※マシュー・クラウド(モノローグ)⑨※性描写あり
『ジェシカ、いつ魔物が襲ってくるか分からない。だが・・このシールドの中は安全だ。だから何も心配するな。そして・・何があっても絶対にここから動くなよ?』
岩陰に隠す様にジェシカを残す。
『ワールズ・エンド』は不思議な空間だ・・・。この地で倒された魔物はまるで空気のように消えてしまうのだから。
でもそのお陰でジェシカに醜い魔物の骸を見せずに済むのはありがたい事だった。
戦いが終わって彼女の元へ戻るたびに、俺に言う。
役立たずで申し訳ないと何度も何度も・・・・。だからその都度俺は言う。
側にいてくれるだけでいいのだと。ジェシカが・・・俺と同じ空間にいてくれるだけで何故か力が湧いてくる。今なら・・・どれだけ戦っても・・どんな敵があらわれても・・負けない気がする程に。
全ての敵を一掃すると、一時的な休息時間が得られる。
ジェシカは俺に身体を休める様にいい、見張りをしてくると言って、かつて門があった場所へ移動しようとし・・・彼女を呼び止めた。
『ジェシカ。』
「はい、何でしょう?」
少しだけ・・・彼女と話がしたいと思った。ジェシカになら・・・弱音を吐いている姿を見られても構わないと思った。
だから俺はジェシカを隣に座らせて、仮面を被らされた時の自分の心境を語った。
孤独で・・・視野も聴力も半分に閉ざされ・・・毎日が死にたくなる程に辛かった日常を・・。だけど、ジェシカが側に入れくれるようになると、醜い仮面を被らされているのに、視野は広がり、音はクリアに聞こえ・・・そしてジェシカとだけは会話をする事が出来る・・それがどんなに幸せな事か・・・。
俺はジェシカを抱き寄せた。
「あ、あの・・・。」
『駄目・・か?もし嫌じゃ無ければ・・少しだけこのままでいさせてくれ・・・。こうしていると・・・自分が忌まわしい仮面を付けられている事が忘れられるんだ。不思議な事に・・・。』
するジェシカは分かりましたと言って、自ら俺の胸に頭を埋めて来た。
ジェシカ・・・。お前が・・愛しくてたまらない・・。
ますます自分の胸に抱き寄せると彼女が言った。
本当に何も覚えていないのかと・・・・。どうしよう・・今なら本当の事を話しても大丈夫だろうか・・・?
『ああ・・・。自分でも、もどかしいぐらい何も覚えていない。だが・・・だが、お前の事は・・知ってる気がするんだ。』
するとジェシカの方がピクリと動いた。・・・もしかしてジェシカも俺と同じ・・心当たりがあるのか?本当は・・俺の事を知っているんじゃないのか?
「貴方は聖剣士なのだから、この学院の学生だったと言う事ですよ。なら何処かで会っていてもおかしくはないんじゃないですか?」
ジェシカはそう答えると、俺の身体を軽く押して離れた。
・・・何故だろう?突然ジェシカら距離を取られてしまった。そして・・・何故か彼女は一瞬泣き笑いの様な笑顔を浮かべると、見張りをするので休んで下さいと言って来た。
それは・・・まるでもうこれ以上会話をしたくないと言う素振りにも見て取れた。
なら仕方が無い。俺はジェシカの言葉に甘えて仮眠を取る事にした。
余程疲れていたのだろうか・・・?それともジェシカが側にいるから・・・?
俺は目を閉じると・・・すぐに眠りに就いた—。
6時間後—
「お疲れだったな、2人とも。」
魔族の男が1人で『ワールズ・エンド』へやってきた。まさか・・・1人で番をしようというのだろうか?
ジェシカは笑顔で男を迎え、仲良さげに話をしている。その様子をじっと見つめる。
あの魔族の男は・・・ジェシカに恋をしている事は一目で分かった。
彼女を見る目は愛しさで溢れていたからだ。そしてジェシカの方も男の事を満更でもないと思っている事が手に取るようにわかった。
やはり・・・2人は恋人同士なのか・・・?ジェシカの相手はドミニクでは無かったのか・・?
すると次の瞬間、魔族の男がいきなりジェシカを抱きしめてきたのだ。
『!』
あ・あの男・・・俺が見ている目の前でジェシカを・・・っ!
しかし、次の瞬間・・俺は我が目を疑った。
ジェシカは抱きしめられた直後、戸惑いの表情を浮かべたが・・・すぐに頬を薄っすら染めて・・幸せそうな笑顔で男の胸に擦り寄ったからだ。今まであんな態度は見た事が無かった。
ま、まさか・・・ジェシカ。お前本当にその男を・・・?
やめろ・・・ジェシカに触れるな・・・っ!
気が付けば俺は2人に近付き、男の腕から奪い取っていた。
『やめろ・・・これ以上彼女に触れるな。』
すると男は俺をみると、不敵な笑みを浮かべた。
「ふ~ん・・・。そうか。お前ってやっぱり・・・・。」
え・・?何を言おうとしているんだ?
「悪かったな。お前達・・・見張りで疲れているのに時間を取らせてしまって。後は俺に任せてゆっくり休んでくれ。」
そしていきなり俺の頭の中に話しかけて来た。
<お前・・・半分魔族だろう?>
それだけ言うと背を向けて男は門へ向かって歩き去って行った。
え・・・?この俺が・・・半分魔族だって・・・?あの男には俺の正体が・・分かっているのか・・・?
