マシュー・クラウド(モノローグ)⑤
え・・・?誰なんだ・・?あの男は・・・・
崩れ去った監獄塔の前で、長い黒髪の若い男がジェシカの頬に手を添えて愛おしそうに見つめている。そしてジェシカも目に涙を浮かべて男を見つめていた。
2人は一体・・・?俺は・・何か勘違いしていたのか?ジェシカの・・本当の恋人は実はあの男だったのか?
そして、俺は気が付いた。あの男は・・・人間では無い!あの異様に大きな耳・・そして圧倒的魔力・・・・。良く見れば雰囲気もドミニク公爵にそっくりだった。
ひょっとするとジェシカの恋人はあの男で・・・ドミニクは・・・ジェシカの代用品でしか無かったのか・・・?いや、彼女は・・ジェシカはソフィーのようなふしだらな女ではないっ!
すると魔族の男が俺をじっと見つめているのに気が付いた。
まさか・・・この距離から俺の気配を察したのか?男は一言二言何かジェシカに語り、彼女が俺を振り向いた。
「ま・・・まさか・・・私の事が心配で・・・来てくれたんですか?」
その目は・・・何処か嬉しそうに見えたのは・・俺がそう思いたかっただけなのだろうか?
だけど・・やはり彼女が他の男と親しくしている姿を見るのは辛かった。
なので俺は転移魔法で・・・逃げてしまった。
そして・・その後すぐに突如として俺の右腕に・・・グリップの形をした痣が浮かびがったのだ―。
自室に戻り、戦いで破れた服を着替える為に上半身裸になった俺は自分の右腕に奇妙な痣が浮かび上がっているのに気が付いた。
そういえば・・・神殿にいた聖剣士達全員に・・この痣があったっな。俺だけ無いことに気が付いた他の聖剣士に馬鹿にされた記憶がある。
それにしても・・・いつの間に・・?何故、このタイミングで痣が浮き出て来たのか不思議でたまらなかった。だが・・・俺はこれで正式な聖剣士になれた…証なのだろうか?今まで躊躇してあまり着用してこなかった聖剣士の正装に・・・俺は手を伸ばした—。
『ワールズ・エンド』へ向かおう―。
門の近くにはきっと魔物達で溢れかえっているはずだ・・・。
『ワールズ・エンド』に着いた俺は死闘を繰り広げていた。
門は俺が予想していた通り、ものの見事に破壊され、黒く渦を巻くよう空間が出きていて、そこから魔物達が這い出て来る
あの後も絶え間なく魔物達が襲い掛かって来ていた。
くそ・・・っ!これではきりが無い。
その時、俺は見た。巨大な青いオオカミが突如として神殿に現れた。そして・・その背中にはジェシカと・・若い男が乗っていた。
そうか・・・。きっとあの魔族の男がオオカミに変身したのだろう。オオカミの身に纏わりついているオーラがあの魔族の男と同じだったので俺は瞬時に気が付いたのだ。
オオカミは鋭い咆哮を上げ・・・瞬時に敵を一掃する。
す、すごい・・・流石魔族の力だ・・・。だが、俺も負けていられないっ!
