※第7章 8 私は仮初の聖女 (大人向け要素含む)
『ワールズ・エンド』から神殿にある仮面の剣士の自室に戻ると彼は言った。
『また仮眠を取ったら湖にある城を探しに行ってみよう。今度こそ・・アメリアを見つけ出すんだろう?』
「はい、一刻も早く見つけて・・・助け出さないといけません。」
『そうか・・・。お前はどうする?神殿内はソフィーの兵士がいて・・・危険だ。かと言って学院に戻す訳にもいかないし・・・セント・レイズシティに行って魔物が現れたりしても危険だ。・・・・出来ればお前に俺が仮眠中、この部屋にいて貰いたいのだが・・・。それにお前だって仮眠が必要だ。生憎ベッドは一つしか無くて・・狭いかもしれないが・・一緒に休むか?』
「え・・・?」
『い、いや・・・。それはやはり、色々・・・まずいか・・・。』
言いながら彼はこちらから視線を逸らせた。・・・ひょっとすると彼は照れているのかもしれない。意外と仮面の下のその素顔は顔が赤くなっているのかも・・・。
「狭くても私は別に構いませんよ。・・・貴方がそれでよければ。」
『え?』
「すみません。実のところ・・・何もしていないのに私も疲れていて・・・出来れば仮眠を取りたいなと思っていました。もし迷惑でなければ・・隣で休ませて貰ってもいいですか?」
『あ、ああ・・。わ、分かった・・。それじゃ着替えるから・・。』
彼が言ったので私は部屋の隅に移動して背中を向けると言った。
「はい、どうぞ着替えして下さい。」
『ああ・・。』
少しの間、ガチャガチャと鎧を外す音や衣擦れの音が聞こえてきて、やがて彼が声をかけてきた。
『着替えたぞ。・・・では仮眠を取るか・・・。』
「はい。」
彼がベッドに横たわり、布団をまくったので私は失礼しますと言って、布団の中に入れて貰った。
2人で背中合わせにベッドに横たわる。
『・・・・眠れそうか?』
「はい。・・・おやすみなさい・・。」
彼の隣は安心する・・・。そして私はすぐに眠りに就いた・・・。
あ・・・まただ・・・。
また私は夢を見ている・・・。
私の目の前にはとても美しい女性が・・・ソフィーが目の前に立っている。
だけど彼女の目はとても悲しげだ。
ごめんなさいと彼女は言う。
今の自分には聖女としての力が何も残されていないと。
全てはあの人に奪われてしまったの。
力になれなくてごめんなさい・・・。
だから私は言う。
それなら・・・私の魔力を全て貴女の物にして。
元々私の持つ魔力は・・・本来は私が持つべき魔力じゃなかったのだから。
全部、貴女に返します。
けれど彼女は目を伏せて言う。
そんな事をしたら・・・貴女は今迄持っていたものを全て失う。私にはそんな真似は出来ないと彼女は首を振る。
だけど・・・ソフィー。
あなたはこの世界の真の聖女。貴女の力が無ければこの世界は救われないのだから・・。
そして私は両手をソフィーの前に差し出す。
躊躇っていたソフィーはやがて私の手を取り・・・。
「あ・・・。」
不意に私は目が覚めた。何故か頭がズキズキ痛み、頬は涙で濡れていた。
ああ・・・そうだったのか・・・。
ベッドから起き上がり、彼を見るとまだ気持ちよさげに眠っている。
彼の肩に少しだけ私は触れた。
・・・恐らく私がこうしていられるのも残り僅か・・・。
私がこの世界にやって来たのは・・ちゃんと理由があったのだ。
この物語を書いたのは他でも無い私自身。
だから・・・私は守らなくてはいけない。ハッピーエンドを迎える為に・・・。
ソフィーの元へ向かうのだ。そして私は私自身が持つ全ての魔力を彼女に与える。
それが私に課せられた役目・・・。
ベッドの中で彼が身じろぎをして顔を私の方へ向けた。
『目・・・覚めたのか。』
「はい、たった今・・目が覚めました。』
私の手はまだ彼の肩に触れたままだった。
「あ・・・ご、ごめんなさい・・・。」
慌てて手を引こうとすると、彼にその手を強く握り締められ腕を引かれた。