『ワールズ・エンド』から神殿にある自室に戻った俺は仮眠を取ったら再びアメリアが捕らえられているかもしれない城を探しに行く提案をした。
するとジェシカも同じことを考えていたようで了承した。
だが・・・仮眠を取るにもベッドは一つしか無い。こんな危険な場所でジェシカを1人にする訳にも行かないし、学院に戻す訳にも行かない。セント・レイズシティも魔物が現れる可能性もある。・・・やはり一番安全なのは俺の側に置いておくことなのだが・・・。
俺は一か八かジェシカに尋ねてみる事にした。・・・同じベッドで眠らないか?と・・。
するとジェシカは驚いたことに承諾した。いや・・・きっとそれだけ彼女も疲れているのだろう。
それなら・・・・。
汚れた服を着替えると、ジェシカと2人・・ベッドの上で背中合わせに横たわる。
『・・・・眠れそうか?』
するとすぐにジェシカが背中越しに答えた。
「はい。・・・おやすみなさい・・。」
ジェシカの声は既に眠そうだった。そして・・・ものの一分も経たない内に寝息が聞こえてきた。
彼女の隣は・・・とても温かく・・安らぎを感じる・・・。
そして、俺もいつしか眠りに就いていた・・・。
ふと・・・すすり泣きの声で俺は目が覚めた。
見るとジェシカが眠りながら・・・涙を流している。ジェシカ・・・・。どうしたんだ?何がそんなに悲しいんだ?その小さな体で・・・何か抱え切れない程の大きな悩みでもあるのか?お前の悲しみを俺が消してやることが出来れば・・・。
やがて・・ジェシカの起きる気配を感じて俺は背中を向けた。
きっと・・・泣いてる顔を見られているのは嫌だろうと感じたからだ。
「あ・・・。」
ジェシカが小さく呟く声が聞こえた。そして彼女は身を起こすと・・・俺をじっと見つめて、あろう事か俺の肩に触れてきたのだ。
ジェシカ・・・ッ!!
『目・・・覚めたのか。』
俺は彼女に声をかけた。
「はい、たった今・・目が覚めました。』
ジェシカの手はまだ肩に触れたままだ。
「あ・・・ご、ごめんなさい・・・。」
ジェシカが手を引こうとし、逆にその手を引き寄せた。ジェシカは俺の胸に倒れ込み・・・そのまま彼女を強く抱きしめる。ジェシカ・・・。何故泣く?何がそんなにお前を不安にさせているのだ?俺では・・お前の力になれないのか・?
だから、ジェシカに尋ねた。
『俺は・・・もっと強くなりたい・・・。あの時のアラン王子・・お前に口付けしたら一瞬で体調が回復していたよな?・・お前の聖剣士になれば・・触れ合えば俺もあんな風になれるのか?・・・どうすれば・・俺はお前の聖剣士になれるんだ・・?』
すると・・突然ジェシカの左腕と俺の右腕が光を放ち始めたのだ。
え?何だ?一体・・・何が起こったのだ?
少しの間、その光を見ていたジェシカが突然俺の上に覆いかぶさるような体勢で俺を見つめてくる。彼女の栗毛色の髪が俺の仮面の上にパサリと垂れた。
「聖女と聖剣士の・・・誓いの契りを交わせば・・・私達は正式な関係に・・なれます・・・。」
『・・・!』
俺はその言葉に耳を疑った。
そ、それでは・・・アラン王子も、あの白髪の男も・・ジェシカと・・・?
その事実は俺の心を激しく揺さぶった。
『いいか・・・・・?』
「・・・。」
ジェシカは黙って俺を見つめている。
『俺を・・・お前の正式な聖剣士に・・させてくれ・・・。』
気が付けば俺は切なげな声でジェシカに囁いていた。
ジェシカは・・・こんな仮面を被った得体の知れない男だけど・・・俺の事を受け入れてくれるだろうか・・・?
「私の・・・聖剣士になって・・下さい・・。」
俺は耳を疑った。そして再度ジェシカの顔をじっと見つめる。
だけど・・・彼女の真剣な瞳が事実であると雄弁に語っていた。
この時ほど・・・今自分が被らされている仮面を呪わしく感じた事は無かった。
この仮面のせいで彼女にキスをする事も、肌に口付けする事も出来ないのだ。
だけど・・・。
『優しく・・・するから・・。』
そっと彼女の服に手をかけ・・繊細なガラス細工に触れるような手つきで彼女に触れた。
言葉を交わす事は無かったが・・・彼女を抱きながら何度も心の中で囁いた。
ジェシカ・・・愛している。他の男達にも負けない程に・・・。
そして彼女に触れながら・・・俺は気付いてしまった。
覚えている・・・彼女の肌を・・・この温もりを・・・その甘い声を・・・。
ジェシカを抱くのは初めてでは無かったのだ。
前にも何処かで俺はジェシカと愛を交わした事があると言う事に気が付いた。
でも・・・それはいつの記憶なのだ?この仮面を被る前の出来事だったのか・・?
だが・・今はもう何も考えるのはやめよう・・・。
ジェシカ・・・愛してる・・・。
お前は・・・俺の事をどう思ってくれている・・?
俺の身体に縋りついて来る彼女の姿に愛を感じるのは・・自惚れだろうか・・?
そして俺達は飽きることなく何度も互いを求め合った—。
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