第7章10 聖女の復活
森に私の絶叫が響き渡り・・・奇跡が起こった。
私の身体から光が溢れ出し・・・マシューの身体の中に流れ込む。すると見る見るうちに彼の背中の傷が塞がっていく。
「き・・・傷が・・・。」
私は涙を拭うのも忘れ、マシューの傷が魔法のように治っていく様を見ていた。
そして・・・光が止んだ時、そこにはあれ程切り裂かれていた痕跡すら残されていない、綺麗なマシューの背中があった。
そして・・・。
「ジェシカッ!!」
突然マシューが飛び起きると・・・強く強く私を抱きしめて来た。
「こ・・・声が・・・?」
するとマシューは私を抱きしめたまま言った。
「ああ、そうだよ。ジェシカ・・・。俺・・声が出せるようになった・・・。それだけじゃない・・。全部・・・全部・・思い出したんだ・・・。自分の事も・・・そして・・ジェシカ。君の事も全て・・・!」
その声は・・・その優しい声は・・・紛れもない・・・懐かしいマシューの声だった。
「マ・・・マシューッ!」
溢れる涙を抑えきれず・・私は子供のように泣きじゃくりながらマシューの胸に顔を埋めた。
懐かしいマシューの香り・・・私はこの香りが大好きだ・・・!
もうすぐ・・・もうすぐマシューとの悲しい別れがやってくる。
だから・・・私は彼の名前を呼ぶことを今迄躊躇していたのだ。だけど・・こんな事で呪いがマシューの記憶が・・・言葉が戻るなら、もっと早くに名前を呼んであげれば良かった・・・!
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。」
私はマシューの胸の中で泣きながら謝り続けた。
「ジェシカ・・何を謝っているんだい?」
マシューは私の頭を優しくなでながら尋ねて来た。
「い、今までの事・・・色々・・。私のせいで・・・貴方を酷い目に沢山遭わせてしまって・・・。」
「俺は一度だって・・・君に酷い目に遭わされたとは思った事は無いよ?」
マシューは何処までも優しい声で語り掛けてくれる。
だけど・・・。
私の存在は・・・マシューを不幸にするだけなんだ。だから・・・・私はマシューの為にも彼から離れて・・本物の聖女、ソフィーに全てを託す。
「マシュー。その仮面・・・外れそう?」
マシューの顔を見上げて尋ねた。
「うん・・・もう仮面から怖ろしい声は聞こえてこないけど・・・ちょっと外れそうにないな。けど・・・剣を使えば・・・壊せるかもしれない。」
マシューは仮面に手をやりながら言う。
私にはわかる。この仮面を外す事が出来る人物は・・この城にいるって事が。
「大丈夫、マシュー。私・・・この仮面を外す事が出来る人を知ってるの。その人は・・・このお城の一番高い塔に・・・閉じ込められている。・・一緒に・・助けに行こう?マシュー。」
「うん、分かった。ジェシカ。一緒に行こう。」
マシューは私に手を差し伸べ・・・私は彼の手をしっかり握りしめた。
城の中へ入ると、目も眩むほどの長い螺旋階段が続いている。こ・・これを今から登らないといけないなんて・・・。
するとマシューが私を抱き寄せると言った。
「ジェシカ。俺にしっかり掴まっていて。」
「え?う、うん・・・」
言われた通り私はマシューの首に腕を回す。するとマシューが突然私を抱き上げると、ふわりと空中に浮かび上がった。
「え?キャアッ!」
慌ててマシューの首にしがみ付くと彼が笑った。
「アハハハ・・・。だいじょうぶ、浮遊魔法だよ。この階段を上るのは・・・流石に無理だから、このまま最上階まで行こう。」
そして、私達は上を目指しながら言葉を交わした。
「ねえ。マシュー。仮面を被らされていた時の記憶はあるの?」
「う~ん・・・。それが・・実はあまりその辺りの記憶があやふやなんだよね・・。何だか頭に靄がかかっていたかのようで・・・。はっきり分かるのは『ワールズ・エンド』での出来事と・・・魔族が今溢れかえっていてたって事位で・・・・。後は・・・誰かを助けにここに来たんだよね?」
そうか・・・それじゃ、きっとマシューは。私を優しく抱いてくれた記憶も・・・私が愛してると叫んだ言葉も・・・記憶に無いのだろう。でも、もうすぐマシューは確実に私の元を去っていく。最後に・・・最後に自分の気持ちを彼に・・伝えておきたい・・・。
「ジェシカ、着いたよ。どうやらここが・・最上階みたいだね。」
