第8章 4 この世界の全てを知る者

「ドミニク様は・・・今、魔界の何処にいるのか分かりますか?」

フレアの方を向いて尋ねた。


「まさか・・・ジェシカ。魔界へ行くつもり?」


フレアが目を見開いて私を見つめた。


「はい。ドミニク様を・・・連れ戻しに・・。」


「駄目だっ!ジェシカっ!」


真っ先に声を上げたのは他でも無いアンジュだった。


「ア・・・アンジュ・・・?」


アンジュの顔は今迄に無いくらい、感情が露わになっている。


「駄目だ・・・・・魔界へ行ったら・・・今度こそジェシカ。君は無事でいられないかもしれない・・。君に危険が迫ると僕に知らせる警報が鳴るって事は・・・前に話したよね?今はそれがどんどん音が強まってきている。お願いだ。どうか魔界へ行く事は考え直してくれる?」


「だ・・・だけど・・。」

私は縋るようにテオを見た。


「ジェシカ・・・。俺は・・・ジェシカが行きたい場所に・・・何処までも付いて行くだけだよ。否定はしない・・・。」


テオは優しい笑顔で私に言う。・・・有難う、テオ。


「駄目だ!僕は絶対に魔界へ行く事を認めないっ!」


それでもアンジュは引かない。


「そうね・・・・。今回ばかりは私も行かない方がいいと思うわ。それに・・どのみち私はもう魔界へ足を踏み入れる事は出来ないから付いて行けないわよ?」


「大丈夫です。構いません・・・。あの、それで今ドミニク公爵は何処に?」


「もう一度彼の居場所を映し出してみようか?」


アンジュが再度球体に触れると、再び公爵の姿が映しだされる。ここは・・一体何処なのだろう?

そして公爵の前には空中に浮かぶ城があった。


「あらま~大変。」


フレアはまるで他人事のようにのんびりした口調で話す。


「た・・大変・・て・・な、何が大変・・・なのでしょうか・・?」


引きつりながら私は尋ねる。


「あの空中に浮かんでいる城なんだけど・・・・。」


フレアの言葉に私は再度球体に映し出される映像を見つめる。


「あそこに映っているのは・・・かつて魔王が住んでいた城よ。でも今は・・・あそこは魔界の総裁の拠点よ。貴女・・・映像で会ったことあるわよね?」


「は・・・はい。覚えています。」


「僕もはっきり覚えているよ。まさか・・・また関わりになるとは思わなかったけどね。」


アンジュはそう言ってため息をついた。


「お、おい・・・。まずいんじゃないか?ドミニクが映像で今あの場所にいるっていう事は・・・。」


テオがフレアに話しかけた。


「そうね・・・。きっともう彼は・・・駄目かも。」


肩をすくめるフレアにテオが食って掛かった。


「お・・・おい!な・・・何だよ、その駄目かもって台詞は・・・っ!身も蓋もない言い方するなっ!」


「何よっ!ほんとの事言っただけでしょう?!」


「だからって・・・もっと物には言い方があるだろう?クッソ・・・俺とジェシカの気も知らないで・・・っ!」


「それじゃ、貴方には仲間達から追われる身になった私の気持ちが分かるって言うの?!」


何故か激しく言い合いを始める2人。

全く・・・最近薄々感じてきたのだが・・・どうもこの世界の住人達は喧嘩ッ早い人達が多い気がする・・・。


「ふたりとも、落ち着いて!今はそんな言い争いをしている場合では・・・。」


「そうだよ、2人とも。ジェシカの言う通りだよ。」


アンジュも喧嘩の仲裁に入った。


「だって・・・今のままじゃ打つ手が無いんだろう?」


テオが悲し気に目を伏せる。


「テオ・・・・。」

その時、私はふとある人物を思い出した。


「そ、そうだっ!ねえ、アンジュ。私を魔界へ行く為に力になってくれた・・・『大木の森の魔女』彼女にもう一度会わせて、お願いっ!」


縋りつくようにアンジュにお願いすると・・・・。


「ええ~・・・どうしようかなあ・・・。彼女は気まぐれだし、偉大な魔女だから・・・そう簡単には会えないんだよね・・・。そうだっ!ジェシカッ!僕にキスしてくれたら、会わせてあげるよっ!」