そのまま私は彼の胸の中に倒れ込んでしまう
すると彼は私の頭を押さえつけ、耳元に口を付けるようにして話しかけて来た。
『俺は・・・もっと強くなりたい・・・。あの時のアラン王子・・お前に口付けしたら一瞬で体調が回復していたよな?・・お前の聖剣士になれば・・触れ合えば俺もあんな風になれるのか?・・・どうすれば・・俺はお前の聖剣士になれるんだ・・?』
私は彼をじっと見つめた。
・・・恐らく私がソフィーに自分の魔力も・・・聖女としての力も全て渡せば・・・アラン王子も、デヴィットも・・そして公爵もきっと強い絆で結ばれた彼女の聖剣士になるのだろう。今私の目の前にいる彼も・・・。
その時私の左腕が輝きだし、それに反応するかのように彼の右腕も輝きだした。
『・・・?』
彼は突然輝きだした自分の右腕を不思議そうに見つめている。
私は身を起こし、彼の枕元に自分の両腕を付いて見下ろす様に言った。
「聖女と聖剣士の・・・誓いの契りを交わせば・・・私達は正式な関係に・・なれます・・・。」
『・・・!』
彼の一瞬息を飲む気配を感じた。が・・・やがて彼は言った。
『いいか・・・・・?』
「・・・。」
『俺を・・・お前の正式な聖剣士に・・させてくれ・・・。』
彼は私を抱き寄せると頭の中に囁きかける。
そう・・・。偽物のソフィーは恐ろしい力を持っている。彼女は封印を解いて・・・きっと魔界へ向かったに違いない。
そしてソフィーは恐ろしい敵となって・・・いずれは真の聖女、ソフィーの前に姿を現すだろう。
その為には・・・より強い絆で結ばれた聖剣士が必要になるはず・・・。
私は彼の胸に顔を埋めると言った。
「私の・・・聖剣士になって・・下さい・・。」
その言葉を聞いた彼は私の事をかき抱くように抱きしめ・・躊躇いがちに私の服に手をかけた。
・・こうして私達は正式な聖女と聖剣士の関係になった―。
それから2時間後—
私達は再び、湖を訪れていた。
『今回は時間に余裕があるから、念入りに探す事が出来そうだ。』
馬上で彼が私の肩を抱き寄せながら言った。
『気を付けろ・・・。この辺一帯に・・・恐ろしい魔族の気配を感じる・・・。』
「え?」
不意に恐ろしくなり、私は彼にしがみ付いた。すると彼は私を一瞬強く抱きしめると言った。
『大丈夫。怖がることは無い。俺は・・・お前の聖剣士だ。必ずお前を守り抜く。俺の剣にも・・・・お前の祝福を与えてくれるか?』
彼は私に聖剣士の剣を預けて来た。私は頷き、剣に口付けする。
すると剣は光を帯びて輝きだした。
『ジェシカ・・・お前にも俺の祝福を・・・。』
彼は仮面越しに私に口付けすると言った。
『俺の側から・・・離れるなよ?』
「・・・はい!」
そして彼は私達は湖畔の森にたたずむと言われている城を探し始めた。
『・・・東の方角から・・・強い魔族の気配を感じる。』
探索を始めて約30分後・・・彼が言った。
「え・・?ま、まさか・・・・?」
『ひょっとすると・・・あの気配の向こうに城があり、そこにアメリアが捕らえられているのかもしれない。』
一気に緊張が高まり、私は自然と彼のマントの裾を力を込めて握りしめていた。
すると彼が私の頭を撫でながら言った。
『大丈夫、なにも心配はしなくていい。必ず俺はお前を守り、ソフィーに囚われたアメリアを・・・救い出す。例えどんな強敵が立ち塞がろうとも・・俺は絶対に負けない。何故なら・・・俺には聖女がついているからな。』
聖女・・・。
だけど、今の私は仮初の聖女。
アメリアに・・・いえ、ソフィーに会ったらすぐに私は自分の持っている魔力を・・・聖女の力を全て彼女に返すのだ。
もうすぐ自分の与えられた役目を終える時がやって来る。
私は瞳を閉じて彼に寄り添った。
それまでは・・・もう少しだけ貴方の側にいさせて下さい―。
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