マシューの声に我に返る。私は扉を見た。・・・そうだ、確かに・・ここだ。ここにほんもののソフィー・・アメリアが幽閉されているんだ。
最期に扉を開ける前に・・・。
「どうしたの?ジェシカ・・・。扉・・開けないの?」
不思議そうな顔でマシューが尋ねて来る。
「今・・・今開ける。その前に・・。」
私はマシューを振り返ると言った。
「マシュー。聞いて・・・・。どうしても今貴方に伝えておかないといけない事があるの・・。」
「え?う・うん・・・。何?ジェシカ。」
「私・・・私はマシュー。貴方の事が・・・好きです。・・・愛しています。」
「!」
マシューの肩がピクリとする。
ついに言ってしまった・・・。もうすぐ・・辛い別れが来るのに・・・。
次の瞬間—
私はマシューの腕の中にいた。彼は私を胸に埋め込まんばかりの強さで私を抱きしめて来る。
「本当に・・・?ジェシカ・・・・。これは・・・夢じゃないんだよね・・・?」
切なげで・・・何処か甘みのある声でマシューが私に囁いてくる。
「うん、夢じゃ・・・ないよ。」
「信じられないよ・・・。本当に俺の事を・・・?ノア先輩でも無く、アラン王子でも・・・他の誰でも無く・・俺を・・・選んでくれたの・・?」
「うん・・・。他の誰でもない・・・貴方が好き。・・・愛してる。」
「!」
マシューの身体がビクリと動き・・・さらに抱擁が強まった。
「ジェシカ・・・ジェシカ・・・。俺も君が大好きだ・・・・愛してる・・・っ!」
<愛してる>
その言葉を・・・貰えただけで、十分だ。マシューにこうしてまた会えた。そして・・<愛してる>と言って貰えた。その言葉だけで・・・私はこの先も生きていけるだろう。
「マシュー。それじゃ・・・扉を開けるから・・少しだけ、貴方はここで待っていてくれる?」
「うん、分かったよ。・・・待ってる。」
待ってる―。
多分今の言葉はもう二度と彼の口からは聞けることは・・・無いだろう。
私は彼から離れ、深呼吸すると鍵穴に鍵を回しいれて・・扉を開けた—。
「誰っ?!」
中で人の気配がする。
その部屋は・・・夢で見た通り、花で溢れ変えっていた。
「アメリア・・・?」
そっと声を掛けると、息を飲む女性の気配を感じた。
「ま・・・まさか・・・ジェシカ・・・さん・・?」
ゆっくりと私の前に姿を現した女性は・・やはり彼女だった。
「・・・久しぶり。アメリアさん。ごめんなさい。助けに来るのが・・遅くなって。」
「!」
アメリアがピクリと身体を震わせた。
「ジェシカさん・・・。やっぱり・・・全て・・知ってるの・?」
ああ・・。もう、今の言葉を聞いただけで、答えは明白だ。
「うん。夢で・・全て見てきたから。貴女が・・本物のソフィー・ローラン・・でしょう?」
するとアメリア・・・もとい、ソフィーは頷いた。
「貴女の偽物を名乗るソフィーは・・・多分魔界へ行ってしまった。貴女と偽物の間で・・何があったかは分からないけど・・・全てが終わったら・・私に教えてくれる?だから・・今すぐ私の力を・・・全部持っていって。」
私はソフィーに両手を差し出した。
「ジェシカさん・・・。貴女・・そこまで知ってたの?私が力を奪われた事も・・。貴女の持つ力なら・・・私が元の姿に戻れる事も・・?だけど・・・本当にいいの?私が貴女の魔力を全て受け取れば・・・・。」
ソフィーは泣きそうな顔で私を見た。何故・・彼女がそんな顔をするのだろう?
「うううん、いいの。だって・・・この力は本来は・・・全て貴女の持つべき力だったんだから。さあ、時間がないから・・お願い、ソフィーさん。」
「わ・・わかったわ・・・。ジェシカさん・・・。」
そしてソフィーは私の両手をしっかり握りしめ・・・目を閉じた。
すると途端に私とソフィーの身体は温かい光に包まれ・・・どんどん私の中から光がソフィーの中に吸収されていく・・・。
私は急速に自分の魔力が消えていくのが分かり・・・それと同時に大切な何かが失われていくのを感じた。
ガクッ!
突然立っていられなくなり膝をつくと、ソフィーに助け起こされた。
見上げたその姿は・・・正に本物の聖女の・・・ソフィー・ローランだった。
ああ・・ついに・・・本物の聖女が・・・この世界に戻って来たんだ—。
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