マシュー・クラウド(モノローグ)⑧
ジェシカが何か考え事をしているのか、崩れはてた城で佇んでいた。
なにかあったのだろうか・・・?
彼女の肩を叩いて、メモを見せた。
『どうした?』
「あ、すみません・・・。少し考え事をしていて・・。」
どんな考え事か尋ねると、門を開けたソフィーの行方を考えていたようだ。
・・・もうあんな女など・・どうなったって構わない。魔界でもどこでも行って勝手にの垂れ死んでくれればいいとさえ思っている。
『分からない・・・。でも・・あんな女なんて、もうどうでもいい・・・。』
俺は心の中で呟いた。
だが、ジェシカは言った。
俺に呪いをかけたのはソフィーなのだから、彼女を見つけて俺の呪いを解きたいと言って来た。いや・・・待てよ・・・。それ以前に・・何故筆談をしていないのに俺の頭で考えた事が・・ジェシカに伝わったんだ?
『え・・?今何て答えた・・・?』
「え?あ・・・わ、私・・。」
すると再びジェシカが反応した。
「あれ・・・・?どうして私、貴方と普通に会話しているんだろう・・・?」
いや、むしろ驚いているのは俺の方だ。
『どうして・・・俺の話そうと思っている言葉が・・・お前に伝わっているんだ?』
「わ・・・分かりません。何故こうなったのか私には分かりませんけど・・・何故か貴方の言葉が頭の中に聞こえてくるんです。・・・ひょっとすると貴方と一緒に居る時間が長いから・・でしょうか?」
俺の中にジェシカを愛しく思う気持ちがより一層強まる。呼びたい・・・。彼女の名前を・・・・。だから・・・・俺はジェシカという名前をとっくに知っていたが・・わざと尋ねた。
『・・・名前・・・。』
「え?」
『お前の名前・・・何だっけ?』
「ジェシカです。ジェシカ・リッジウェイ」
『ジェシカ・・・。』
ついに俺は・・・自分の心の声で・・彼女の名前を呼ぶと、ジェシカは「はい」と返事をしてくれた・・・。
俺を看病してくれたアメリアとも意思疎通は測れなかった。ジェシカよりも長く時を過ごしたのに・・・。それどころかずっと前から彼女の事を知っていたような気がしてならない。だから・・再度俺は彼女に言った。
『お前・・・やっぱり俺の聖女に・・・向いているんじゃないか・・・?』
しかし、ジェシカはそれには答えずに何故か掴んでいた俺の腕を振り払ってしまった。・・・これには流石にショックを受けてしまった。
『嫌・・・だったか?』
辛い気持ちを押し殺し、ジェシカに尋ねた。しかし、そうでは無いとジェシカは言う。ただ、驚いただけだと・・・。何故手を握っていただけでそういうことを言うのだろう?
『手を握っただけで?・・・もう何回も俺はお前を抱きしめた事もあるのに・・・?その時は今のような態度をとってはいなかったぞ?何故なのだ?理由があるなら教えてくれ。』
ジェシカ・・・・何か理由があるなら教えてくれ・・・っ!俺はお前の心が知りたいんだ・・・・。
「も・・・もうその辺で・・許して下さい・・・。」
すると何故かジェシカは苦しそうに顔を歪めながら言う。何故お前の方が苦しそうな顔をするのだ?むしろ・・・お前に拒絶された俺の方が・・・余程苦しいのに・・。
もしかして・・・。
『仮面を被ったこの俺が・・・怖いから?』
「そ、そんなんじゃ・・・・ありません。」
即座にジェシカは否定した。・・・やはりジェシカは何か重大な秘密を抱えている。
何故・・・俺に話してくれないのだろう?俺は・・そんなに信頼に置けない人間なのだろうか・・・?
だけど後2時間もすればジェシカの仲間達とワールズ・エンドで合流しなければならない。早く行動に移そう・・・。
そして俺はジェシカを連れて一度神殿に戻り、自分の馬にジェシカを乗せてソフィーのもう一つの拠点・・。湖の側にあると言われる城を探しに出発した。
馬に乗りながら、俺達はアメリアやソフィーの事について色々話をし・・・
ついに、湖を発見した。
湖はとても水が澄んでいて、美しい場所だった。
ああ・・・何て綺麗な場所なのだろう。
だが・・・空を見上げているジェシカの表情は・・・暗かった。
『どうした?空を見上げたりして・・・。』
するとジェシカは言った。
魔界の空もこんな空だったので、この世界に戻るのが楽しみだった。なのに美しい景色が失われていたとは思いもしなかったと悲し気に目を伏せたのだ。
そうだ・・・、忘れもしない。あの日、ソフィーは全校生徒の前で聖女宣言をし・・・それと同時にこの世界は・・・天候がおかしくなってしまったのだ・・・。
そして、ソフィーはあろう事か、このような事態になってしまったのはジェシカが魔界の門の封印を解いたからだと責任転換してきたのだっ!
ジェシカはそんな俺の話を・・黙って聞いていた。
一体今彼女は・・何を考えているのだろうか?
「・・城を探しましょう。『ワールズ・エンド』に戻る前に。」
やがてジェシカは顔を上げると俺に言った。
そこには・・・つよい意思を瞳に宿したジェシカがいた—。
結局、城は見つからず・・・時間切れとなってしまった俺達は再び『ワールズ・エンド』へ戻って来ると、そこには地面に倒れている白髪の男とアラン王子がいた。
どうやら長い時間魔物達と戦い続け・・・疲労困憊で起き上がる事すら出来なくなっていたようだった。
そしてアラン王子がジェシカにとんでもないことを言って来たのだ。
「そう言えば・・ジェシカは俺の聖女だったよな。ひょっとして・・・傷以外も治せるんじゃないか・・・?」
「え・・・?」
ジェシカの戸惑う声。・・・勿論俺も突然何を言い出すかと思った矢先・・・。
アラン王子がジェシカにいきなり口付けをしてきたのだ。
『!!』
な・・・なんて事をしてくれるのだ?!アラン王子は・・・っ!
思わず仮面の下で歯を食いしばる。
しかし、俺は次の瞬間驚いた。
何と2人の姿が一瞬眩く光り輝き・・・アラン王子の体力が完全に回復したではないか。
一方のジェシカは顔を真っ赤にして抗議しているが、アラン王子はさらにジェシカに抱き付いてこようとする。
そんな事・・・させるかっ!
アラン王子よりも先に俺はジェシカの腕を掴むと自分の腕の中に抱きしめた。
「お・・おいっ!お前・・・か・・勝手に俺のジェシカに触るな・・。」
白髪の男が苦しそうな顔で俺に抗議してくる。
うるさい・・・誰がお前のジェシカだって?
「そうだっ!貴様・・・馴れ馴れしくジェシカに触れるなッ!」
アラン王子・・・お前にそんな台詞を言う資格はない!勝手にジェシカにキスしたのは何処のどいつだ?!
だから俺は激しく首を振り、ますます強くジェシカを背後から抱きしめた。
「あ、あの・・・離して貰えますか・・・?」
ジェシカが困り顔で俺に訴えて来る。
『駄目だ。手を離したらお前は白髪の男に襲われてしまうかもしれない。』
そうだ、さっきから・・・あの白髪の男がじっとジェシカを見つめている。あの目は・・・俺が手を離せばジェシカを捕らえて何をしでかすか分からない目つきだ。
そこでジェシカはアラン王子にデヴィットを馬に乗せて神殿に戻って貰うように頼み込んだ。
そうか・・・あの聖剣士は・・デヴィットと言うのか・・・覚えておこう。
「おい!何だ、その話は!ジェシカッ!俺も・・・アラン王子と同じ事をお前にすればきっと体力が回復するはずなんだ、だから・・・っ!」
しかし、デヴィットはその決定に不服があるのか、地面にだらしなく寝そべったまま声だけは威勢よく抗議した。
・・・一発殴ってだまらせてやろうか・・・?
するとジェシカが言った。
「すみません。人前でああいう真似は嫌です。アラン王子も・・・二度とあんな真似はしないで下さいね。」
「「なら人前じゃ無ければいいんだなっ?!」」
こ、この男共は・・・!ジェシカの側にいるのは紳士な男だと思っていたが・・所詮お前達も・・・ソフィーの兵士と同じだ・・・!
ジェシカを抱きかかえたまま、俺は思わず自分の剣に手が伸びていた。
「何だ・・・お前、やる気か?」
アラン王子は俺を睨み付けながら剣に手を添える。
「くっ・・・!俺も動ければ・・・っ!」
デヴィットは・・・放っておこう。
しかし、結局ジェシカに強く止められ・・・一種即発の状態は終わった・・。
そしてアラン王子達は神殿へと帰っていく。
こうして・・・俺とジェシカの門の見張りが再開された―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます