第5章 9 逃げられない訳

う〜ん・・・何だか周りが騒がしいなあ・・・。


「うん、やっぱりお嬢さんは眠っている姿も綺麗だよね。」


「ほんとだよね~まさに眠れる美女って感じだよ。」


「おい、あまりジェシカの側で騒がしくするな。目を覚ましてしまうだろう。もっと寝かせておいてやれ。」


「そう言いながらお前は、何故ジェシカの一番近くにいるんだ?!」


何だか揉めているみたいだけど・・・。徐々に目が覚めてきてパチッと目を開け・・・


「キャアアアアアッ!」

思わず悲鳴を上げてしまった—。


何で?何で?いつの間にか私はリビングのソファで寝かされ、それをデヴィットを始めとした全員が私をグルリと取り囲み、見下ろしているでは無いか。


「よう、お早う、ジェシカ。目が覚めたか?」


ニコリと笑うデヴィット。


「・・・よく眠れたみたいだな。その・・・良かった・・・。」


アラン王子は照れたように言う。


「そんなの当たり前じゃ無いか。なんてったって僕の隣で眠ったんだからさ。」


ダニエル先輩は言いながら、するりと私の頬に手を添え・・・・。


「「ジェシカに触るなっ!」」


デヴィットとアラン王子に怒鳴られた。・・・・何だかこの2人も徐々にシンクロ率が上がっているような気が・・・?



「そ、そんな事より!何故ベッドで眠っていたはずなのに、私はここで寝かされていたのですか?!」


起き上がると全員を見渡しながら言った。クッ・・・!寝姿をこんなに大勢の男性達に見られるとは・・・っ!


「そんなのは当たり前だろう?いつどこでソフィーの刺客が現れるか分からないんだ。片時もお前から目を離す訳にはいかない。」


デヴィットが言う。


「全員朝になって目が覚めたから、ジェシカ・・・お前をリビングに移したのだ。」


アラン王子が説明する。


「ここで皆で朝のコーヒーを飲んでいたんだよ。」


ダニエル先輩がコーヒー片手に言う。



「「おはよう、ジェシカ。」」


今朝もシンクロ率マックスのグレイとルーク。う~ん・・・今に姿まで似て来るのでは無いだろうか・・・?


「さて、お嬢さんも起きた事だし、皆で下のレストランに朝食を取りに行かないかい?」


マイケルさんの提案に、全員が乗る事にした。



 着替えを終えて部屋から出て来ると、全員がもう待機していた。


「さあ、行くか。ジェシカ。」


当然のように手を取って来るデヴィットにアラン王子が噛み付いた。


「だから、何故お前が仕切る?いや、それ以前に必要以上にジェシカに接触するな!」


「何だと・・・?また俺とやる気か・・・?」


「ああ。望むところだ。」


激しく火花を散らす2人。全く・・・結局何処まで行ってもこの2人は相性が最悪なのかもしれない・・・。


「ジェシカ、あんな2人は放っておいて、行こう。」


睨み合いを続けるデヴィットとアラン王子を尻目にダニエル先輩が手を取る。


「そうですね・・・行きましょうか。」


そして私たちは2人を残して朝食を取りにレストランへと向かった・・・。



「うん、やっぱりこのホテルの食事は本当に美味しかったね。一体どんな調味料を使っているのだろう・・・?」


マイケルさんは食後のコーヒーを飲みながら腕組みをしながら言った。


「確かに、ここの食事は美味しいですよね。ガイドブックにも乗るくらいだし。」


本好きのグレイが言う。


「僕の領地もね・・・中々食文化が発展していて、美食家が大勢いるけど、このホテルの食事も結構美味しいな。」


ダニエル先輩の話に思わず耳を傾ける。へえ~そうなんだ・・・ちっとも知らなかった。

一方無口なルークは黙ってコーヒーを飲んでいた。

うん・・・・この時間・・・平和だなあ・・・。こうしていると今朝見たあの嫌な夢を一瞬忘れてしまいそうになる。

アラン王子を救い、マリウスは去って私の未来は大分変ったと思ったけど・・結局私は牢獄の様な場所に捕らえられていた。

・・・やはり私の未来は変わらないのだろう・・・。


「どうしたの?お嬢さん。何だか元気が無いように見えるけど?」


私の様子に気付いたマイケルさんが声を掛けて来た。


「本当だ。ジェシカ・・・何だか顔色が悪いようだけど・・・大丈夫?今日は1日部屋で休んでいた方がいいんじゃないの?」


ダニエル先輩は心配そうに私を見つめる。



「いいえ・・・そんな悠長な事は言っていられないんです。いつ何処でまたドミニク様がやって来るか分からないので・・・。」


声を震わせて言うと、それまで黙っていたルークが言った。


「そうしたらまた宿泊先を変えれば済む事なんじゃ無いか?」


「ああ、そうだ。そんなに心配なら今、このホテルを引き払って別の場所を探せばいい。」


グレイも言うが・・・・。


「それでは・・・・駄目なの!私はもう・・・逃げられないのよ・・!」

思わず感情に任せて・・・叫んでいた。


「何が駄目なんだ?」


背後からデヴィットの声が聞こえた。


「あ・・・・。」

思わず俯く。


「ジェシカ、一体何が駄目だと言うんだ?」


アラン王子が私のすぐ傍まで来ると肩に手を置いて来た。


「ア・アラン王子・・・。」

声が震えてしまう。


「ジェシカ・・・お前・・まだ俺達に話していないことがあるだろう?全部正直に話すんだ。・・・包み隠さず。」


デヴィットは私の隣に座っていたグレイを追いやると、隣に座って来た。

何故、席を移動しなければ・・・とブツブツグレイは言うものの、デヴィットは完全にそれをスルー。


アラン王子までいつの間にか隣に座ると、2人が同時に言った。


「「さあ。話せ、ジェシカ。」」


「はい・・・・。」

私はついに観念した—。




「この間・・・ドミニク様があの部屋にやって来た時の話です・・・。ドミニク様はまだ完全にはソフィーに支配されていないようですが、1日の大半はソフィーから呪縛を受けていました。そして・・・記憶が途切れ途切れで、いつも思いがけない場所で自分の意識を取り戻しているらしく・・・かなり精神的に参っているようにも見えました。」


私の話にアラン王子が驚いた様子で言った。


「え・・・?そうだったのか・・?俺はてっきり・・・あの男はもう完全にソフィーの虜になっていると思っていたが・・・。」


「それで・・他には?」


デヴィットが続きを促してくる。


「そ、そして・・・私の紋章と・・ドミニク様の紋章が反応して光って・・・。」


「何?!ドミニクの紋章が光ったのか?!ま・まさか・・・・?!」


アラン王子が顔色を変えてよろめく。デヴィットは言葉を無くしている。


「ジェ・ジェシカ・・・・き、君は・・・。あ、ああ・・でもそう言えば・・・君とドミニク公爵は・・・婚約者同士だったものね。そういう関係になっても・・おかしくは無いか・・。」


ダニエル先輩は俯きながら苦し気に言う。

グレイとルークは開いた口が塞がらないし、マイケルさんは相変わらず状況が理解出来ず、グレイとルークに説明を求めている。


「そ、それで・・・・。」


私が言いかけるとデヴィットが悲鳴じみた声を上げた。


「何?!まだその上2人の話は続くのかっ?!」


デヴィットは大分混乱をきたしているようだ・・・。続きも何も私に話を聞きだそうとしているのは彼自身なのに・・・。


「はい・・・。そしてドミニク様は言いました。そ、その・・・私と・・・関係を・・・持った時・・・に・・逆マーキングをしたと・・・。」


うう・・・。こんなに大勢の男性陣の前で私と公爵が男女の仲になった事を告白しなくてはならないなんて・・・・。恥ずかし過ぎて今すぐこの場から逃げたい位だ。


「逆マーキング・・・?そんな事が可能なのか?!」


アラン王子は信じられないと言わんばかりの表情を浮かべている。


「くそっ・・・っ!そ、それじゃ・・・ジェシカが何処に行っても・・・ドミニクに居場所を把握されてしまうって事か?!」


デヴィットは悔しそうにテーブルを叩いた。


「はい・・・だから・・私達はゆっくり休んでいられないんです。一刻も早くノア先輩を助け出して・・・そして・・。」


私はその後の台詞を言う事が出来なかった。


「ジェシカ・・・。そして・・・どうするんだい?」


ダニエル先輩が優し気に声を掛けて来る。私は顔を上げて言った。


「私は・・・ソフィーと公爵に捕らえらます・・・。」


そして彼等は息を飲んで私を見つめた—。





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