「こりゃあいい」
そんなこんなでまたぞろ調子に乗って戦おうとスライムを倒すと、ピロリロリンとSEがなって痛みが全くなくなると同時になんだか強くなった気になった。
「あ。レベルが上がった」
洞窟の時とおんなじ感覚だった。
洞窟の時はレベルが上がるたびに強くなった感が大きくなった。
今回のレベルアップはそんなに強くなった感が感じられなかったので、レイトはまた1レベルからスタートになったんだなぁとそんなふうに思う。
「それにしたって、レベルアップと同時にライフが回復するんなら薬草使わなくてもよかったなぁ……」
と、さっき使った薬草をもったいなく思うレイトだったけれど、経験値どころかステータスが見られないのでこう言うことは仕方がない。
それに、洞窟内と違って移動しているだけでは回復できなくなっているようだ。
スライムの草原で3レベルまで上げた頃、最初に買った薬草がなくなったので村に戻ることにした。
村に戻るとまずは何でも屋に入る。
商品に「かばん」が追加されていた。
「カバンを使うと道具を最大10アイテム持つことができるんだ」
と、店主が教えてくれた。
それと、店に入るとおもむろに何ゴールド持っているかが判ったのが面白い。
所持金一六八ゴールド。
なんでモンスターを倒すとゴールドが手に入るのか?
とか
こんな金の稼ぎ方で貨幣価値が維持できるってどう言うシステムなんだろう?
なんて考えるのは野暮なことか、「これが異世界ってやつなんだ」と納得する。
とりあえず50ゴールドのカバンと薬草三つを買って防具屋へ移動、「かわ の よろい」が増えていたけれど高くて買えなかったので、当初の予定通り一番安い「き の たて(100ゴールド)」を買って装備する。
残りは9ゴールドだ。
もう一度、何でも屋に立ち寄り薬草を三つ買って村を出る。
「一文無しだ」
と、自嘲してスライムの草原に向かう。
そんなゴールドと経験値稼ぎを何度か繰り返した結果、レイトは5レベルになった。
これ以上スライムでレベルは上がりそうにない。
装備も革の鎧に革の盾、短剣と言うやっとまともな冒険戦士の格好になった。
「遠出する前に村を調べてみよう」
レイトは村人に話を聞くべく体当たりを繰り返す。
大抵は世間話で、村の娘なんかは「きゃー!」とか悲鳴をあげたりする。
まぁ、知らない若い男がいきなり体当たりするんだから仕方ない。
レイトはしかし、女性に触れた感覚が一切ないのが悲しかった。
「村の娘ったって相手はドット絵なんだけどさ……」
その中で、きこりの親父ってのが島の話をしてくれた。
それによると、村の南に「悪魔の祠」西に「スライムの草原」東に「ウルフの森」北には「遺跡の塔」と言うのがあるそうだ。
「やっぱ、村人に話しかけるのは大事だな」
レイトは宿屋で5ゴールド払って休むことにした。
「二階の一番奥の部屋だ」
と言われたので、行ってみる。
小さな部屋にはベッドとタンスが一つずつ。
最初に目覚めた部屋によく似ている。
「まぁ、ドット絵じゃしょうがないか」
ベッドに体当たりすると「ねる」「やめる」の選択肢が出たので「ねる」を選択する。
すると視界がブラックアウトして意識を持っていかれた。
意識が戻ると体調万全でスッキリした気持ちでベッドの横に立っていた。
確かに「寝たーっ!」って気はする。
「でも、これなら最初の部屋でもよかったんじゃね?」
そんな気もする。
その後、レイトはウルフの森でウルフ、コボルド相手に8レベルまで、悪魔の祠のそばでゾンビ、スケルトンを倒しまくって11レベルまでレベルを上げた。
一度、祠の中に入れるかと試してみたが、頭の中に
「はいれません」
と、アラートが出てそれっきりだったので、前のシナリオには戻れない仕様なんだろう。
「つーか、現実世界に前のシナリオとかなんなん?」
自分がドット絵なことでいまいち現実感が怪しくなるレイトだった。
村に戻ると、今までいなかった男が村の中を移動している。
レイトは新しいイベントフラグだとアタリをつけて、その男に話を聞くことにした。
「見かけない顔だな」
(それはこっちのセリフだ)
と、レイトは心の中でツッコミを入れる。
「俺は猟師だ。ははぁん、お前だな異世界の旅人ってのは。遺跡の塔に行くつもりかい? 確かにあの塔には王国のある大陸に行く装置があるって話だが、やめといた方がいい。あそこに入って戻ってきたやつはいない」
「それでも行かなきゃならないから」
他にすることもない。
この村でドット絵のまま一生を過ごすのはさすがに嫌だったのだ。
「そうか、なら覚えとくといい。塔の中は大陸とつながっているとかで、ウィザードっていう魔法を使う敵がいる」
「あー、厄介だな」
「これを持っていけ。『加護の十字架』だ。これで多少は魔法から守ってくれるはずだ」
なんのかんのと優しい猟師だった。
宿屋で回復したレイトは装備を確認して遺跡の塔へと出発した。
●装備
鉄の剣 鉄の盾 鉄の鎧
力の石 知恵の石 守りの石
加護の十字架
大きな背負いカバン(最大50個入る)
回復薬×10 毒消し草×10 解毒薬×10
おにぎり×5
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