第15話「壁のない世界」
帰宅後。
訂正。
帰宅前に傷は完治させておいて正解だった。それとボロボロの服やら靴やらは新品で買い揃えれば、いかにもお出かけしてましたという言い訳にはなって。
「…………」
父が訝しむこともなかった、ように思う。特筆するほど鋭い人ではないはずだし。私の顔を見て、達観してたというか……何かを察してはいたっぽいけど。
『昨日、スカイツリー近辺の地域を覆っていた壁が崩落し、瓦礫と土砂が周辺に及ぼした被害に関して。先程、詳細が消防より発表されました』
ただ私があの場にいて奴らの親玉を倒したとまではさすがに思ってないだろう。近くにいて被害を受けたのか、くらいには目で言われたけれども。
ニュースキャスターの男の人は仕事だからと淡々としているものの、原稿を見てどこか驚いてはいるようだった。何せ。
『死傷者はゼロ人で行方不明者も確認されていないとのことです』
あの後すぐに離脱はしたものの、遠巻きに見ても悲鳴とかは特に聞こえなかった。すぐには逃げられるはずもないのに、幸運にも失われた命はなかったのだ。不思議な力がはたらいたのか、それとも本当に、住民達が冷静で逃げ遅れもなかったのか。まあおそらくは後者なのだろう。私が知る必要はない。
ただしどうも無事だったのは人命だけで、その他は無事で済まなかったらしい。
『倒壊した建物などの復旧の目処は立っておらず、被害状況を見て取り掛かる……と回答。都知事は記者会見で「住民の為、必要な保障を迅速に行う」と回答しました』
「いい人だな」
口にもの入れたまま喋るな。
「ほんとにね……」
「俺らは何にもなかったからいいけど、近くに住んでる人は大変だな」
「壁の中の復興も長くなりそう……」
平和が戻るのはまだまだ先の話だった。
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