とんでもない事を言ってきた。


「な・・・何だと、お前・・・っ!」


ついにテオがアンジュの襟首をムンズと掴みかかった。


「二度とジェシカにそんな事を言うなっ!」


「煩いっ!お前に言われる筋合いは無いからなっ!ましてやジェシカにキスするような男は・・尚更だっ!」


と、その時・・・。


「全くここは騒がしい場所だよねえ・・・・。」


突如部屋の中へ、あの『大木の森の魔女』が現れたのだ。


「ま・・・まさか、貴女からここへやって来るとは思っていもいませんでした・・・。」


アンジュが魔女を見つめながら言った。


「何言ってるのよ、あんたが彼等に意地悪な態度を取るからでしょう?全くこの世界の王になったっていうのに・・・いつまでたっても子供みたいなんだからねえ・・・。」


まるでアンジュを小さな子供のように言い聞かせる魔女。本当に・・・この女性は何者なのだろうか?


「さて。と言う訳だから・・・ジェシカを借りていくね。」


言いながら魔女は私の右腕をグイと掴むと・・・その瞬間、私は以前訪れた事のある魔女の家の中にいた。


「え?え?そ、そんな・・いつの間に・・・っ!」


転移魔法とも違う、一体今の力は・・・?しかし、そんな私の動揺を他所に、魔女は突然何故か私の前で膝を折り、恭しく頭を下げると言った。


「この世界の創造主、そして我が主・・・ハルカ様・・・。ようやく貴女に御挨拶する事が出来て・・・光栄至極に存じます。」


そして顔を上げて私の事をじっと見つめてきた。


「え・・・・?い、今・・・・何て・・言ったのですか・・・?」


すると魔女はにっこりと微笑むと言った。


「ああ、私にそのような言葉遣いをされるなんて・・・。やはり謙虚な方なのですね。本当は・・・初めて学院でお会いした時から、ずっと貴女に私の存在を知って貰いたくて・・・何度名乗りを上げようかと思った事か・・・。」


え?一体この魔女はさっきから何を言ってるの?この魔女の話を理解出来る様な、出来ないような複雑な感情が私の中で入り混じっている。いえ、それよりも・・。


「あ、あの学院で会った時から・・・っていつの話ですか?私・・この世界で会う前から・・貴女に会った事があるんですか?」


すると・・次の瞬間私の前に現れたのは・・・。


「え・・・?マ・・・・マリア先生・・・・?」


そこに立っていたのは『セント・レイズ学院』の医務室の女医・・・マリア・ペイン先生だったのだ。


「驚きましたか?貴女の命を・・・そしてこの世界の重要人物「ジェシカ」の命の両方を守る為・・・・私がこの世界に貴女を呼んだのです。」


「え・・・?な・・・何の事なのですか?私にはもう何が何だか・・・・。」


すると・・魔女は突然手のひらから一冊の本を取り出した。


「この本を・・・御覧下さい。」


魔女から本を手渡された私は・・・その本の題名を見て息を飲んだ。

その本の題名は『聖剣士と剣の乙女』

私の書いた小説の題名と同じだった。そして・・・作者名の所には・・。


川島遥


私の名前が記されていた・・・。


「あ・・・?一体これは・・・?」

嘘・・・。どうして私の書いた小説が・・・本になって・・・しかもこの世界に存在しているの?!こ・・・こんな事って・・・!


「私が誰なのかは・・・もう作者である貴女でしたらお分かりになりますよね・・?それとも長くこの世界にい過ぎて同化して・・・分からなくなってしまいましたか?中をご覧になりますか?」


魔女に促されて、私は恐る恐るページを開いた—。













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