俺はアラン王子達には見つからない様な場所で死闘を繰り広げ・・・ようやく全ての敵を一掃したところで・・・彼等の前に姿を現した。
俺を見ると、何故かその場にいた男達が全員口論を始めた。
一体何なのだ・・・・?戸惑っていると・・何故かジェシカが俺に近付きて来て声を掛けて来た。
「あの・・・この間は色々お世話になりました。」
ああ・・・・やはり、ジェシカは・・・美しかった。出来れば・・・ずっと側にいて彼女を見守っていたい。だが・・・彼女の周りにはあまりにも多くの男が群がり過ぎていた。とても・・・こんな不気味な鉄仮面を被らされた俺の出る幕ではない。
「後・・・、折角私を心配して嵐の晩に監獄塔に来て頂いたのに・・・あんな・・追い返すような真似をして・・すみませんでした。」
ジェシカの言葉に、あの時感じた惨めな気持ちを思い出し・・思わず視線をそらせてしまった。
するとジェシカは一瞬悲し気な顔を浮かべる。それを見て俺の胸はズキリと痛んだ。
「こちらに・・・来て頂いたと言う事は・・・この場所で見張りをして頂けると・・・解釈しても宜しいのでしょうか?」
何だ?そんな話し合いを彼等はしていたのか?だが・・・ジェシカの頼みをこの俺が断るはずがない。そこで俺は大きく頷き、自分の意思を示した。
「本当ですか?どうも有難うございます。あ、そう言えば自己紹介が未だでしたね。私は・・ジェシカ・リッジウェイと申します。よろしくおねが・・・。」
俺は目の前のジェシカが愛し過ぎて、我慢が出来ずに思わず衝動に駆られて彼女の右腕を掴んで引き寄せ・・・・強く自分の胸に抱きしめていた。
ジェシカ・・・。俺はお前を・・・
しかし、結局それを見とがめた男達の1人が俺からジェシカを奪い去ってしまった。
そしてジェシカが俺も門番をしてくれることになったと説明しても・・・誰一人俺が仲間に加わるのを反対する。
するとそれを聞いたジェシカがとんでもない提案をしてきたのだ。
それなら自分が俺と一緒に見張りをすると・・・・。
この時ほど・・・嬉しかった事は無かった―。
今、俺とジェシカは『ワールズ・エンド』で焚火をしながら2人きりで見張りをしていた。
ジェシカは自分はお荷物になるかもしれないと思うと申し訳なさそうにしているが・・・何故、そんな風に思うんだ?俺は・・・本当に自分でも不思議に思うのだがジェシカが側にいてくれるだけで、会話はクリアに聞こえ、閉ざされていた視界は広がり、仮面を被らされている事すら忘れられるような感覚に陥り、さらに今ならどんな敵にだって・・・負ける気はしないのに・・・。
ジェシカは自分が寝ずの番をすると言っているが・・・か弱いお前にそんな真似をさせられるはず無いだろう?大丈夫だ、ジェシカ・・・。俺がお前を守ってやるから・・・どうか側にいてくれ・・・。
ふと見るとジェシカが身体を寒そうに震えさせている。・・・毛布が必要だな・・。
魔物の現れる気配は無い。
念の為にジェシカの周囲にシールドを張ると、俺は彼女に休むようにいい、毛布を取りに神殿へと戻った。
ジェシカの元へ戻ると彼女はスヤスヤと眠っている。
そっと毛布をかけると、オオカミの遠吠えが聞こえ、同時にぱちりと彼女が目を覚ます。
そして・・・俺と会話をしたいのだろうか。筆談しようと言ってきたのだ。
これには流石の俺も驚いた。今まで・・・誰一人として俺と意思疎通を図ろうとする人間は誰もいなかったからだ。
こうして・・・俺とジェシカの一時の語らいの時間が流れたのだが・・あるきっかけでジェシカが俺の鉄仮面を外そうと試みた。
途端に激しい激痛に襲われる。締め付けた仮面の内部からは鋭い刃が飛び出し、容赦なく俺の頭部を切り着ける。
久しぶりに味わうこの激痛に・・・意識がもうろうとする。
ジェシカはそんな俺を泣きながら見つめ・・・回復するまでの時間・・・ずっと手を握りしめていてくれた。
ジェシカ・・・出来れば俺もこの忌まわしい鉄仮面を外したい・・・。お前と・・・筆談では無く会話が出来たら・・・どんなにか幸せなのに。
だけど、俺は彼女が側にいてくれるだけで、満足しなくてはいけないのかもしれない。彼女が側にいるだけで、俺が醜い鉄仮面を被らされている事を忘れさせてくれるからだ。そして・・・あの恐ろしい仮面のささやきも・・・・すっかり息を潜めている。ジェシカ・・・やはり本当の聖女は・・お前なんじゃ無いか・・・?
だからソフィーは・・・お前の命を狙っていたんじゃ無いか・・・?
ジェシカはアメリアと言う俺を以前看病してくれた女性の話をしてきたが・・・彼女はおれにとっては何でもない間柄だ。
俺はお前さえ・・・いてくれればいいんだ―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます