第10章 2 久しぶりの修羅場

 翌朝-

真っ先に私に会いに来たのはソフィーだった。


「ジェシカさん!無事に帰って来てくれて・・・本当に嬉しいわ!」


「ソフィーさん。今・・・『ワールズ・エンド』はどうなってるの?」


「あのね・・・エルヴィラ様達が戻ってからは魔物が現れる事がぴたりとやんだのよ。やっぱり魔王が・・・ううん、ドミニク公爵のお陰じゃないかって皆から言われてるわ。」


「そうなんだ・・・。それで・・・ソフィーさん。貴女に聞きたい事があるんのだけど・・今、ジャニスはどうしてるの?」


ジャニス・オルソン。

ソフィーの幼馴染で・・・ソフィーの身体を奪い、偽物聖女として学院を支配しようとしていた悪女。私とアカシックレコードの奪い合いをして・・敗れた女性。


「あのね・・・。今セント・レイズシティの病院に入院しているのだけど、相変わらず具合が悪そうなの。熱は下がらないし、黒い縄のような痣はますます増えていくし・・・・もう誰もが気味悪がって・・・これはもう呪いだからどうしようもありませんてお医者さんから言われてるのよ。」


ソフィーは悲しそうに目を伏せながら言った。

 

 やがてソフィーは神殿に戻り、私は1人で神殿の庭のベンチに座っていた。

ずっと一緒にいたエルヴィラはアンジュと共に一時的に『狭間の世界』へと戻っている。何でも、『ワールズ・エンド』の門を修復するヒントが得られるかもしれないと言う情報がアンジュの元にもたらされたからである。


 ベンチに座り、噴水を眺めながら私は偽ソフィーの事を考えていた。

ジャニス・・・。私と同様にアカシックレコードが存在する世界へ入り・・・彼女は敗れ、私が手に入れる事が出来た・・・。

ジャニスの呪いは何が原因なのだろうか?今まで聖女だと名乗り、皆を欺いていた報いのせい?それとも呪いの鉄仮面をマシューに被らせから?魔王の魂を持つ公爵を散々操っていたから、それとも・・・・。


「アカシックレコードを手に入れそこなったから・・・?」


決めた・・・。マシューが公爵を連れ戻しに人間界へ戻る前に、私は・・・。


「テオをを助けなくちゃ・・・。」


私はグッと両手を握りしめた。私には何故か予感があった。ひょっとすると・・ジャニスなら・・テオを助け出す方法を知っているのでは無いかと―。



 セント・レイズシティの神殿の空き部屋で病院へ行く準備をしていると、背後から声を掛けられた。


「ジェシカ。」


振り向くとそこに立っていたのはアラン王子である。


「アラン王子・・・・。どうしたのですか?今ソフィーさんは神殿にいますよ。彼女についていなくていいんですか?」


しかし、アラン王子は私の質問に答えずに言った。


「ジェシカ・・・何処かへ行くのか?」


「はい、セント・レイズシティの病院へ行ってきます。」


すると余程驚いたのか、アラン王子が目を見開いた。


「え?な、何故あの病院に行くんだ?」


「ジャニス・オルソンに会いに行くんです。」


「ジャニス・・・オルソン・・?誰だ、その人物は?」


「ええっ?!アラン王子・・・ジャニスを知らないんですか?!」


「ああ、知らない。何だ?そんなに重要人物なのか?」


「重要人物も何も・・・彼女なんですよ?今までソフィーの偽物を演じていたのは・・。」


「何だって?!そ、そうだったのか?!だ、だが・・どんな人物だったのかは・・・殆ど思いだせない・・・。」


「では、アメリアと言う名前なら・・・・どうですか?」


「アメリア?アメリアなら知ってるぞ。髪を御下げに結い、顔にはそばかすがある・・・地味な女だったな。」


「え?地味・・・ですか?」

アラン王子は自分がアメリアに何度も心を奪われた事を忘れているのだろうか?

まあ、過去の事を言っても今更仕方が無いし。


「そうです、今から彼女に会いに行って来るんです。」


私はカバンを持って立ち上るとアラン王子に言った。


「それでは病院へ行ってきますね。」


ペコリと頭を下げて、歩き出そうとすると突然アラン王子に右腕を掴まれた。


「お、おい、待てっ!行くって・・・どうやって行くつもりだ?今は町の安全を守るために学院と町の門は封印されているんだぞ?!ジェシカ。お前は魔法が全く使えないじゃ無いか。俺が一緒に病院へ行ってやろう!」


何故か得意げに言うアラン王子。

だが・・・。


「ああ、その事でしたらもう大丈夫ですよ?もう私は転移魔法が使えるようになりましたから。」


そしてニッコリ笑う。


「ええ?!い・・・いつの間に魔法が使えるようになったんだ?!」


「アカシックレコードを手に入れてからですよ?」


「な、何・・?そ、そうか・・・あの時に・・・。だが、1人は危険だ。俺が一緒に付いて行こう。」



「え・・?な、何を言ってるんですか?アラン王子はソフィーさんの側についていてあげないと駄目じゃないですか?」


「何故だ?何故俺がソフィーの側にいなければならないんだ?」


「決まってるじゃないですか。アラン王子の運命の相手はソフィーさんなんですから。」


「・・・何故だ?」


「え?」


突如、アラン王子の私の腕を掴む手の力が強まった。


「あ、あの・・・どうしたんですか?急に・・・?」


「だから、何故俺の運命の相手がソフィーになるんだ?」


何処かイライラした口調でアラン王子が詰め寄って来た。


「な・・・何故って・・・。」

だって・・・ソフィーは紛れもない本物の聖女。そして小説の中で結ばれる相手はアラン王子と決定しているのに。


「いいか?俺は別に本物のソフィーを見ても特に何も感じる所は無い。それに彼女は俺の聖女では無く、聖剣士全員の聖女なのだからな?」


アラン王子は熱のこもった目で私に訴えて来る。


「は、はあ・・・。」


一体アラン王子は何を言いたいのだろう?


「はあ・・・・って随分な言い方だな?俺が前から言っていた事、忘れたわけでは無いだろう?俺が愛する女性はジェシカ、お前だけだっ!」


すると、そこへ扉がバンッと思い切り開かれた。

え?だ・誰っ?!


「待てっ!アラン王子っ!抜け駆けは許さんぞっ!」


そこに現れたのはデヴィットだった。


「デ、デヴィットさんっ?!」


するとデヴィットはズカズカと近付いてくると、突然強く抱きしめてきた。


「貴様っ!ジェシカから離れろっ!」


背後でアラン王子の喚く声がする。しかし、それを完全無視したデヴィットが言う。


「ジェシカッ!お前はもう今はマシューを愛してはいないんだろう?そして肝心のテオももういない。そうなると、お前の相手はこの俺しかいないとは思わないかっ?!」


滅茶苦茶な事を言って来る。

確かにデヴィットには数えきれない位世話になってはきたけれども・・・。


「デヴィットッ!!ジェシカから手を離せよっ!」


え?その声は・・・ダニエル先輩?!


「いいかいデヴィット。僕はね・・・以前からジェシカを自分の領地へ連れて帰るって決めてるんだよ?勝手な事ばかりされては困るんだけどねえっ?!」


そして3人は激しく口論を始めた。しかも・・・デヴィットは私を抱きしめたままで!


・・・久しぶりのド修羅場だ。

こうなったら・・。試した事はないけれども、やってみよう!


私は瞳を閉じ、セント・レイズシティにある病院を想い浮かべる。

お願い、アカシックレコード・・私をジャニスの入院している病院迄転移させて―。


するとフワリと身体が一瞬浮く気配を感じ・・・・次に私が目を開けた時には病院の前に立っていた—。















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